エネルギーセキュリティ確保のための高効率多接合薄膜太陽電池の開発 | 1ミクロンの高効率太陽電池。

次世代エネルギー太陽光発電の開発は急務です

温室効果ガスを減らし、低炭素社会の実現を目指すことは、いまや地球規模で取り組むべき重要課題の一つとなっています。一方では、石油をはじめとした化石燃料の枯渇が現実味を帯び、これに代わる新しいエネルギーの創出も求められています。こうした緊急の要請に応える最も有望なエネルギーと目されているのが、太陽光です。

2003年にNEDO[(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構]が打ち出した“2030年に向けた太陽光発電ロードマップ(PV2030)”には、2030年頃までに、太陽光発電にかかるコストを汎用電力並みの7円/kWhにまで下げるという目標が掲げられています。現在の試算では、太陽光発電にかかるコストは、約40円/kWh。今後20年の間に、1/6程度に下げなければならないという計算になります。この点で、私たちの進める太陽電池の低コスト化、高効率化、長寿命化が実現すれば、これは不可能な数値ではありません。

本プロジェクトでは、従来の太陽電池材料であるシリコン(Si)結晶より、安価に発電層をつくれるカルコパイライト(CIS)系化合物薄膜に着目し、低コスト、高効率の太陽電池の開発に取り組んでいます。

低コスト、高効率の太陽電池セルを開発しています

Cu(In、Ga)Se2に代表されるCIS系半導体は、大きな光吸収係数を持つのが特長です。世界で最も高性能の電池では、変換効率20.0%という高い値を実現しています。さらに効率を高めるために私たちが取るアプローチは、可視光から紫外線まで、各スペクトルに対応する太陽電池セルを作製し、それらを積み重ねることで広い波長領域で光を吸収できる太陽電池を実現するというものです。予備検証で、太陽光スペクトルを4、5層に分けて堆積すれば、理論的に変換効率40%を得られることが導き出されました。

本プロジェクトでは、まず紫外線領域に近い短波長光を吸収する最上位層の太陽電池セルの開発を進めています。CuInS2を材料に、高品質結晶成長による太陽電池セルの作製を試みました。高真空化でCu、In、Sをそれぞれ蒸発させ、基板上にCuInS2を堆積させる高真空多元同時蒸着法によってCuInS2薄膜を結晶成長させます。基板温度と成長時間を制御することで、1μm以上の大粒径の結晶を形成することに成功しました。これを光吸収層として0.12㎠の太陽電池セルを試作し、その結果8.5%の変換効率を得ることができました。CuInS2太陽電池の世界最高効率は11%なので、比較的高い値を達成できたと評価しています。

今後は多接合型太陽電池の開発を進めます

CuInS2薄膜の電子顕微鏡像

より平坦な表面のCuInS2の結晶を成長させるなど成膜・セル化条件を最適化していけば、さらなる高効率化が期待できます。また現在扱うサルファイド(硫黄化物)系の材料に、今後はAlを添加することで、よりトップセルにふさわしいバンドギャップに制御する実験も進めていきます。

こうしてできたCIS薄膜太陽電池セルを基板から剥がし、バンドギャップ順に重ねることで、多接合型太陽電池やフレキシブル太陽電池をつくることが可能です。私たちはすでに基板から太陽電池薄膜を剥がすことに成功し、リフトオフ法によるフレキシブル太陽電池を実現しています。この精度も今後さらに高めていく予定です。

新たな電力インフラづくりも視野に入れています

私たちが目を向けているのは、太陽電池の完成だけではありません。電力を供給するインフラの整備や、地球規模での供給を可能にする国際規格の策定など、太陽エネルギーを活用する包括的な仕組みをつくっていくことも責務だと考えています。

たとえ高効率の太陽電池を開発できたとしても、現状の集中発電・長距離伝送の電力ネットワークに組み込むことは困難なのが現状です。現状の仕組みでは、各系統に安定的に供給されるよう発電電力が制御されています。昼・夜・天候に発電量が左右される太陽光発電との系統連携が増えれば、太陽光発電の余剰電力が電力ネットワークに障害を引き起こす可能性が高いからです。この課題に対して私たちは、太陽光発電を広範囲に普及する手段として、「自律分散型の直流スマートグリッド」を導入するための研究に着手しています。

CuInS2薄膜の電子顕微鏡像

太陽電池で発電される電気は直流です。家屋や建物に太陽電池を取りつければ、交流変換することなく直流のまま利用できる、いわば「地産地消」が可能です。私たちが描くのは、数10軒〜数100軒の範囲で過不足に応じて電力を融通し合う「電力ルータ」を設置し、ローカルクラスター内で自律的に電力をまかなうというデザインで、既存の電力系統とは相対的に独立させ、電力不足時にのみ系統から電力を購入できる仕組みです。そうすれば電力系統に混乱をきたすことなく、かつ各系統を連携させながら太陽光発電を普及させていくことができるはずです。

現在、企業とも連携しながら、電力ルータのハードウェア、およびミドルウェアの基本機能を設計、検証を始めています。今後も具現化に向け、モデルづくりを進めていくつもりです。

Quarterly Report vol.01 2010年4月10日

高倉秀行教授

高倉秀行教授

1977年 大阪大学基礎工学研究科物理系電気工学博士課程中退。工学博士。'77年 大阪大学基礎工学部助手、'88年 同助教授。'90年 富山県立大学工学部助教授、'95年 同教授。'96年 立命館大学理工学部教授、現在に至る。日本太陽エネルギー学会、日本マイクログラヴィティ応用学会、応用物理学会に所属。'94年 日本太陽エネルギー学会平成4年度論文賞を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:高倉秀行
高倉・峯元研究室 光機能デバイス研究室

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