所長室から

科研費「イスラーム法源学」の研究会がスタートしました

2019年6月22日、私が研究代表者を務めている科研費プロジェクトの初回の研究会が開催されました。

正式題名は、科研費・基盤(A)「現代イスラームにおける法源学の復権と政治・経済の新動向:過激派と対峙する主流派」と言います。これから5年間、イスラーム世界で現在生じているイスラーム法源学の復権、それと連動するイスラーム政治やイスラーム経済の新しい動向を研究していきます。

プロジェクトの意義を説明する小杉所長
プロジェクトの意義を説明する小杉所長

副題に「過激派と対峙する主流派」とあって、何かしら、時事的なことがらに関係あるような印象も持たれるかもしれません。今日の「政治事情」を追究するわけではありませんが、地域研究と現代イスラーム世界を研究する立場からは、イスラームの思想潮流が一部の過激派に乗っ取られているかのような現状に無関心でいることはできません。そこで、メディアを過激派が騒がせる一方で、草の根のイスラーム復興と結びついて、まじめな法学者たちの営為がどのように主流派形成をめざしているかという実態を解明したいと思っています。

メンバーには、イスラーム世界の諸地域、特に中東/西アジア、南アジア、東南アジアの専門家たち、またイスラーム法、イスラーム政治、イスラーム経済を専門とする皆さんに集まっていただきました。若手の研究協力者の参加も得て、活発に活動していこうと思っています。

イスラーム法源学というのは、法学者たちがイスラーム法の典拠から具体的な法規定を導き出す際の法理論と方法論を扱う分野です。法学者たちもこれがしっかりと身についていないと、法解釈が恣意に流れます。過激派の主張とは、実は法源学の基礎をわきまえない勝手な解釈なのです。本研究では、穏健な多数の法学者が重厚な方法論に基づきつつ、社会の要請に対応するきちんとした解釈をおこなっているという仮説に基づいて、調査と考察を進めていきます。

それと同時に、「イスラーム法源学」という、日本では全く知られていない学術分野について紹介するのが、今回のプロジェクトの大きな目的の1つです。これを通じて、日本でのイスラーム理解がもう1つ新しい領域を獲得することを願っています。

(2019.6.24記)