HATTORI Masasi

服部 雅史

服部 雅史
所属学部
総合心理学部
職位
教授
専門
認知心理学、思考心理学
主な担当科目
「認知心理学概論」、「思考心理学」
おすすめの書籍
ファスト&スロー 上・下ダニエル・カーネマン (著) 村井 章子 (訳) 早川書房

現在の研究テーマ(または専門分野)について教えてください。

私は、人間の「賢さ」と「愚かさ」について研究しています。これは、人間が「考える」ことについての心理学的・科学的なアプローチです。私たちは、誰もが考えることをしますが、考えることを科学することは、考えること自体とは別のことです。

なぜ、私たちは常識にとらわれて、新しいものの見方ができないのでしょうか。感情的になって、論理的に考えることができなくなることがあるのは、なぜでしょうか。またその反面、鋭い直感やひらめきの力を持ち、コンピュータには到底できないような優れた判断を瞬時に下すことができます。さらには、創造力にあふれた芸術作品を創ることもできます。

よく考えると不思議なことですが、私たちは、自分たちが当たり前に行っている「考える」という行為の特性やしくみについて、まだほとんど知らないのです。人間の思考に関する認知心理学は、このような心(=脳の機能)のしくみについて、科学的に解明することを目指しています。

どんな学生時代を送っていましたか。

大学生のときは、馬術部で毎日馬に乗っていました。乗馬はスポーツですが、馬をうまく乗りこなすには馬との駆け引きがあり、身体と心理の両方のスキルが要求されるところに面白さがあります。

しかし、馬に接していたから動物心理学に詳しくなったかというと、そんなことはありません。実践的理解と学問的理解は、まったく別のことだからです。動物心理学について知ったのは、ずっと後です。学生の頃は、毎朝5時から練習、夕方は馬の手入れ、昼間はアルバイト(餌代稼ぎ)と、お世辞にも勉強熱心な大学生とは言えませんでした。

大学院に入って、本格的に勉強をしました。そこで、人間と人間以外の動物の違いは何かと恩師に問われました。今では、人間以外の動物に心を認めないという心理学者はほとんどいませんが、動物に意識や知性があるかと問えば、今でも研究者ごとに答えが違います。この難問については、私も一生かけて答えを探っていきたいと思っています。

現在の専門分野を志した理由・きっかけを教えてください。

高校生の頃、教科書には載っていないオイラーの公式という神秘的な数式の存在を知り、純粋数学の理論的な美に衝撃を受けました。また、その頃、何気なく地元のデパートでやっていたピカソ展を見に行って、そのとてつもないパワーに魂を揺すぶられました。そうした体験をするうちに、人間の創造性というものに興味が向いていきました。さまざまな知的活動を行う人間の心や脳は、どのようなしくみになっているのかといったことです。

こうしたことを明らかにするためには、文系・理系といった区別はもちろん、学問領域の境界を超えたアプローチが必要であろうと何となく感じて、人間の心と行動について総合的に学ぶために大学に進学しました。やがて、自分がやりたかったことは「認知科学」や「認知心理学」と呼ばれる学問であることを知りました。その後、気づいたら研究の道に進んでいました。

高校生へメッセージをお願いします。

高校生から大学生にかけての数年間は、人生の中で最も多感な時期です。
この時期に考えたことや経験したこと、また友人関係は、一生の糧になります。

ですから、そうした大切な時期をどう過ごしたらよいかについて、
認知心理学者として何か言えることがあるかを考えてみました。
が、残念ながら気の利いたアドバイスは難しいことに気づきました。

「後悔しないように」という忠告はよくあります。
しかし、どうしたら後悔せずに済むでしょうか。

心理学の知見によれば、「後悔の予期」と「実際の後悔」は別であり、
さらに複雑なことに、現在進行形の幸福度と、
後から振り返ったときの幸福度は、完全に別ものなのです。

つまり、「こうなったら後悔するだろうな」と思っていても、
実際にそうなってみるとまったく後悔しないことがあり、
さらに、「つまらない」と思いながら体験したことが、
後で考えると「あれはよかった」となることも、
またその逆もあるということです。

ですから、あえて言うなら、「後悔だけはしないように」などと
強迫的に考えるようなことをしない方が、
むしろ幸せになれるのかもしれません。

一つ言えるのは、我を忘れて打ち込める対象を持つことが
幸せの秘訣だということです。

経歴・業績について