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総合心理学部
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2016.5.25 up

心理学×経済学?
昨今注目されている行動経済学とは

森 知晴

行動経済学(Behavioral Economics)は「心理学と経済学(Psychology and Economics)」とも呼ばれる領域の学問です。創始者はダニエル・カーネマン、エイモス・トヴェルスキーという心理学者で、カーネマンは行動経済学を唱えた功績でノーベル経済学賞を受賞しています。

最近、行動経済学が注目されるようになった背景には、経済学が対象とする問題が移り変わってきたことがあります。かつて経済学では、大きく抽象的な経済現象、例えば、国内総生産(GDP)、金利、国債などのマクロ経済現象を対象に研究が行われてきました。ところが研究が進むにつれ、より小さな単位である「個人」に対する関心が高まってきました。少人数間のやり取りを記述する「ゲーム理論」の経済学への応用が始まったことがひとつの要因です。また、実験室における経済行動を分析する「実験経済学」が進展したことや、コンピューターの発達により個人単位のデータがより簡単に収集・分析できるようになったことも要因として挙げられます。

個人の行動・選択を記述するには、当然人間個人の行動に対する理解が必要になります。経済学に先駆けて個人を研究対象としてきた心理学を参考に分析方法を深め、経済理論を発展させたのが行動経済学と呼ばれる分野です。

行動経済学は、私たちの行動や選択に寄り添って展開される

行動経済学が古典的な経済学と異なるのは、状況を正確に把握し自己の利益を常に最大化するような完璧な主体を想定するのではなく、より現実の人間に近い不完全な主体を想定することです。行動経済学を代表する分野をいくつか紹介しましょう。

一つ目は、「確率と意思決定に関する分野」です。従来の経済学では、確率を正しく読み込み計算したうえで行動する主体を想定してモデルを組み立てていました。しかし、さまざまな検証の結果、確率に対する認識にゆがみがあることがわかりました。株価などを扱うファイナンスの分野では、確率に対する認識が重要です。

二つ目は、「時点上の意思決定に関する分野」です。従来の経済学では、人間は「現在」と「未来」のような異時点間でも一貫した選択を行うと想定してモデルを組み立てていました。しかし、さまざまな検証の結果、一貫した選択を行わない主体が多いことがわかりました。特に、未来よりも現在を重要視してしまう「現在バイアス」と呼ばれるゆがみが生じます。「現在バイアス」は、年金などの社会保障や教育投資のような長期にわたる行動、身近なものではダイエットでも重要になってきます。

三つ目は、自分以外のことを考慮して行動する「社会的選好」です。従来の経済学では、自分の利益のみを最大化するような主体を想定していました。しかし、さまざまな検証の結果、他者の状態を考慮したり、相手の行動に合わせて行動したりする主体がいることがわかりました。このような「社会的選好」の行動は、人間関係が重要視される労働分野で重要となります。

キーワード
ゲーム理論
行動経済学
時間非整合性
社会的選好
プロスペクト理論

文:森 知晴

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