対人援助学の展開としての学習学の創造 | 対人援助学を超え、主体的な学習を可能にする「学習学」の創成へ

「積極的学習者」であることを支援する
新たな対人援助の方法論を探っています。

対人援助における目標は一般に、何らかの「障害性」を持つ個人に対し、「当事者(被援助者)の自己決定に基づいて、社会参加のための行動の選択肢を拡大する」ことと設定されます。援助者の役割は、いわば「当事者がやりたいことを決め、その行動範囲を増やしていけるよう過不足なく援助する」ことです。10年にわたって私たちはこの実践的行為を科学的に研究し、「対人援助学」という学範づくりに取り組んできました。

わたくしがとりわけ焦点を当てているのが、「就労支援」です。就労支援の多くは、各職場に即した特定のスキルを教えるといった、“課題適応的”なものに終始しがちです。一方、私たちは新しいアプローチとして、当事者が「積極的学習者:アクティブ・ラーナー」となることを支援の目標に設定しています。「アクティブ・ラーナー」とは、「当事者が他者の助けを借りながら自らや環境をより良く変えていける、主体的に行動する中で自ら成長していける人」と説明できます。この目標設定をあらわすものとして「他立的自律」という表現を用いています。目指すのは、特定の仕事でしか通用しないスキルを身につけさせることではなく、どんな職場や職種であっても「自分で」必要な力を獲得していけるよう支援すること。それができれば、就労機会が増えることはもちろん、一つの職場で継続して働き、キャリアップし続けることにも役立ちます。またこうした対人援助の試みは、障害を持つ人に留まらず、大学生や私たちを含めた働く人の“キャリア支援”にも応用することができます。

私たちは本プロジェクトを通して、個人が絶えず「アクティブ・ラーナー」であり続けることのできる支援や社会関係を構築するための方法論、技法、哲学を探求しています。さらにそれを「学習学」というこれまでにない学範として確立することをも展望しています。またプロジェクトでは、支援者から被支援者への一方通行の効果のみならず、支援する(サービス)者も支援を通して学ぶ(自らの行動改善)「サービス・ラーニング」にも着目します。そのための独自の方法として、学生によるジョブコーチシステムを取り入れています。ジョブコーチとは、一般的には職場適応を支援する方法論の一つです。ここで対象となる他者の「他立的自律」が成立するための「支援する」行為やその記述が、支援者自らの行動にどのような変化をもたらすかについても検討し、そこに共通する原則を分析的に定位して、普遍的なロジックを見出したいと考えています。研究の一つとして、特別支援学校に通う高校生の職場実習に随行し、ジョブコーチを実践する学生が、自らの活動をキャリアアップにつなげられているか、また芸術系の大学生のプロジェクトベースの教育場面でどのように自らのキャリアアップを実現していけるかなどを調査しています。さらに、ちょっと変わったところでは、動物へのトレーニング経験というものが、人への援助や支援方法に影響をもたらすかといった研究も行っています。

立命館大学キャンパス内の実践フィールドで
「積極的学習者」を支援する実証研究を行いました。

プロジェクトの1年目、立命館大学のキャンパス内に実験・研究施設として喫茶店“カフェ リッツ”をオープンし、特別支援学校の高等部の生徒たちの職場実習の場として活用しました。あらかじめ多様なシチュエーションを設定し、注文や接客シーンをデザインして当事者がそれらの状況に対応できるか、またできない場合にはどのような支援が必要かを確かめました。今回、特にそのための設定要件として取り入れたのが、キャンパス内での「デリバリーサービス」です。デリバリーでは、どの場所に、どの商品を何個、何時に届けなければならないなど、求められる行動がより複雑になります。対象者は、届け先に行くまでにかかる時間や空になった器を回収する時間などを考えつつ、一方で店内の客にも対応しなければなりません。配達の時間になって急に店舗が混んでくるといったシチュエーションも設定に組み込みました。

「立命館大学学生ジョブコーチシステム」の実践の場として、2011年2月中旬、学内に“カフェ リッツ”をオープン。

その結果、状況の変化に適応するのは難しいと考えられていた生徒が計画的にタスクを示し、それに対して適切な支援を行うと、自らスケジュールをアレンジし直すなど、次第に自分で状況に対応するようになることが明らかになりました。すなわち適切な場面設定と支援によって、喫茶店で求められるルーティンのスキルを超えて、「スケジュールを管理する」「複数の課題に対応するためのメモをとる」といった、より普遍的な「アクティブ・ラーナー」としての能力を獲得できる可能性が示されたのです。ここで得た知見をもとに、どのような支援や環境設定が必要かを分析し、方法論や技法の構築につなげていきます。

「ポートフォリオ」の記述と情報移行
新たな課題が見えてきました。

こうした試みにおける、もう一つの(あるいは最も重要な)課題は、当事者が獲得した能力とその発現に必要な支援についての情報を、別の支援者に適切に移行していくための方法を見出すことです。ライフステージの各段階で獲得した能力を記述したポートフォリオを作成し、それを「キャリアパスポート」として積み重ねていけば、次の段階では、それを参考により高度な、あるいは別の能力を的確に伸ばすことに役立ちます。文部科学省でも、学校教育における個別の教育プログラムとして、個人のポートフォリオの作成を奨励されています。こうしたポートフォリオを生まれた時から生涯にわたって積み重ねていこうという動きも、生まれつつあります。しかし私たちが実態を調査したところ、各ライフステージにおけるポートフォリオの情報移行がスムーズに行われていないのが現状でした。今後は、周囲の支援者だけでなく、対象となる本人自身がポートフォリオを記述したり(これももちろん「援助」つきで良いのですが)、記述された情報を把握し、自らの「キャリアパスポート」として携えていけるような仕組みを整えていく必要があるでしょう。

また情報を適切に移行していくためには、各々の支援者が各場面で対象者の「適切な援助つきで『実現可能な能力』を発見し、その獲得を支援する」ことに加えて、さらにその援助(てだて)を込みにした行動を「的確に記述する」ことも不可欠です。今後、こうした支援者の記述内容や表現方法の作成にも挑んでいくつもりです。

Quarterly Report vol.06 2011年7月10日

望月 昭 教授

望月 昭 教授

1979年 慶應義塾大学社会学研究科心理学博士課程単位取得満期退学。博士(心理学)。'79年 慶應義塾大学文学部助手。'83年 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所能力開発部研究員。'98年 立命館大学文学部教授。'01年 立命館大学大学院応用人間科学研究科教授兼務初代研究科長、'04年 立命館大学人間科学研究所所長、現在に至る。日本対人援助学会、日本行動分析学会、日本心理学会などに所属。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:望月 昭
望月昭のホームページ

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