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2022.01.14

Asia Pacific Conference 2021に参加しました!

 2021年12月4日(土)から12月5日(日)にかけて、立命館アジア太平洋大学においてAsia Pacific Conference 2021が別府市にある立命館アジア太平洋大学にて開催され、アジア日本研究所メンバーらも参加しました。2020年度に参加し、コロナの広がりもあり全面的にオンラインでの開催になりましたが、2021年度は直接別府市を訪れ、直接会場で発表を行うことができました(部分的にオンライン開催を含むハイブリット形式となりました)。本研究所を軸としたパネルを4つ行いました。以下は、パネルごとの報告です(開催パネル順)。

 

パネル9:Asian Resilience to Climate Change, Disaster, and Social Transformation(12/4)

 このパネルでは、レジリエンスというテーマのもとに、各パネリストがコーヒーの栽培と生産、宗教団体の活動、災害において多様な当事者が関わるパートナーシップ、人間の記憶に関する哲学的研究の4つのテーマについて研究発表を行いました。

 一見したところ、相互に関連のないトピックに見えますが、すべてのパネリストは、 「レジリエンス」 のトピックのもとでコアとなる視点を共有しています。同パネルでは、気候変動や自然災害の脅威にさらされているコミュニティの回復力=強靭さを高めるための包括的なアプローチを開発することの重要性が強調されました。

 農業コミュニティにおける「テロワール」に基づく適応戦略の採用(Dr. アシャデオノ フィトリオ、立命館大学政策科学部助教)、災害復旧支援を提供する際の宗教団体の役割(Dr.ヌルディン・ムハンマド、アジア日本研究所)、災害管理を強化するための多様な当事者が形づくるパートナーシップ(レスエロ・マージョリー氏、アジア日本研究所)、および個人の間で災害経験を共有することの重要性(Dr.松井信之、アジア日本研究所)などの発表を通じて、共同体のレジリエンス強化に貢献する多角的なアプローチが示されました。

 結果として、今回のセッションでは、気候変動や被災地におけるレジリエンス構築の課題について、より一層の知見・理解を深め、意見・情報交換を行うことができたことで、有益な成果を得ることができました。共同体のレジリエンスを効果的に構築するためには、共同体の特性と利用可能な資源を見極めることが重要です。さらに、そのためには、関係する当事者による協力的なコミットメントが必要となってくるでしょう。

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パネル17:Realizing Islamic Values in the Contemporary Muslim Communities in Asia(12/4)

 このパネルでは、小杉泰教授(立命館アジア・日本研究機構)が進行役を務め、「イスラームの価値の実現」という主題のもと、グローバル化した世界におけるイスラームの多様な価値について発表が行われました。

 本セッションでは、4つの発表が行われ、文献調査やフィールドワークによる知見に基づいて、ムスリムの国境を越えた社会的/経済的活動および世界的な知的運動として発展が示されました。

 イスラーム法学者の活動を通じて新たに生じる国際的なコンセンサス形成をめぐる研究(Dr. 池端蕗子、日本学術振興会)、マレーシアにおけるハラール認証規格を事例としたイスラーム法規定に関する研究(Dr. 桐原翠、日本学術振興会)、改革派のムスリム思想家の一人であるハーリド・アブルファドルの重要性を扱った研究(Dr. 黒田彩加、立命館アジア・日本研究機構)、イスラーム復興の文脈におけるイスラーム法学のダイナミクスを捉えそれが現代における諸問題にどのように適合するのかを扱った研究(小杉泰教授、立命館アジア・日本研究機構)など、グローバル化したムスリムの多様な姿が描き出されたセッションとなりました。

 質疑応答では、発表者間において現代イスラーム世界におけるムスリムの多様性をめぐって、活発な議論が交わされました。

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パネル26:Asia as a Theater of Cultural Communication(12/5)

 本パネルでは、黒田彩加准教授が進行役を務めました。はじめに東アジアの漢字文化圏に代表されるように、アジア諸国は古くから文化、文学、人々の交流を経験してきたことと、四人の研究者のそれぞれの発表内容を紹介した後、研究発表が行われました。

