ナノスケールで組織構造を精密制御できる有機・無機ハイブリッドナノ微粒子の創製 | 新機能・高性能を示すナノスケールの有機・無機ハイブリッド材料

液晶という有機材料と無機材料をナノスケールで複合します

有機物・無機物と、それぞれ独自に発展を遂げてきた機能性材料開発の分野で、近年、有機・無機を組み合わせた複合(ハイブリッド)材料が注目を集めるようになっています。ナノレベル、分子レベルで有機物と無機物を複合することにより、各物質単独では得られないような物性や機能をもった新しい材料をつくれるのではないかと期待されているからです。私たちは、有機と無機のハイブリッドナノ微粒子を組織化した状態、すなわち凝集構造に焦点を当て、それを制御することで材料としての機能を高めようとしています。

無機材料は、原子同士が強固に結合しているため、凝集構造を制御するのは容易ではありません。一方、有機材料では、有機分子が自発的に組織化し、規則構造を構築する「自己組織化」が起こり、加えて光や電場、磁場などの外場に応答して配向や配置を変える性質があります。私たちはこうした有機材料の中でも液晶に着目しました。

本プロジェクトでは、液晶と金属などの無機材料をナノスケールでハイブリッドし、液晶の自己組織性を利用して凝集構造を制御することで新しい機能をもつナノ材料を創製することを目指しています。有機と無機の複合材料はこれまでに数多く検討されていますが、ナノスケールで有機液晶と無機微粒子の秩序構造を形成し、外場から制御する試みは、まったく新しい挑戦です。

有機と無機の原子を結合させた金錯体の発光挙動を制御できました

これまでに私たちは、金(Au)のナノ微粒子と、アゾベンゼン液晶とを結合させた金属ナノ微粒子を合成し、この微粒子が、液晶の性質によって自己組織化されることを確かめています。これに光を照射すると、凝集構造が変わることも確認しました。このことは、液晶の外場応答性によって金属ナノ微粒子を制御できることを示しています。

また、分子をさらに細かくした原子レベルにおいて、金と有機化合物を融合した三核金錯体に液晶性を付与することにも挑んでいます。金錯体は、金原子の間で起こる相互作用に基づいて強く発光することが知られています。言い換えれば、発光が錯体の凝集構造に影響されるということです。プロジェクトでは、有機化合物である液晶に金原子を導入して原子間の配向や位置といった凝集構造を変え、発光を制御しようと目論んでいます。

非液晶性・液晶性

まず私たちは、中心に3つの金原子を含む円盤状の固い構造をもち、その円盤からアルキル鎖という柔軟な構造の鎖が6本伸びている三核環状金錯体を分子設計し、合成しました。柔らかなアルキル鎖の長さを最適化し、液晶状態を発現させようと試みていますが、現在のところ液晶性の発現には至っていません。ただし、この三核金錯体に紫外線を照射して発光挙動を調べたところ、結晶状態では強く発光し、結晶が溶け、固体から溶融状態に変わるに伴ってまったく光らなくなるという結果を得ました。これはつまり、結晶という緊密な凝集状態と、溶けて凝集がバラバラになった状態とでは発光の強さが異なるということです。このことから、熱を加えて凝集構造を変化させることで、発光のオン・オフの制御が可能であることが判明しました。そして、ある特定の長さのアルキル鎖をもつ場合は、冷却速度によって凝集構造が変わり、発光色(波長)が変わることも突きとめました。これにより、凝集構造を変えることで発光色を制御できる可能性も見えてきました。

さらに、ナノ金属酸化物のひとつであるポリオキソメタレートと液晶の結合も実現しました。これについても新たな機能の発現を探索中です。

既存報告より安定的な液晶性金錯体の合成に成功しました

続いて私たちは、分子構造を設計し直し、液晶性金錯体の合成を再び試みました。今度は中央の円盤状の分子に五員環を構成するピラゾールを結合させ、ピラゾール配位子をもつ、より大きな円盤状の骨格を設計。その周りに先述と同様、柔らかいアルキル鎖を結合させた金錯体を合成し、アルキル鎖の炭素数を変えて、液晶状態が発現するかを調べました。炭素数が7と8の場合については、すでにモノトロピック(単変性)液晶が発現することが報告されています。そこで私たちは、炭素数5および6の金錯体を合成したところ、モノトロピック液晶よりもさらに安定的な構造をもつエナンチオトロピック(互変性)液晶を発現させることに成功しました。その構造は、中央部の円盤状の分子が規則正しく積み重なって安定的なカラム(円柱)を形成した、カラムナー(柱状)液晶相を示します。一般には、柔軟な構造をもつアルキル鎖を長くすることで液晶相が発現しやすくなると考えられていますが、今回アルキル鎖を短くしたことで、より安定的な新しい液晶を見出したことは、極めて興味深い成果といえます。

液晶性三核金錯体のからの発光

次いで私たちは、炭素数5から8の金錯体について、結晶状態での発光挙動を探りました。350nmの紫外線を照射したところ、いずれの金錯体でも発光が観察されたものの、結晶構造の異なる炭素数5の金錯体のみ、特殊な発光スペクトルを示すことがわかりました。また、冷却経路の異なる二種の結晶相、カラムナー液晶相、等方相の発光挙動を調べた結果、4つの金錯体すべてで発光が認められただけでなく、各相で発光の波長(色)が異なることを確かめました。ここでも凝集状態の違いによって発光の色をコントロールできる可能性を見出したわけです。

今後は、電場や磁場をかけるなど、違った外場で発光挙動を制御できるかを調べること、また、より短いアルキル鎖でも液晶相を発現するかを確かめることなどが課題です。

以上の結果が示唆するのは、私たちの創製するハイブリッド微粒子が種々の発光材料やデバイス、EL材料の開発へと発展させていく未来です。たとえば、現在EL材料として開発されているイリジウムなどのレアメタルを含む錯体にこの金錯体がとって替われば、産業界に新たなインパクトを与えることになるかもしれません。

Quarterly Report vol.04 2011年1月5日

堤 治 准教授

堤 治 准教授

1993年 熊本大学工学部応用化学科卒業。'97年 日本学術振興会特別研究員。'98年 東京工業大学総合理工学研究科化学環境工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。'98年 カリフォルニア工科大学博士研究員、'99年 アリゾナ大学博士研究員、'99年 東京工業大学資源化学研究所助手、'03年 (株)荏原総合研究所研究員、'07年 立命館大学理工学部応用化学科准教授、現在に至る。American Chemical Society、日本化学会、高分子学会、日本液晶学会、近畿化学協会、American Association for the Advancement of Scienceに所属。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:堤 治
高分子材料化学研究室

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