所長室から

若手の「国際研究集会」を支援する意義

 この度、アジア・日本研究所が推進している若手育成プログラムの一部で、全学的な募集をおこなうことになりました。この若手育成プログラムは、研究所では略して「「AJIキャリア・コリドープログラム」と呼んでいます。正式には、「アジア・日本研究所 キャリアパス形成力開発プログラム」と言います。

単に「キャリアパス形成」ではなく、「キャリアパス形成力開発」というところがミソです。若手の皆さんが、自らキャリアパスを形成していく力をつけていただきたい、という意味です。
それを「コリドー(回廊)」と言っているのは、回廊のように歩く道筋がはっきりしたものにしたいという願いを込めています。専門の研究者をめざす若手の方がキャリアパスを作っていかないといけないことは誰もが知っていますが、どう作ればよいのかは、それほど明確ではありません。
アジア・日本研究所では、それを「見える化」していきたいと思い、回廊のようにはっきりと見える道筋を示すことに努めています。

 さて、その一環として「研究重点化プログラム」があって、(Ⅰ)英語論文の執筆、(Ⅱ)国際研究集会の開催、(Ⅲ)国際共著論文の執筆、を支援するようになっています。今回の公募は、これら3つについての公募です。
このうち、(Ⅰ)は英語で執筆して、国際的に発信するということですし、(Ⅲ)は海外の方と共同で論文を執筆して、これまた国際的な発信をするということですから、意義はあらためて説明しなくてもわかるかもしれません。

 それに対して、国際研究集会の開催を支援する、ということに、どんな意味があるのでしょうか。学内には、すでに、国際シンポジウムなどを通じて研究成果を発信することを支援する制度があります。それと、この(Ⅱ)は、どう違うのでしょうか。

 簡単に言うと、国際シンポジウムを主催するのはふつう、教授の先生とか、すでにできあがった研究者です。この(Ⅱ)では、それを、まだ経験の浅い若手にやっていただき、その支援をしたいと思っています。だから、財政的な支援だけではなく、実施にあたってのアドバイスもできるだけします。

 具体的には、若手が国際シンポジウムの中のセッションの1つを組織するか、国際ワークショップを組織するのを支援しています。では、若手がそのような組織をすると、なぜ、キャリアパスにつながるのでしょうか。

 研究業績というと、若手の方は、まず学位、そしてジャーナル論文を思い浮かべます。それは正解です。しかし、それだけでは足りません。現代の研究者とは、自分が研究するだけではなく、研究を組織することができないといけないからです。
そして、組織能力があることを示すには、「単に裏方をやりました」と言うのではなく、研究業績リストに書くことができるような、ちゃんとした研究集会に関して、そのオーガナイザーを務め、それを明記する必要があります。

この(Ⅱ)は、そのような研究を組織する活動を支援することを通じて、若手の方に実績を積んでいただくこと、それを業績リストに書けるようにすること、そして、何よりもセッションやワークショップを組織化することで、世界の研究者たちとのネットワークを作っていただくことを目的としています。

 このような趣旨を汲み取って、奮って応募いただけると、嬉しく存じます。

(2019.7.31記)