事務局から

ノースウェスタン大学Annelise Riles副学長ご一行ご来学(後編) 〜京都市・菊浜地区実地見学〜

 E-book出版を記念して開催したシンポジウムの翌日には登壇者やノースウェスタン大学の事務局の皆さんに京都市における町家ゲストハウスの状況などをご覧いただきました。今回はその模様をご紹介します。

実地見学

7月24日には午後から京都大学大学院工学研究科建築学専攻・柳沢究先生にご案内いただきつつ、大学コンソーシアム京都・学まちコラボ事業により柳沢研究室が作成した菊浜トコとこマップをもとに高瀬川沿いに走る木屋町通りの、南北で言うと五条通りから七条通りにかけてのエリア「菊浜地区」の実地見学を行いました。

ここはかつて江戸時代から続く遊所があった地域ですが、現在ではお茶屋・置屋は全て廃業し、海外資本によるゲストハウスなどが点在しています。往時を偲ばせるお茶屋建築も多く残されており、その歴史的背景に興味を惹かれ私も何度か訪れたことがあるのですが、華やかな観光スポットが数多ある京都に位置しながらもガイドブックにはあまり取り上げられないエリアと言えるでしょう。

唐破風屋根が特徴的なお茶屋建築
<唐破風屋根が特徴的なお茶屋建築>

炎天下、菊浜地区を見学するご一行
<炎天下、菊浜地区を見学するご一行>

地域を守る

 菊浜高瀬川保勝会会長の上村隆明さんに菊浜地区のまちづくりの取り組みについてうかがいました。この地域は少子高齢化が進んでいることから、例えば認知症患者や寝たきりのご家族がいるご家庭を把握して災害時に住民が滞りなく避難できるようにという観点から行政への要望を取りまとめて陳情したり、定期的に高瀬川の清掃活動を行ったり、さらには高瀬川の護岸の修繕に向けた経済支援を地元にゆかりのある山内財団(※)に依頼するなど、とても静かな語り口でしたが八面六臂のご活躍が伺えました。
※任天堂の創業家である山内家が設立した財団

菊浜高瀬川保勝会会長・上村隆明さんを囲んで
<菊浜高瀬川保勝会会長・上村隆明さんを囲んで>

菊浜のジェントリフィケーション

 e-bookの共編著者のお一人である政策科学部・吉田友彦先生は、第8章 "Policies That Trigger Gentrification in Kyoto City" で京都市における「ジェントリフィケーション」(旧来の住民が高齢化などにより転出し、代わりに所得水準の高い住民が流入することで地域住民の階層が上がり、地域全体の質が向上する現象)について取り上げておられます。曰く、近年京都市では大きく2回の「ジェントリフィケーション」の波が訪れ、第2波は行政の規制緩和により民泊施設が増加したことで引き起こされた、とのこと。

菊浜地区の町並み
<下町情緒あふれる菊浜地区の町並み>

 コロナ前は皆さんもご記憶のように京都の市街地がインバウンド需要に沸き、風情のある町家が次々と民泊施設に衣替えしていく様子を複雑な思いでご覧になっていた方が多いかもしれません。そして、確かに上村さんのお話はジェントリフィケーションが生じている、もしくは生じつつあることを裏付けるものだったように思いますが、印象的だったのは菊浜の人々は決して外部資本が入ってくることに対し反対一辺倒ではない、ということ。高齢者が減少し、空き家が残されるよりも土地・建物が飲食店や民泊施設として利活用され、地域の外から人を呼び込んだ方が地元のためになる、とお考えのようです。

いちょう路地
<路地裏も雰囲気があります>

 国全体が少子高齢化に直面している今、ここ菊浜でも高齢化に伴う様々な課題を抱えその大きなうねりには決して抗えないとわかりつつも、上村さんがとにかく少しでも前進すること、野球に例えるならば「まずは一塁まで行くこと」を重視されていることに、地域の世話役としての責任と覚悟を感じました。

灯商店

 今回は高齢化が進む菊浜地区の方々が買い物難民化しないように、との思いで有志が立ち上げた「灯商店」で上村さんにお会いしました。こちらでは日用品を販売されるだけでなく、喫茶・立ち飲みスペースもあり地域の方の交流の場、外部の方がまち歩きに疲れた時の憩いの場として機能しているように思いました。とても素敵な空間でした!

灯商店の看板
<灯商店の看板>

柳沢究先生
<京都大学・柳沢究先生も立ち上げメンバーのお一人とのこと>

福ちゃん
<看板猫の福ちゃん。暑さでへばる人間をよそに、凛とした佇まいです>

リンク

吉田友彦先生が執筆されたe-bookの第8章はこちらからお読みいただけます。
https://city-public-value-and-capitalism.northwestern.pub/chapter/8/

また、この研究に関連して、政策科学研究科修了生、WANG氏(現・海南師範大学観光学院講師)の学位論文もご覧いただけます。
WANG Zhixi「歴史都市における宿泊施設の属性と立地分析 : 京都市における簡易宿所を事例として」

事務局:NaKa