極限二次利用学による循環型社会(琵琶湖モデル)の構築 | 微生物で取り戻す美しい琵琶湖。

琵琶湖の水質改善と回収物質の有効利用をめざしています

 

21世紀、人類は、地球規模で解決すべきさまざまな環境問題に直面しています。中でも「水」問題は、世界的に最も重要なファクターの一つと考えられています。その中で私たちは、日本最大の湖・琵琶湖をフィールドとした水質改善を試みています。

琵琶湖は、400万年という長い歴史を持つ世界屈指の古代湖です。長期間にわたって閉鎖性を保ちながら、かつ人間の生活領域と隣接し、その営みと深くかかわってきたという意味でも希有な条件を備えています。また、数多くの固有種の棲み家であり、1400万人が飲料水などに利用する、地域住民の「水がめ」でもあります。この貴重な琵琶湖においても、水環境の悪化は例外ではありません。近年、富栄養化の進行、排水の流入などによって、水質汚染が深刻化しています。湖底では、デトリタス層(注1) の上に有機物や重金属、さまざまな有害物質がヘドロ層になって堆積しています。それにより低酸素化が進み、嫌気性微生物が増加し、ますます低酸素化と汚染が進むという悪循環に陥っています。

私たちのプロジェクトでは、水質汚染を進める物質循環の律速段階を明らかにし、それを促進システムに改変することで、湖底の環境を改善しようとしています。研究の特長は、物質循環の改変に自然界の微生物を利用する点、さらには律速物質の二次利用までを視野に入れる点です。物質循環を妨げている律速物質を特定するのみならず、それらを有効物質に変換することで、水質浄化と同時に、リン酸などの希少金属を回収し、資源として再利用する仕組みを構築しようと考えています。

(注1) デトリタス層 … 生物遺体や生物由来の物質の破片や微生物の遺体、あるいはそれらの排泄物を起原とする微細な有機粒子。

フィチン酸分解菌10種の分離に成功しました

これまでの研究の成果の一つは、リン酸の回収を可能にするフィチン酸分解菌10種の分離に成功したことです。フィチン酸は、ミオイノシトールに6個のリン酸基が結合しており、分解されにくいという特性を持っています。私たちは、これを分解する微生物を発見し独自の方法で分離しました。次いで、リン酸をポリリン酸として蓄積することのできる微生物を見出しました。この二つの微生物の働きを組み合わせれば、フィチン酸からリン酸を分離し、さらにポリリン酸を合成して環境中のリンを濃縮、除去回収することが可能となります。リンは、あらゆる生物にとって必須元素です。肥料に再利用するなど、資源としてさまざまな分野への活用が見込まれます。

フィチン酸分解菌に限らず、今後も難分解性物質を分解する微生物を収集し、ライブラリーを充実させていきます。これらの微生物を利用して、デトリタス層を分解し、水質浄化を実証することが次の課題です。さらに、リン酸などの有効資源を回収、再利用までを実現していきたいと考えています。

水質浄化を可能にする微生物として乳酸菌に注目しています

次に、淡水浄化に利用可能だと思われる微生物として注目しているのが、乳酸菌です。人類の歴史の中で、乳酸菌が食生活と深いかかわりを持ってきたことはご承知の通りです。漬物や清酒、ヨーグルト、チーズをはじめとした乳製品など、乳酸菌の働きを利用した食べ物は枚挙にいとまがありません。乳酸菌には、腐敗や悪臭の原因となる酪酸菌や腐敗菌といった微生物の発生を抑える働きがあります。バクテリアとしては、珍しくpHの低い酸性で生息できる性質を持ち、pHを下げることで他を殺菌します。また、整腸作用や免疫力を高める効果も広く知られています。こうした乳酸菌の性質を水質改善にも活用できると私たちは考えています。まだ系統だった研究は行われていませんが、乳酸菌が水質浄化に役立つという例はいくつか報告されています。

プロジェクトでは、食品や家畜の飼料から9種類の乳酸菌を分離しました。それらの16SrRNA遺伝子をクローニングして塩基配列を決定し、分類学的位置づけを明らかにしました。一部の株については、増殖特性を検討しています。今後も多様な乳酸菌を分離し、水質浄化実験へと応用していく予定です。

鮒ずしから分離した乳酸菌

酸素濃度を劇的に上げる超微細気泡の可能性に期待しています

もう一つ期待を膨らませているのが、超微細気泡を用いた水質浄化です。諸説ありますが、物理的な現象から言えば、超微細気泡とは、およそ50ミクロン以下の気泡と考えられます。これほどの微細気泡は、気液界面のイオンの力によって収縮します。その結果、気液界面のイオン濃度が高まった状態で、長期にわたり液中に滞留することができます。例えば100ミクロンを超える気泡では、長時間水中に留まることはできませんが、超微細気泡は、収縮した状態で数カ月も水中に留まったという例が報告されています。

私たちは、超微細気泡を低酸素状態の水中に送り込み、酸素濃度を上げることを考えています。通常25℃の水に含まれる酸素は、およそ8〜9ppmです。超微細気泡を入れても溶存酸素量を増やすことはできませんが、水中に滞留することで、溶存酸素レベルに相当する値は20ppmをはるかに超えるという結果が見出されています。酸素濃度の低下した湖底のデトリタス層に超微細気泡を入れれば、酸素量を増やし、物質循環を劇的に改変することも不可能ではありません。

今後は、実験データを積み重ね、最終的には琵琶湖でその効果を実証したいと考えています。現在、企業と共同で研究を進めている他、中国の大学からも関心が寄せられています。日本に留まらず、中国をはじめ、世界の水質改善に貢献できたらと、夢は拡がっています。

Quarterly Report vol.02 2010年7月10日

今中忠行教授

今中忠行教授

1969年 大阪大学大学院工学研究科発酵工学専攻修士修了。博士中退。'73年 工学博士。'70年 大阪大学工学部助手、'81年 同助教授、'89年 同教授。'96年 京都大学大学院工学研究科教授。'08年 立命館大学生命科学部教授、現在に至る。日本化学会、日本農芸化学会、日本生化学会、環境バイオテクノロジー学会、極限環境微生物学会、アメリカ微生物学会、アメリカ化学会、国際環境バイオテクノロジー学会に所属。'03年 アメリカ微生物学アカデミーフェロー、'05年 日本化学会賞、'08年 環境バイオテクノロジー学会賞、'09年 日本化学会フェローを受賞。'05年より日本学術会議会員。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:今中忠行
立命館大学 生命科学部 生物工学科 環境バイオテクノロジー研究室 (今中研)

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