統合型スポーツ健康イノベーション研究 | 生活習慣病の予防・改善に新たな可能性をもたらす性ステロイドホルモン

トップアスリートのパフォーマンスから高齢者の健康まで
遺伝子から細胞・器官、個体、行動まで、統合的に研究しています。

共同研究者 家光 素行准教授 / 藤田  聡教授 / 佐藤 幸治氏

本格的な少子高齢化社会を迎える我が国において、生活習慣病の予防・改善や運動による健康増進は、いまや個々人にとどまらず、政策レベルでも重要な課題となっています。厚生労働省が「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の中で身体活動・運動や栄養・食生活などを国民の重点課題に設定し、2008年にはメタボリックシンドロームの予防・改善を目的としたハイリスクアプローチとして「特定健康診査・特定保健指導」が義務化されました。こうした社会的要請に応える形で、2010年、立命館大学に「スポーツ健康科学部」ならびに「スポーツ健康科学研究科」が開設され、国内外で意欲的に活躍する多くの研究者が結集して先進の設備・機器を駆使し、本学の理工系4学部や人文社系学部とも連携しながら革新的な研究に取り組み、スポーツ健康科学分野に新たな地平を拓こうとしています。

私たちのプロジェクトの最大の特長は、トップアスリートのパフォーマンスからこどもの体力や中高齢者の生活習慣病予防と健康づくり、さらには認知・行動、心理まで、多岐にわたる研究領域を網羅する点にあり、これだけの領域を統合して推進しようとする研究は、これまでに例を見ません。加えて、遺伝子から細胞・器官、個体、さらに行動や心理にいたるまであらゆる解析手法を統合して研究に取り組むことも先例を見ない試みです。今後国際的にも大きなインパクトを与える研究成果を発信できるものと期待しています。

私はスポーツバイオメカニクスの領域からこのプロジェクトにかかわっているのですが、中でもこの1年間は、藤田 聡教授をリーダーとした遺伝子からヒトの器官までを対象とする研究グループが顕著な成果を挙げてきましたので、ご紹介させていただきます。

遺伝子レベルでの解明からヒトへの応用までを
視野に入れた骨格筋の機能解明に取り組んでいます。

藤田教授の研究グループでは、骨格筋の機能解明に取り組んでいます。骨格筋は力を出すのに必要なだけでなく、糖質や脂質の代謝をコントロールする上でも重要な組織の一つです。とりわけ本プロジェクトでは、老化に伴う骨格筋量の減少(サルコペニア)を引き起こすメカニズムを解明し、その予防策を考案しようとしています。私たちの研究の先進性は、基礎研究からヒトへの応用まで多角的な視点でアプローチするところにあります。骨格筋タンパク質の代謝動態や機能について遺伝子レベルで解明を進めると同時に、その結果を一般成人の健康維持・増進やアスリートのパフォーマンス向上を支える運動処方、サプリメントも含めた栄養摂取の研究に生かしています。

この研究グループの一員である家光 素行准教授らは性ステロイドホルモンと生活習慣病との関連について研究しています。生活習慣病の一つである糖尿病に運動療法が効果を発揮することはよく知られています。運動によって骨格筋の中の糖輸送担体GLUT4の発現が増え、骨格筋からの糖の取り込みを亢進し、インスリン抵抗性を改善する例も数多く報告されています。一方で2型糖尿病や肥満、メタボリックシンドロームの患者には性ホルモンの前駆体であるDHEAが健康な人よりも低下しているという報告があり、そのために加齢とともに生活習慣病の発症リスクが高まることが示唆されています。

また、性ホルモンは一般に、卵巣や精巣から分泌されると考えられていますが、近年それ以外の器官でも分泌される可能性が指摘されてきました。家光准教授らはこれらの関係に着目して研究を進め、骨格筋でもDHEAからテストステロン、エストロゲンといった性ステロイドホルモンを合成するできることを世界で初めて報告しました。加えて、性ステロイドホルモンが骨格筋におけるGLUT4を発現させ、その後の糖利用を促進させる役割を担っていることも新たに発見しました。さらに、骨格筋内の性ステロイドホルモンが糖代謝の調節経路を活性化させるといったメカニズムも解明しました。

基礎研究の知見を応用科学に発展させる研究手法(Translational Research)のイメージ図

骨格筋内の性ステロイドホルモンを増やすことで
生活習慣病発症のリスクを抑える方法を検討しています。

次に性ステロイドホルモンの合成を促進させることで糖代謝を亢進させ、糖尿病をはじめとする生活習慣病発症のリスクを抑えることができるのではないかと考えました。まず検討したのは、骨格筋内の性ステロイドホルモンを増やす方法です。性ホルモンの産生を促す栄養成分を探る一方、運動によっても骨格筋内の性ステロイドホルモン(DHEA、DHT)量が増えることを突き止め、その結果、GLUT4が改善されることも確かめました。すなわち先に述べた、運動によって骨格筋内のGLUT4の発現が増えるプロセスに性ステロイドホルモンの増大が関連していることを裏づけたわけです。

現在は2型糖尿病や肥満した患者の低下した性ステロイドホルモンを栄養成分や運動によって増加させることが実際にインスリン抵抗性の改善につながるか、とりわけ骨格筋や脂肪細胞内の性ステロイドホルモンの増大がその機序に関わるかを探っているところです。焦点を当てたのは、自然薯や山芋に含まれ、DHEAと類似した構造をもつジオスゲニンです。糖尿病モデルラットにジオスゲニンを投与し、血糖値の改善を確認するとともに、血糖値が下がった時、骨格筋内の糖代謝調整経路に影響を与えるタンパク質の発現の有無や、血中および骨格筋内の性ホルモン(DHEA)の濃度を測定しています。

また一時的な実験だけでなく、長期にわたって運動とジオスゲニン投与を続けた場合についても検討中です。ジオスゲニンの効果を確認できれば、今後サプリメントや効果的な運動プログラムの開発など、ヒトへの応用につなげていきたいと考えています。

なお、本プロジェクトに関連し、プロジェクトメンバーであるポストドクトラルフェローの佐藤 幸治先生らは、安静時の糖代謝を上げる物質を見出し、2010年のアメリカ生理学会で報告して、若手研究者に贈られる奨励賞を受賞しました。

Quarterly Report vol.06 2011年7月10日

伊坂忠夫 教授

伊坂忠夫 教授

1985年 立命館大学産業社会学部卒業、'87年 日本体育大学大学院体育学研究科修士課程修了。博士(工学)。'87年 日本体育大学体育研究科助手等を経て、'92年 立命館大学理工学部助教授、'03年 同理工学部教授、'10年 同スポーツ健康科学部教授、現在に至る。その間、'95年 ジョージア工科大学客員研究員、'04年 テキサス大学客員研究員。日本体育学会、日本体力医学会、日本バイオメカニクス学会、日本機械学会、日本ロボット学会、トレーニング科学研究会、国際バイオメカニクス学会(ISB)、アメリカスポーツ医学会(ACSM)に所属。'94年 第6回トレーニング科学研究会賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:伊坂忠夫
伊坂忠夫研究室
立命館大学 理工学部 ロボティクス学科 運動知能研究室 川村・伊坂研究室

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