 本セッションでは、4つの発表が行われ、アジアにおける文化交流、多民族文化の理解・受容、少数民族コミュニティのアイデンティティ構築・教育といった人文に関する多元的な知見と国際的な視点が示されました。宋詞の流伝方法を中心に詞を通じた日中韓の文化交流に関する研究(Dr.靳春雨、立命館アジア・日本研究機構)、顧太清の文学作品から見たエリート満州女性の多文化精神世界をめぐる研究(Kaihe. Aishi、立命館衣笠総合研究機構)、エスニック・メディアによる「Our Own」イメージの投影―中央アジアの韓国人ディアスポラにおける言語の役割と独立出版物の権利を取り扱った研究(Dr.李眞恵、立命館アジア・日本研究機構)、フィリピンの韓国系英語学校を事例とするアジアの英語教育産業が形づくるトランスナショナルな移動を扱った研究(Dr.李定恩、立命館アジア・日本研究所)が発表されました。

 全体として、時間的には古代から現代まで、空間的には東アジア、東南アジア、中央アジアにわたり、内容は文学、歴史、民族、アイデンティティ、ジェンダーなどに及ぶ有益で多彩な発表が行われました。

 質疑応答では、フィリピンの「one on one lesson」の実施方法や、フィリピンでの英語研修のためのビザ申請及び滞在期間の問題などをめぐって、活発な議論が交わされました。

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パネル34:Asian Medicine: Tradition and Innovation

 このパネルでは、アジアにおける医学の多様性と複雑性をテーマとして取り上げました。このパネルには、Dr.小田なら(東京外国語大学世界言語社会教育センター講師)、Dr.長岡慶(関西大学・日本学術振興会特別研究員)、Dr. 向静静(アジア日本研究所)、そして、Dr. ドウィジャヤンティ・ディニア・ロジキ(アジア日本研究所)がパネリストとして参加し、政治的、地理的、歴史的、経済的、実践的な側面から、伝統医療の複雑さの問題にアプローチしました。

 まず、Dr.小田は、まず小田氏は、ベトナムの伝統医学が西洋や中国に対峙しながら進められる国家構築のプロセスやアイデンティティの形成にどのように関わってきたかを示しました。この発表では、ベトナムにおける伝統医学の先行研究において光が当てられてこなかった南ベトナムにおける医療の制度化の歴史的過程に焦点が当てられました。そのうえで、Dr.小田は、南ベトナムにおける近代医療の制度化プロセスは、伝統医学に基づく独自のアイデンティティの形成と密接に結びついていることを強調しました。

 次に、Dr.長岡はチベットの医療について、この地域が、地域的かつグローバルな文脈において、市場化されてきた経緯に着目する発表を行いました。チベットにおける伝統医薬の使用状況は、インドや中国に囲まれる周辺の政治的および経済的環境から形成されるマクロな周辺環境と結びついています。この文脈のもとで、チベットの薬草は、医療市場向けに市場化されてきました。しかし、それと同時に、この地域の生物多様性の喪失という問題に対して、国際的な環境保護主義が介入したこともあり、チベット地域の状況がより複雑化し、そのなかで、現地住民は伝統的な薬草を栽培し、その多様化に努めていることが示されました。

 Dr.向の発表では、中国大陸の医師が日本へと移住することで生まれた医師の間の交流史と、それが日本の現代医学文化に与えた深い歴史的影響について歴史学的な研究報告が示されました。この発表では、16世紀から18世紀の時期が焦点化され、中国の医師の文献が日本の医師にどのように伝えられたかに関して、とくに葛根湯を事例とした史料検証の結果が報告されました。報告を通じて、日本の医療の伝統が国際的な知識人のネットワークによって形成されてきたことが明らかにされました。

 最後に、Dr.ディニアは、今日のインドネシアにおける「Wedang Secang(ヴェダン・セチャン)」と呼ばれる伝統的な薬用飲料の公共医療での使用へ向けた科学的かつ実践的な分析を示しました。この発表は、その伝統医薬の科学的有効性を明らかにし、医療目的での伝統医療の公的利用の承認を得ることを目的とした実践的なものです。この意味で、Dr.ディニアの発表は、科学的測定に基づく伝統医療の公的制度化をめぐる困難かつ刺激的なプロセスの好例となるものです。

 以上のパネルを通じて、伝統医学というテーマには、人々がそれぞれの地域的文脈において形づくる多様な歴史と戦略が伴われていることが分かりました。Q&Aでは、パネリストと参加者が、アジアのそれぞれの伝統医学がいかに多様であるか、伝統医学の有効性が今日どれだけ改善され、証明され得るかなどについて活発な議論を行うことができました。

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 以上、4つのパネルのいずれにおいても、久しぶりの対面での研究発表ともあって、活発かつ刺激的な議論を交わすことができ、本研究所メンバーの今後の研究の発展にとっても非常に有意義なものとなりました。ここで改めてAsia Pacific Conferenceの開催に尽力していただいた関係者の皆様には深くお礼を申し上げたい。