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2022.07.27

【レポート】AJI 国際ワークショップを開催しました! “Toward Sustainable Agriculture of Rice in Asia: Economic Challenges and Policy Aspects”

 2022年7月15日(木)、“Toward Sustainable Agriculture of Rice in Asia: Economic Challenges and Policy Aspects” と題して、立命館大学アジア・日本研究所(AJI)主催で国際ワークショップをオンラインで開催しました。

 アジア・日本研究所の小杉泰所長が本ワークショップについて紹介した後、アジア諸国の大学・研究機関から参加した7名の若手研究者の参加を歓迎しました。また、アジアの人々の日常生活や文化における米の重要性を説明し、地球規模で人口が増加するなかで、持続可能性を実現するには、環境問題や様々なレベルでの政策立案に配慮した稲作のあり方について学ぶことが重要であることを強調しました。そののち、小杉所長よりスケジュールの概要説明をしていただき、開会の辞が締めくくられました。

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歓迎の辞を述べる小杉泰所長

 第一部では、中国、ヴェトナム、タイから参加した3名の若手研究者が発表を行いました。まず、北東アジア経済研究所のDr.Qi Dong(環日本海経済研究所 研究員)より“Comparison of Rice Production in China and Japan: Evidence from a Panel Data Analysis” と題する発表がありました。Dr.Qiは、稲作の現状と中国と日本の既存の問題を切り口として、中国と日本の米の生産コスト、特にシャドーコスト、生産効率の違いについて詳しく説明しました。その上で、日本の米生産は中国の米生産に比べて、コスト収益率が高く、効率が低いと結論づけました。Q&Aでは、参加者からのいくつかの質問とコメントがあり、それらに対して、Dr.Qiは詳細な実証データとともに応答しました。

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発表をするDr. Qi

 次に、Dr. Phuc Trong Ho(ベトナム・フエ経済大学経済開発学部 講師)より“Impact of High-Quality Rice Variety (HQRV) on Profit and Profit Efficiency: A Sample Selection Stochastic Frontier Approach” と題する発表が行われました。Dr. Phucでは、ベトナムのメコン川デルタにおける米生産に焦点が当てられ、その研究の必要性や彼の研究アプローチが採用する先端t根木な方法論モデルについて説明がなされました。結論では、HQRV導入企業は、非導入企業と比較して変動利益が平均的に高い一方で、利益効率性は低いことが明らかになり、その非効率性が解消されれば、HQRV導入企業はHQRVからより多くの利益を得られることが示されました。彼の有意義で網羅的なプレゼンテーションの後には、参加者からいくつかのコメントと質問が投げかけられました。

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発表を行うDr. Phuc

 第1部最後は、Orawan Slisompun助教授(タイ・マハサラカム大学技術学部農業技術学科)による発表で締めくくられました。彼女は、タイで頻繁に発生している干ばつ、特に2019年に起きた深刻な干ばつが、水稲の収穫量に深刻な影響を及ぼしたことで、消費用の米が不足し、農家の収入が失われた経緯について説明しました。同時に、タイの稲作農家が干ばつに対処するために様々な気候変動への適応戦略を試みているという点も共有されました。しかしながら、こうした戦略を実行し続けるためには、公共政策機関からの干ばつ管理への長期的な戦略と集中的な投資が必要である点が指摘されました。この興味深く有益なプレゼンテーションの後、3名の参加者がコメントと質問をしました。

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発表を行うDr. Srisompun

 第2部では、ヴェトナム、インド、インドネシア、英国から参加した4名の若手研究者による発表が行われた。最初に、Dr. Ho Thanh Tam(立命館大学アジア・日本研究機構主任研究員)から、“Rice Production for Sustainable Agriculture: Case Studies in Vietnam and Japan”と題する発表を行った。彼女はまず、気候変動が農業部門、特に稲作に与える悪影響を指摘し、持続可能な農業が解決策の一部になり得ることを強調しました。また、ヴェトナムと日本の稲作の現状についても議論され、ヴェトナムのメコンデルタにおける米生産に対して気候変動が与える影響についての経済分析と日本の滋賀県における持続可能な米農業と関連政策について紹介されました。最後に、ヴェトナムと日本における米生産の経済的・政策的課題についても指摘され、Q&Aでは参加者との間で活発な議論が交わされました。

