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大型研究プロジェクト「里海の生態系サービスの経済評価」が始まります

 このたび、環境省の「平成26年度戦略的研究開発領域課題(S-13)」の一環で、「持続可能な沿岸海域実現を目指した沿岸海域管理手法の開発」というプロジェクトがスタートします。全部で15のサブテーマがあり、このうち立命館大学・政策科学部では、「里海の生態系サービスの経済評価」というサブテーマで、仲上健一先生(政策科学部・特別任用教授)をリーダーとして、小幡教授、高尾教授、上原准教授、太田助教が研究を行っていきます。
今回はその概要について、仲上先生と太田先生(政策科学部・助教)に聞きましたので、みなさんにご紹介をさせて頂きます。

 

Q1:「里海の生態系サービスの経済評価」とありますが、どのような内容なのでしょうか、もう少し詳しく教えてください。

A1:はい。このテーマは、3つのステップを踏んでいきます。第1は、沿岸海域で行われてきた、様々な開発プロジェクトのレビューを行い、データベースにまとめていきます。そして現状の評価を加えることによって、これまで私たち人間が行ってきた活動に起因する沿岸域に与え続けてしまった負荷の計算をしていきます。「沿岸」とありますが、なにも海のそばの海岸線という意味に限定するわけではなく、海につながる河川の流域も対象に含まれます。またこの沿岸域を特に「里海」と称して、人と自然環境とのつながりを明確に意識したものとしています。人間は沿岸域の資源を様々な形で管理して利用してきました。この人と自然とが形作るシステムが里海といえます。

里海
里海

Q2:フィールドはどのようなものを想定しているのでしょうか?

A2:現時点では、日本国内の全47都道府県が対象ですが、そのなかでも、瀬戸内海・三陸沿岸・日本海沿岸の3エリアを重点的に取り扱っていくことを考えています。

Q3:「里海」ということばはあまり聞いたことがありません。どのようなものでしょうか?

A3:例えば環境省は、里海を「人の手が加わることにより、生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域」と定義しています。「海だけ」・「陸地だけ」ではなく、その両者を一体のものとして扱うことで、生態系や物質循環の機能(ここでの物質とは、適正な栄養塩や水質など)をうまく維持していくことが可能となります。そのためには、海の水質改善だけではなく、森林の管理や、私たちが海産物(魚介類・藻類)などを消費していく(もちろんバランスを考えたうえで!)ことも大きく影響していきます。

里海
里海

Q4:なるほど、里海という言葉の奥深さが少しだけ見えた気がします。次のステップは?

A4:第2のステップは、生態系サービスの貨幣価値を算出します。ここでの「生態系サービス」とは、海域が私たちに与えてくれる恩恵の総称です。例えば、食品(魚介類など)の提供や、レジャースポットとしての恩恵などがわかりやすいかと思います。他には、気候調整や栄養循環等のサービスもあります。
 貨幣価値への換算にあたっては、「代替法」(そのサービスを別の商品や施設等に置き換える場合にかかる費用)、「ヘドニック法」(そのサービスに関連し、土地や賃金など特定の商品に反映される付加価値)、「CVM(仮想評価法)」(人々が付加価値を感じるかもしれないオプションの価値)などがあります。
 例えば先行研究の中には、瀬戸内海の水質改善により、1年当たり約1兆3,000億円の便益(私たちにとってメリットとなるもの)があり、それにかかる費用は約1兆5,000億円という試算結果を出しているもの(*)もあります。
*岡市友利・小森青児・中西弘編、「瀬戸内海の生物資源と環境」、1996、恒星社厚生閣

Q5:1兆円とはすごい金額ですね。他に特徴的な手法はあるのですか?

A5:評価手法としては、Costanza(コスタンザ)評価法というものも使います。これはロバート・コスタンザ氏を中心とした研究グループが1997年に発表した論文で用いた評価手法であり、17種類の生態系サービスの価値は、全世界で毎年、30兆ドルという試算結果を出しました。日本のGDP(2012年度、実質国内総生産額)はおよそ517兆円であり、1ドルを100円とすると、約5兆ドルということになります。これと比べても、その価値の大きさを感じてもらえるのではないかと思います。

Q6:第3のステップは?

A6:第3のステップでは、サステイナビリティ(持続可能性)という視点から、先に述べた3つのエリアで、自然環境価値・経済的価値・社会的価値の評価を行います。

研究会風景
研究会風景

Q7:サステイナビリティといいますが、どのようにして評価を行うのでしょうか?

A7:これまでサステイナビリティの評価手法が数多く提案されていますが、研究者及び政策決定者のコンセンサス(合意)が得られた、確立された手法はありません。一般的には様々な指標を用います。例えば「1人あたりのGDP」や「GDPあたりの石炭消費量」などがあります。少し変わったところでは、「保安林の面積」や「耕作面積」などというのもあります。本プロジェクトでは、こうした指標の選定から、複数の指標の統合方法、そして過去・現在・未来のダイナミックな変化を捉えた新しいサステイナビリティ評価手法を開発・適用します。

Q8:最後に、このテーマの到達点といいますか、目標を教えてください。

A8: 最終的には、違うテーマ(視点)で研究を行ってきた他の大学や研究機関とその成果を統合し、2050年の達成を目標にした「きれいで、豊かで、賑わいのある持続可能な沿岸海域実現」に必要な政策の提言を行います。これまで、沿岸海域に関心をもつ人々は漁業に携わる人々(漁民)が中心であったと思いますが、漁民が全人口に占める割合は0.2%にとどまっています。今後は残りの99.8%の人々にも沿岸海域に対する関心を持ってもらい、沿岸海域の単なる保全から一歩進んで、「持続可能な発展」に向けた取り組みの実現に貢献できればと考えます。

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