窒化物半導体をもちいた環境エレクトロニクスの構築 | 深紫外発光素子で実現するエコトロニクス。

深紫外発光素子の高出力化を目指しています

窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)に代表される窒化物半導体は、可視光から深紫外まで広い領域をカバーでき、かつ高速・高出力の電子デバイス材料として、近年その応用の可能性が大きく拡がってきました。中でも私たちが早くからその重要性を指摘してきたのが、200nm〜350nmと波長の短い深紫外波長領域で発光する光デバイスの開発です。深紫外発光素子は、水などの環境浄化や医療分野での殺菌、PCBをはじめとする難分解性物質の分解など幅広い応用が可能です。実現すれば、エネルギー、環境、医療、安全といった21世紀の社会の重点課題を解決する重要な科学技術基盤として、大きな役割を担うに違いありません。

しかし深紫外発光素子の材料であるアルミニウムガリウムナイトライド(AlGaN)は結晶成長させるのが難しく、高出力化の方法論も確立されていませんでした。本プロジェクトで私たちは、深紫外発光素子の高出力化に取り組み、実用に耐える発光素子の開発を目指しています。

縦型構造の深紫外発光素子を開発しました

高出力化に向けて、これまでに私たちはいくつもの独自の方法論と技術を獲得してきました。最も大きな成果の一つは、AlGaNを用いて深紫外領域で初めて縦型の発光デバイスを開発したことです。従来からの横型構造の深紫外発光素子は、電力集中によって不均一に発光・発熱するため、効率が著しく低下してしまいます。一方、均一な電流注入が可能な縦型構造なら、スケール則が成り立ち、高出力化が容易になるはずです。

超格子剥離層の図

縦型構造を実現する上で最大の難題は、結晶成長の土台となるサファイア基板を剥離することでした。絶縁体であるサファイア基板を剥離しなければ、最終的に電流を流すことができません。GaN縦型深紫外発光素子では、GaN結晶を基板に成長させ、そこにレーザーを照射してサファイア基板を剥離する方法がとられてきました。しかしAlGaN系の結晶成長では、GaN結晶層が使えず、レーザー光に対して透明となることから、従来のレーザー剥離法は通用しません。そこで私たちは、超格子レーザー剥離層を導入するというまったく新しい方法で基板の剥離に成功しました。照射したレーザーは超格子の層にわずかに吸収されます。この刺激によって超格子が機械的に分解され、基板が剥がれるというわけです。実際に、280nmの波長の縦型構造の発光素子の試作も実現しました。

次なる課題として、現在は縦型構造の大面積化に取り組んでいます。すでに1cm角の基板の剥離を成功させました。通常100μm角の発光素子で1mWが得られるとされており、1cm角で10W級の深紫外発光素子を得ることも現実味を帯びてきました。今後はさらに大面積での剥離の検討、縦型構造の実現化を進めていきます。

新たな水浄化システムで水問題解決に貢献します

高出力の深紫外LEDの実用化を視野に入れ、私たちは現在、深紫外発光素子による水の殺菌効果を実証し、さらには従来の水銀ランプによる浄化システムにとって代わる水の浄化システムの開発に乗り出しています。

世界的な人口増加と経済成長、地球温暖化などによって、多くの国々で水不足が深刻化しています。特に発展途上国では、汚水処理施設の未整備による水の汚染が伝染病の蔓延の温床となっています。また日本をはじめ先進国でも、災害発生時に被災地に安全な水を供給するための対策が求められています。この水の問題は、限られた国や地域のみならず、やがて食糧不足や生態系への影響を招き、地球規模の問題へとつながります。こうした重大な課題に対し、新しい水の殺菌法をもたらす深紫外発光素子は、一つの解決策を提示する可能性を秘めています。

深紫外発光素子の殺菌効果を確かめました

現在主流の水銀ランプに比べ、深紫外発光素子による水の殺菌のメリットは、大幅な小型化、高出力化、かつ長寿命化を実現できる点です。

私たちはすでに深紫外発光素子を用いた殺菌実験を開始しています。大腸菌ファージφ×174に280nmの波長の紫外線を照射し、大腸菌ファージが不活性化することを確認しました。AlGaN系の発光素子は200〜350nmの間で自由に波長を設計できます。今後は、発光素子の出力を高めるとともに、多様な細菌それぞれを殺菌する最適波長を見つけたいと考えています。

280nmのLEDによる大腸菌ファージφ×174の不活性化のグラフ

さらに私たちは、細菌に一波長の発光素子を照射するだけでなく、二波長をあてることで殺菌効果を高める可能性についても模索しています。未踏領域のため、どの波長が、どのように作用するのか明らかになっていません。今後はそれらを検証し、高効率・高精度で殺菌効果を得られるシステムをつくり上げていきたいと考えています。

将来的には、R-GIROの他領域の研究者とも協力し、太陽電池の技術と融合した大面積発光LEDによる水浄化システムを構築することを考えています。環境保護を意味するエコロジーとエレクトロニクスを融合するこうした試みは、今後ますます重要になるでしょう。私たちはこれを「エコトロニクス」と呼ぶことにしています。

Quarterly Report vol.01 2010年4月10日

青柳克信教授

青柳克信教授

1965年 大阪大学基礎工学部電気工学科卒業。'71年 大阪大学大学院基礎工学研究科物理系博士単位取得退学。'70年 日本学術振興会研究員、'72年 理化学研究所半導体工学研究室研究員。'77年 同レーザー科学研究グループ研究員、'88年 同主任研究員。'91年 同半導体工学研究室主任研究員。'00年 東京工業大学総合理工学研究科教授兼理化学研究所主任研究員など。'08年 立命館大学R-GIRO特別招聘教授、現在に至る。応用物理学会、日本物理学会、レーザー学会に所属。'83年 大河内記念技術賞、'91年 市村学術賞特別賞、'93年 全国発明表彰特別賞弁理士会長賞、'95年 応用物理学会賞、'97年 科学技術長官賞、'04年 マイクロプロセス国際学会Best Paper Award、'07 応用物理学会フェロー、'08年 応用物理学会論文賞を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:青柳克信

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