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総合心理学部
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2017.2.9 up

知られている心理現象を
あえて研究する面白さ

中妻 拓也

この写真はある心理学の概念を現象的に表しています。ヒントは矢印が指している人たち。いったいどんな現象を表しているでしょうか?
正解はEmpathy。心理学では「共感」と日本語訳がされ、定義されることが多い概念です。このコラムでもEmpathyを共感と訳して話を進めていきます。

さて、皆さんは共感という言葉を聞いたことがありますか? きっと、会話やメディアで一度は耳にしたことがあるであろう、ありふれた言葉です。 では、共感とはどのようなものかわかりますか? 道徳や思いやりのもとでしょうか? 他者の気持ちがわかることでしょうか? 無意識に感情を共有することでしょうか?

今挙げただけでも、共感に対して抱くイメージはさまざまなように思えます。ただし、「他者と同じような気持ちになる」ということは共通しているのではないでしょうか。

心理学用語「Empathy」には
7つの用法がある?

上の写真はパーソナリティ(Personality)の特性論者として知られるゴードン・オールポート(Gordon Allport)が、1937年の著書の中でEmpathyを表す写真として掲載したものです。「この写真のどこが共感?」と思われるかもしれませんが、ここには少し言葉のトリックがあります。

心理学におけるEmpathyの語意は、時代や研究者によって、「共感」、「同情」、「感情移入」と意味づけが違っています。このコラムの3行目で「共感と日本語訳がされ、定義されることが多い概念」と書いたのはこういった経緯があるからなのです。つまり、オールポートはEmpathyを感情移入の意味で使っていました。写真の主題となっているEmpathyを表しているとされる矢印の人たちは、「棒高飛びをしている人と同じように片足を上げているから感情移入している」とされています。よって、この写真はEmpathyを表しているといえるのです。
言葉の意味が、時代や研究者の意向によって異なるとはなんともややこしい状態です。Batson(2011)は、Empathyという用語には現在でも7つの異なる用法が存在しているとしています。

このように、日常で何気なく使われている言葉や概念でも、学術的な見地に立ってみると実はとても複雑で、その意味を一言では言い表せないことがあるのです。日常的に知られている心理現象をあえて研究してみると、思ってもいない複雑さにめぐり合うことがあります。それは心理学の面白さかもしれません。

キーワード
Empathy
共感
日常語
定義
引用文献
Allport, G. W. (1937). Personality: A psychological interpretation. New York: Holt.
Batson, C. D. (2011). Altruism in humans. Oxford: Oxford University Press. (菊池章夫・二宮克美(訳)(2012).利他性の人間学:実験社会心理学からの回答 新曜社)

文:中妻 拓也

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