MEMSとBME(bio medical engineering)のマルチスケールフュージョン研究 | 眼球内に人工細胞を移植する微小デバイス。

眼球内移植治療用マイクロマシンを開発中です

半導体製造技術を微小なサイズで実現するMEMS(微小電気機械システム)は、電子・機械産業のほか、バイオや化学、医療など、実に幅広い分野に応用でき、近年、さまざまな技術革新が進んでいるため、これまでにない“モノ”を創り出せる可能性を持っています。中でも私たちは、バイオ・医療に活用するBME(バイオメディカルエンジニアリング)に重要性を見出し研究を進めています。本プロジェクトでは、その一つとして、内視鏡医療に代表される低侵襲医療のためのマクロマシンの開発に取り組んでいます。安全性、侵襲性の観点から、患者への負担の少ない低侵襲医療には大きな注目が集まっています。BMEは特に立命館が強みとしている医工連携のもとで進めているテーマです。

その中の一つが、これまで培ってきたPBA(空圧駆動バルーンアクチュエータ)の技術を活用した、眼球内移植治療用の柔軟マイクロアクチュエータの開発です。再生医療に貢献する人工細胞シート技術を活用し、眼球内の網膜色素上皮部分に、人工の細胞シートを移植するためのアクチュエータをつくろうとしています。生体適合性の高いシリコーンゴムを材料とし、圧力を駆動に用いるPBAは、「小さい」「柔らかい」「安全」という特徴を持ち、医療用ツールに適しています。実現すれば、失明の主要要因である加齢黄班変性症の治療に大きな前進となります。

私たちの研究の特長は、生体の器官から組織、細胞(構成要素)まで、つまりセンチメートル単位の大きなスケールから、ミリ、マイクロ、ナノに至る非常に小さなスケールまで、多様なスケールを対象としている点です。細胞操作・解析用のインタフェースの開発に取り組むなど、細胞にも高い関心を寄せています。こうした多様な研究成果を融合させることで、より有用なデバイス開発が可能になると期待しています。

圧力を駆動源とした眼球用移植デバイスを設計しました

移植デバイス先端部

現在、細胞シートの開発で先陣を切る東京女子医大、さらに理化学研究所の協力を得て、PBAをもとに眼球内の移植デバイスを開発中です。この研究は、今ホットなiPSを核とする細胞を用いた医療産業構築プロジェクトの一環です。眼球内の手術では、作業のための空間が非常に狭く、既存の医療ツールでは作業が困難な上、デリケートな他の組織を傷つけてしまう危険性があります。こうした課題を克服するために、最新版では、いくつかの工夫を施しました。一つは、細胞シートを取りつける先端部を変形できるようにしたことです。初期状態では、2.5mm×2.5mm×250μmの平面状をしていますが、細胞シートを乗せた後は、加圧によって外形1.3mmの筒状に変形し、挿入器具である内径2mmの注射針の中に収納することができます。加えて移植デバイスのバルーン部を圧力で制御し、反り上がらせるスナップ動作を可能にしました。これで移植デバイスの先端の角度を自由に調節でき、患部に対して水平にアプローチできるようになります。

課題は細胞シートをデバイスに固定することでした

最新の成果は、この眼球内移植デバイスにさらなる改良を加えたことです。今回は吸着孔について紹介しましょう。一つは、細胞シートを移植デバイスに確実に乗せるため、先端部に吸着固定機能を付加しました。移植デバイス先端の平面部分に4つの吸引孔を穿ち、外部機構から吸引することで細胞シートを移植デバイスに固定します。その後は別の吸引孔1つで吸引を継続し、剥がれ落ちることなく細胞シートを患部に運びます。最終的には、移植デバイスの先端部を患部に密着させた後に吸引を止め、ずれたり、ひずんだりすることなくきれいに細胞シートを貼りつけます。

さらにもう一つ、流路抵抗を活用した触覚センサを取りつけ、移植デバイスが眼球内壁などに接触した場合に、それを知らせる機能を付加しました。デバイス先端の平面部の外周に流路を設け、流路抵抗の変化をセンサとして活用する仕組みです。これにより、アクチュエータ駆動圧力供給流路と同じ構造でセンサができます。実験によって、触角センサが300μNの接触を検出することを確かめました。加えて移植デバイスの先端部の形状も、これまでの四角形から接触した時の衝撃がより少ないよう曲線形に設計し直しました。

改良品による動作原理

以上の改良を加えた新たな移植デバイスを用い、in vitro(注1)での実験のほか、改良前のデバイスと同様に、in vivo(注2)での実証実験も予定しています。今後は、さらにデバイスを進化させ、医療機関との連携を深めながら臨床実験も含めた治験を重ね、実用化へと歩を進めてく予定です。

(注1) in vitro … 「試験管内で(の)」という意味で、試験管や培養器などの中でヒトや動物の組織を用いて実験を行うこと。
(注2) in vivo … 「生体内で(の)」という意味で、マウスなどの実験動物をそのまま用いて実験を行うこと。

医薬、産業界と連携し、新しいフィールドを創出したい

BMEのような医療への応用は、基盤技術がさまざまなニーズと結びつき、多様な展開をもたらす可能性を秘めています。私の専門とするマイクロマシンは学際的な拡がりへの対応が得意です。今後も医工連携によって医療分野の潜在的なニーズをくみ上げ、工学の側面からソリューションを創出していきたいと考えています。また他産業界との連携も積極的に推進していくつもりです。特に製薬業界とは、ドラッグデリバリー技術の活用など、新しいフィールドを創出できる可能性を感じています。そのほかマルチスケールフュージョンを存分に活用しつつ、多様な連携を育てていきたいと考えています。

Quarterly Report vol.01 2010年4月10日

小西 聡 教授

小西 聡 教授

1991年 東京大学工学部電子工学科卒業。'93年 日本学術振興会特別研究員。'96年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。'96年 立命館大学理工学部専任講師、'99年 同助教授。'02年 カリフォルニア工科大学研究員、'06年より立命館大学理工学部教授、'07年 滋賀医科大学客員教授、現在に至る。Sensors and Actuators Section Editor、IEEE International Conference of MEMS 2007実行委員長。電気学会、日本機械学会、日本ロボット学会、応用物理学会、炭素材料学会、日本コンピュータ外科学会、米国電気電子学会(IEEE)、に所属。'05年 日本コンピュータ外科学会2005年度講演論文賞、IEEE MHS 2005 Best Paper Award、'07年 細胞性粘菌研究会優秀賞、日刊工業新聞社モノづくり連携大賞特別賞等を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:小西 聡
Micro・Nano Mechatronics Laboratory 小西研究室

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