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発表を行うDr. Ho

 次に、Pushp Kumar氏(インド・ブバネーシュワル工科大学 博士課程)より“Climate Change and Rice Production in India: Role of Ecological and Carbon Footprint”と題して発表が行われました。Kumar氏は、まず、気候変動が作物生産に与える負の影響について語り、1982年から2016年までのインドにおける気候変動の影響を測定するうえでエコロジカルおよびカーボンフットプリントの役割を強調しました。彼の発表では、そうした測定に使われる方法論的アプローチに焦点が当てられ、エコロジカルおよびカーボンフットプリントが長期的にインドの米生産にプラスの効果を持つことが報告されました。最後に、Kumar氏は、気候変動がもたらすシナリオに対処するためには、リスク管理戦略を改良したうえで実行することが政府とコメ農家にとって重要であることを強調しました。興味深いプレゼンテーションの後、参加者との間で意見交換がなされました。

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発表を行うKumar氏

次に、Dr. Mohammad Rondhi(インドネシア・ジェンベル大学農学部農業ビジネス学科)より“The Effect of Risk Preference and Farmer Perception on Climate Change to Farmer Participation on Farm Insurance”と題する発表が行われました。Dr. Rondhiは、気候変動下のインドネシアにおける稲作の現状や気候変動への適応のための国家政策についてプレゼンテーションを行いました。彼の発表では、気候変動が稲作に与える影響を農家がどのように認識しているか、また、国民保険制度への農家の参加がいかに稲作に影響を与えるかについての分析が軸となります。そのうえで、国民保険制度への加入者と非加入者の間で、農民の所得が大きく違うことも明らかにされました。最終的に、国民保険制度が、中・高リスクの地域で活動する米農家にとって重要な役割を果たしていることが結論として示されました。参加者からは、Dr.Rondhiの発表に積極的にコメントや質問を投げかけました。

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発表を行うDr. Rondhi

 第2部最後のプレゼンテーションでは、Dr. Melanie Connor(英国・開発研究所 知的インパクト・政策部長、フィリピン国際米研究所研究員)が“From Science to Policy – Sustainable Rice Production in the Mekong Delta, Vietnam”と題する発表を行いました。彼女のプレゼンテーションは、東南アジア諸国の米に関するプロジェクトの一般的な紹介から始められ、ヴェトナム・メコンデルタでの米生産と国家プログラム “One Must do and Five Reductions (1 M 5 R)”に焦点が当てられました。このプログラムは、農家が1) 良質の米を使い、1) 種子の割合を減らすこと、2) 農薬の使用を減らすこと、3) 肥料の投入を減らすこと、4) 水の使用を減らすこと、5) 収穫後の損失を減らすことが含まれています。彼女の発表は、いくつかの分析の段階を踏むものでした。第一に、Dr. Connorは、1 M 5 Rプログラムが農家に耐える影響について、その利点、障壁、要因などが明らかにされました。第二に、稲作農家における稲藁管理に関連した持続可能な農法を受容することが農家の心理に与える要因について説明されました。最後に、彼女は、ヴェトナムにおける消費者が持続可能な方法で生産された米をどう受け止め、それにどれだけ払う意思があるのかについて論じられました。彼女は、研究の中で生産者である農民と消費者の両方を取り上げ、1 M 5 Rプログラムはメコンデルタの農民の状況に適していること、また、ラオスやタイでも実施するために微修正されていることを強調しました。

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発表を行うDr. Connor

 第2部の最後には、本ワークショップに参加したすべての発表者から多くの興味深いコメントや提案などが示されました。本ワークショップは、参加者にとって、新たな洞察を得る貴重な機会となるだけでなく、将来の共同研究にとっても非常に有益な機会となりました。

 閉会の辞では、島田浩二教授(立命館大学経済学部)が、素晴らしいワークショップの成功に多大な貢献をしてくださった講演者、実行委員、司会者、参加者の皆様に感謝の意を表し、本イベントが締めくくられました。

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閉会の辞で感謝の意を伝える島田浩二教授