【研究会報告】第62回日米中政治経済研究会

報告者①中本悟(立命館大学経済学部・教授)

テーマ「トランプ政権のNAFTA再交渉」

 

ドナルド・トランプ大統政権は製造業の国内回帰を掲げ、そのためにNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉に取り組んでいる。報告はアメリカ製造業の現状とNAFTAの雇用と貿易に対する影響、そしてその再交渉をめぐる利益集団の角逐を明らかにした。

 

 

中本教授は、サービス産業との対比で、製造業の雇用及び名目付加価値に占めるシェアがこの半世紀のあいだに低下してきたのは、両部門間の生産性上昇率格差に起因する趨勢だという。反面で、実質付加価値シェアでは製造業は一定のシェアを維持していることを注視し、それは製造業の量産効果と高付加価値戦略によるものであると主張した。さらに製造業の雇用減少には、1994年に発効したNAFTAのもとでのメキシコへの製造業移転が大きく作用していることを明らかにした。そのうえで、NAFTA再交渉の焦点である自動車製造業の多国籍企業の動向とNAFTA再交渉をめぐるビジネス界と労働界の角逐がトランプ政権のジレンマを生んでいると主張した。


報告の後、参加者からは、①報告のなかで重要な理論として利用したK.Marxの「特別剰余価値」論、②NAFTAがメキシコの成長にいかなる成果を生んだのか、③NAFTAの性格、をめぐる論点が提起され、中本教授との間で活発な議論が展開された。

 

報告者②井出文紀(近畿大学経営学部・准教授)

テーマ「森下仁丹の町名表示板広告の設置状況とその背景

 

京都に600枚余りが現存し、辻々で見ることが出来る森下仁丹町名表示板広告に関する研究について報告した。大正時代から海外進出を積極的に行い、急成長した森下仁丹の町名表示広告が、広告を通じた社会貢献である事実や、井出准教授の参加する京都仁丹樂會が足を使って収集した現存する表示板の種類と数、当時の新聞広告や屋外広告に関する世論などを解説した。

 

 

井出准教授は、森下仁丹の町名表示板広告は、独自の広告戦略に基づくものであることと、設置後100年近くの時を経て、京都では現在でもその「道案内」機能を果たし、京の町並みの歴史を伝える文化財的価値を有するものであると考えを述べ、更に今後の研究課題として森下仁丹の海外販売・広告戦略についても検討していると発言した。


報告後、宮崎大学の小山准教授より「観光業(聖地巡礼的観点)との連動」と観光業以外での現在の町名表示板広告の新しい価値について問題提起があり、参加者の間で意見交換をおこなった。

(リポート作成者: 事務局・西村)