天然テトラピロール分子を基盤とした環境調和型光応答材料の創製 | 光合成のメカニズムを活用した光応答デバイス

地上最大のエネルギー変換反応・光合成のメカニズムを解明します

光合成は、地球上で行われている最大の物質(化合物)生産反応であり、現存する系の中では最も高い光エネルギー変換効率を持つ反応です。その生産量は人間が化学工場で作り出す規模など遠く及びません。この自然による驚異のエネルギー変換反応のメカニズムを解明することが、エネルギーや食糧、環境問題といった、人類が直面する多くの課題を解決する一助となると私たちは考えています。植物の光合成で光を吸収する役割を担っているのは、クロロフィル(葉緑素)と呼ばれる色素分子です。光合成生物においてクロロフィルがどのように作られているのか、私たちはこれまでにほとんど知られていなかった仕組みの一端を明らかにしました。

暗所での光合成色素合成の仕組みから
植物の進化の一端を明らかにしました

一般に、植物は光が当たって初めて葉緑素が作られ緑色になります。しかし一方でマツなどの裸子植物や藻類は、光の当たらない環境でも緑色になることがわかっています。私たちはこうした暗所で緑色になる植物において、クロロフィルが生成される最終段階、すなわち緑色に変換される反応経路を解き明かしました。この反応において、暗所では光非依存型プロトクロロフィリド還元酵素(DPOR)が、明所では光依存型プロトクロロフィリド還元酵素(LPOR)が用いられ、これらの還元酵素はまったく異なるものです。私たちはDPORをX線結晶構造解析し、世界に先駆けてこの立体構造を明らかにしました。その結果、この還元酵素が、窒素固定を行う酵素(ニトロゲナーゼ)と非常に似ていることを突き止めました。また反応の際、新規の金属クラスターが用いられ、基質(プロトクロロフィリド)分子自身の中に水素イオン(プロトン)の供与体があることも見出しました。これはこれまでには見られたことのないユニークな反応機構です。

こうしたことから、光合成と窒素固定というまったく異なる反応に関わる酵素が、共通の祖先酵素から進化してきたと推測できます。植物の進化の過程に一つの解答を示したといえるでしょう。さらにこうした構造解析を実現したことによって、将来的には有用な酵素の創出にも可能性が広がります。

人工光合成アンテナを創成し、光応答反応を確かめました

一方で、本プロジェクトでは、クロロフィルやヘムなどテトラピロール分子を基本構造に持つ生体内物質の機能の解明を通して、化学的なアプローチから環境調和型の光応答材料を創製しようとしています。

太陽光はエネルギー密度が低く、昼夜や天候、環境によって地表に降り注ぐ光の強さが異なります。そのため、光合成生物は効率よくエネルギー変換を行えるよう、タンパク質組織体を反応場として光を集めるアンテナ部を有しています。クロロフィル分子は大きなπ平面を持ち、それ自身で光を集積する能力に長けています。さらに、クロロフィル分子をアンテナ部内のタンパク質の中に固定し、整然と配置することで、さらに効率を高めているのです。

ところが近年、極めて光強度の低い環境に生息する嫌気性緑色光合成細菌の膜外アンテナ部(クロロゾーム)では、タンパク質なしで特別なクロロフィル色素分子が自己集積し、アンテナ色素を形成することがわかってきました。この自己会合体が確固とした超分子構造をとり、光の収穫・伝達系として機能しています。

クロロゾーム内のクロロフィル色素分子とそのモデル化合物

このことを確かめるために、私たちは、生体系アンテナ色素分子のモデル化合物を開発し、タンパク質を用いないで光の吸収・伝達系を有する人工クロロゾーム系を構築することに成功しました。天然のクロロフィル分子は、テトラピロール環の中心にマグネシウム(Mg)を配し、長鎖アルコールがエステル結合した構造を持っています。これを見本に、まず自己会合に必要な水酸基とカルボ二ル基(C=O)を持ち、中心金属をMgから亜鉛(Zn)に代えた人工クロロフィル分子を合成しました。次に、天然ではクロロフィル分子の自己会合が、脂質分子によって形成された疎水的環境で行われることを模して、合成したクロロフィル分子を低極性有機溶媒中に投入することで、それらの合成色素分子を容易に自己集積させ、太さが5nmで長さが1500nm(1.5μm)にも及ぶ棒状の自己会合体を形成することを確認しました。

合成クロロフィル分子による棒状自己会合体(原子間力顕微鏡図)

さらには、この人工クロロフィル分子を超分子集積化させてから基板上に固定化し光を当てると、超分子体が光を吸収してエネルギーや電子を移動させることも確かめました。これにより、光エネルギーを活用したプリミティブな光電池の作成が可能なことが示されました。

テトラピロールで新規の光応答デバイスを創製します

今後は、光応答材料を創製し、実際に光電池として実用可能なデバイスの開発を目指していきます。その他にもクロロフィルをはじめとしたテトラピロール分子の応用可能性は多様に広がっています。環境、食糧、エネルギーといった問題のみならず、抗がん剤やがん検知薬としても効果が認められるなど医療面にも役立てることが可能となりました。

こうした実用化への道筋を確固たるものにするためにも、光合成を分子レベルで解明するとともに、引き続き人工光合成を実現する研究も進めていきます。クロロフィル分子の解明が、人類の未来にとって大きな意味をもつものになることを期待しています。

Quarterly Report vol.03 2010年10月7日

民秋 均 教授

民秋 均 教授

1986年 京都大学大学院理学研究科化学専攻博士後期課程修了。理学博士。'86年 京都大学理学部研修員、'87年 日本学術振興会特別研究員、京都大学理学部化学教室助手。'91年 アレキサンダーフォンフンボルト財団奨学研究員、'93年 立命館大学理工学部助教授、'98年 科学技術振興事業団さきがけ研究21研究員、'99年 立命館大学理工学部教授、'08年 同校薬学部教授、現在に至る。日本化学会、光化学協会、国際光合成研究学会、国際ポルフィリン・フタロシアニン学会、日本・ヨーロッパ・アメリカ各光生物学会、有機合成化学協会、ドイツ化学会、複合系の光機能研究会等に所属。'06年 光化学協会賞を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:民秋 均
生物有機化学研究室

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