多次元医用データの統計モデリングと診断補助支援(CAD)システムの開発 | 医用画像と電子アドラス(データベース)で診断・治療を強力に支援する新システム

画像診断支援システムの構築を目指しています

CT、MRIなど人体の内部構造を撮影する技術が著しく進歩し、医療の現場において画像に基づく診断・治療は珍しいものではなくなりました。しかし、こうした医療機器から得られる画像にはそれぞれ異なる特徴がありますが、未だこれらの特徴を十分に生かす技術が確立されているとはいえません。

私たちは、診断・治療技術のいっそうの向上に寄与するべく、さまざまな特性を持つ医療機器から得られる多次元の情報を組み合わせた、新しい画像診断支援システムを構築しようと試みています。情報技術に解剖学や医療の知識を盛り込み、実際の医療現場で診断や治療を支援できるような現実性のあるシステムを完成させることが目標です。

本プロジェクトでは、滋賀医科大学や関西医科大学などの協力を得て、CT、MRIなどの医用画像の収集とデータベースの構築、画像処理による統計的モデリング、さらに構築したモデルの可視化と、大きく3要素の開発を進めています。最終的には、診断だけでなく、治療のシミュレーションまで可能なシステムの実現を視野に入れています。

電子アドラスを用いた知的診断支援システム

形状と濃度値の両方を含んだ統計モデルを世界で初めて構築しました

これまでに得た最も大きな成果の一つは、濃度値[テクスチャ(注1)]を含めた臓器の統計ボリュームモデリングに世界で初めて成功したことです。これまでに臓器の3次元統計形状モデルはほぼ確立されていますが、それだけでは確実な診断支援にはつながりません。現実には、医師がCT画像などから臓器の形状だけでなく、濃度も診て疾患の有無などを判断するからです。また、人体や臓器には個人差があり、モデリングにあたっては、こうしたバリエーションも考慮する必要があります。しかし、医用ボリュームデータは次元数が膨大で、従来の主成分分析法を用いたのでは汎化能力を持つ統計モデルを構築することができませんでした。

私たちは、データをテンソルとして扱うことでこれらの課題を解決し、多次元医用データを多次元のまま解析できる手法「一般化N次元主成分分析法(GNB-PCA)」を開発しました。実際に17例の脳のMR画像を撮影し、Leave-one Out法で検証実験を行ったところ、16例を学習サンプルとしてモデルを作成し、残りの1例をテストサンプルとしてモデルの性能を検証した結果、少数のサンプルからもボリュームデータを精度よくモデリングできることがわかりました。

(注1) テクスチャ … 3次元コンピュータグラフィックスで物体の表面や質感を表す模様、または画像のこと。

世界でトップレベルの精度で肝臓の画像を分割することに成功しました

最近の成果として特筆すべきは、CT画像から肝臓分割を成功させたことです。肝臓疾患の診断と治療においては、さまざまな臓器が写ったCT画像から、肝臓のみを分割することが求められます。しかしもともと臓器にはランドマークとなる特徴点があまり存在していないため、サンプル間の正規化が極めて困難な上、特に肝臓の形状や濃度値は、他の臓器と比べて個人差が大きく、いまだ肝臓の自動分割法は確立されていません。本プロジェクトでは、K-meansクラスタリングと先験情報を用いて、コントラストの低い(Low-Contrast)画像でも肝臓を分割できる方法を考案しました。

手術計画のための肝臓とその血管構造の可視化(関西医科大学との共同研究)

まずK-meansクラスタリングによって、CT画像から肝臓ではないと思われる部分を拒絶し、肝臓である確率の高い候補点を自動的に抽出。複数の症例から抽出した候補点をポインティングした画像を正規化し、肝臓分割のモデルを作りました。

実際の医用画像データベースを用いて肝臓の分割実験を行い、その有効性を確認しました。さらに医用画像分野で最も権威あるといわれる国際学会“MICCAI(Medical Image Computing and Computer-Assisted Intervention)”の肝臓分割コンテストにおいて世界で22位という成績を収めました。まだ十分とはいえないものの、ヨーロッパがけん引する画像診断技術と比べても、世界のトップレベルであることが示されました。

肝臓の構造を3D画像で可視化し、
診断・治療シミュレーションも視野に入れています

すでに私たちは、肝臓の3次元画像の表示も実現しています。3D化にあたっては、肝臓の形状だけでなく、内部の血管の構造も明らかにする必要があります。私たちは、造影剤を血管から注入し、ダイナミックCTを用いて一定の時間差で肝臓を撮影。動脈、静脈、門脈の血流時間が異なることを利用し、各血管を識別、抽出しました。さらにそれをサンプル間の正規化を行って一つの画像に融合させ、3D画像を作り上げました。複雑に入り組んだ各血管の構造を、奥行きや太さなども実感しながら見極めることができます。

現在は、ハブティック(触覚)デバイスを用いて患部や血管に迫る対話的な可視化システムの開発にも着手しています。いずれは血管に加えて腫瘍も組み込み、メスで切りこむなどといった手術をシミュレートする技術の開発も進めていきます。たとえば肝腫瘍の切除手術において事前に肝臓内の血液分布を可視化できれば、それをもとに計画を立てることができ、手術中に重要な血管を切断してしまうといった重大な事故を大幅に減らすことが可能になります。このシステムの完成によって、診断精度を飛躍的に向上させるだけでなく、治療においても大きな役割を果たすことができると期待しています。なお、本研究は関西医科大学との共同研究で行っています。

Quarterly Report vol.03 2010年10月7日

陳 延偉 教授

陳 延偉 教授

中国杭州市生まれ。1981年 来日、'85年 神戸大学工学部卒業。'90年 大阪大学工学研究科博士課程修了。工学博士。'91年 レーザー技術総合研究所研究員、'94年 琉球大学工学部講師、'95年 同助教授、'03年 同教授。'03年 オークスフォード大学客員研究員などを経て、'04年 立命館大学情報理工学部教授、現在に至る。電子情報通信学会、日本医用画像工学会、IEEEに所属。中国科学院Overseas Assessor、 国際学術誌International Journal of Image and Graphics (IJIG)副編集長。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:陳 延偉
知的画像処理研究室

このプロジェクトに関連する記事

研究成果一覧へ戻る