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総合心理学部
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2016.9.21 up

精神医学における自己愛は、
必ずしも悪いものではない?

八木 保樹

ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)は性的衝動の対象によって、自体愛、自己愛、対象愛の発達段階に分けました。異性の親に対する性的衝動を、自我によって抑圧・断念することが重要な課題とされます。この課題が果たせず、喪失対象を心の中に取り入れ、内的表象としてエネルギーを備給することが、自己愛の典型とされました。フロイトにとって自己愛は、対象関係の欠如という問題で特徴づけられる不適応なものでした。

オットー・カーンバーグ(Otto Kernberg)は、フロイトの流れを汲んでいるので、「代償として作り上げた幻想は断念されるべきである」という立場をとりますが、もっと広く、人間の発達を内的世界あるいは内的表象の健全な発達という観点から理論化しました。人は、誕生後まもなく、自他未分化の体験を内的表象として取り入れた時から、体験を重ねて、安定し調和のとれた内的世界を修正・進展させ、たとえば、愛し愛されていると感じる対象が内在化されることで、内的世界は、個人の一種の心的資源となります。これを誇り頼ることは、正常な自己愛といえます。しかし、統合すべき現実を、自己についても他者についても良い部分の表象だけで構成して、統合の課題から逃げた者が、自己愛性人格障害(Narcissistic Personality Disorder)といえます。

成熟した自己愛は、
健康と生産性の源泉

ハインツ・コフート(Heinz Kohut)は、精神分析理論(フロイト、マーラー、カーンバーグ)における「愛着と断念という課題」は適応の基準ではなく、発達論的倫理観であると判断しています。コフートは、自体愛、自己愛、成熟した自己愛という発達段階を主張します。彼は、共感的応答性によって自己愛の発達に寄与する他者のことを「自己対象」と名づけました。自己愛の原型として、自己対象(たいていは母)の賞賛や承認によって生じる「誇大自己」、自己対象(両親のうちの少なくともどちらか)が提供してくれる「理想化された親イメージ」が重要です。やがて、前者は、野心や向上心、後者は、価値規範や理想に結実し、この両極をつなぐ才能・技能を加えた3要素からなる中核自己が形成されます。これが成熟した自己愛であり、これは、緊張緩和、自己評価調節機能を持ち、健康と生産性の源泉とされています。

キーワード
自己愛
自尊心

文:八木 保樹

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