対人援助学の展開としての学習学の創造 | 紛争の解決と平和の構築に実効力を発揮する新しい「平和学」

学際的なアプローチから地域のニーズをくみ取り、
政策提言を前提とした「平和学」の構築を目指しています。

このプロジェクトが目指しているのは、従来の「平和学」から脱却し、新しい「平和学」を打ち立てるとともに、そのための研究拠点を、ここ立命館大学国際関係学部を中心に形成することです。私たちの構想する「平和学」の独自性は、次の3つにあります。

一つは、「政策志向型」であることです。いわゆる古典的な平和学が、平和運動や思想、哲学などを研究の柱として、オポジションとしての政治色を帯びていたのに対し、私たちは、政策としての平和協力を考えます。世界各地で繰り広げられている紛争の実態に目を向け、政策提言を通して実効力のある平和協力に結びつけていくことを志しています。

二つ目には、理論研究ではなく、地域研究に立脚して、「現地からの発信」を重視する点です。現地に足を踏み入れ、そこに暮らす人々の立場から実態を理解し、彼らにとって意義のある平和のあり方を導き出すことが重要だと考えています。

さらに三つ目には、「学際的なアプローチ」で研究を進めることです。現代の紛争はその多くが「内戦型」と呼ばれるもので、政治やイデオロギーの対立を原因とする従来の紛争とは異なり、宗教や民族などのアイデンティティの衝突、貧富の格差といった経済的不平等の先鋭化、土地や資源の所有を巡る対立、気候変動や環境悪化によるコミュニティの生活変容など、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こります。単一の学問領域から迫っても、こうした紛争を解決し、持続可能な平和を実現するための有効な政策的知見を見出すことはできません。国際関係学や経済学、民族学、政治学、地理学、環境学といった社会・自然科学の学問領域を融合させ、総合的にアプローチすることが必要です。

立命館大学国際関係学部には、多様な学問領域を専門とする人材が数多く集い、幅広い教育・研究活動を展開しており、日本を代表する新しい平和学の研究拠点となり得ると、大いに期待しています。

東南アジアのポスト紛争地域の社会復興のカギは
「治安の回復」にあります。

プロジェクトでは、アフリカ、中東、南アジア、東南アジア、南米の5つの地域を対象に、とりわけ紛争を経験した後のポスト紛争国について研究しています。まずは、各国・地域における政治社会構造や紛争被害、治安システム、社会経済開発、国際支援の5つの視点から地域の実態を把握し、紛争後の課題を抽出することから始めています。その結果をもとに、地域の人々のニーズに即した平和協力のあり方を探り、政策提言につなげていくつもりです。

プロジェクトがスタートして1年、研究実績が蓄積されてきたことに加えて、平和構築政策に関心を持つ大学院生も増え、教育・人材育成を含めた成果が徐々に表れつつあります。

中でも私は、東南アジア地域を対象に研究しています。例えばインドネシアでは、1999年から2004年頃にかけて、いくつものコミュニティ間で民族・宗教紛争が勃発しました。2005年頃までには紛争の多くが終結し、日本を含めたさまざまな国からの支援によって、現在復興を遂げつつあるというのが、国際社会の大方の見解です。しかし私たちが現地に入り、内部から実情を眺める中で、これまで語られてこなかった平和構築の課題が浮き彫りになってきました。

特に着目すべきは、治安の悪化とそれに伴う犯罪の増加です。紛争終結後、紛争地域では政治基盤が脆弱になり、治安機構も十分に機能しないために犯罪組織がはびこり、人身売買や麻薬の売買、武器の密輸、違法伐採や違法漁業といった資源の略奪など、さまざまな犯罪が横行しています。さらに深刻なのは、犯罪組織が権力構造と癒着し、国際社会からもたらされる支援や投資が有効に活用されない構造を生み出していることです。外部からは一見社会が安定したかに思えても、実は犯罪組織に汚染された社会経済の仕組みが着々と構築されつつあるのです。これでは、たとえ紛争は終結しても、平和が実現したとはいえません。

紛争中の軍事介入や紛争後の経済支援に留まらず、ポスト紛争地域における「治安の回復」に重点を置くことこそが、真の社会復興を導くカギとなると考えています。そのためには地元の警察力と司法システムの向上が必要です。研究によって、こうした平和協力における新たな視点が見えてきました。そこで、ASEAN各国で政策提言力を持つシンクタンクが集まった「ASEANシンクタンク連合(ASEAN ISIS)」とも連携し、「治安の維持・回復」に焦点を当てた平和構築を模索しています。

新しい安全保障の規範づくりにおいて
日本がリーダーシップを発揮するのにも寄与したい。

今後、将来を見すえて日本とアジア諸国との関係を構築していく上でも、これまでのような経済協力だけではもはや十分とはいえません。アジア地域全体の「安全保障」というより大きな枠組みでの国際協力が求められるようになるでしょう。軍事的な安全保障では、日本にできる貢献には限界があります。反面、大きな期待が寄せられているのは、非軍事的な貢献です。その文脈で、平和構築は、域内安全保障協力の対象として、これからもっと注目されると考えています。日本の平和構築支援を、より「人間の安全保障」のパラダイムと融合させることで、非軍事的な安全保障問題への対応においてリーダーシップを発揮するという役割を日本は担えるはずです。私たちは研究・政策提言を通して、それに寄与していきたいと考えています。

さらに言えば、「人間の安全保障」は遠い外国の問題ではありません。2011年3月に発生した東日本大震災のような、人々の生活が脅かされる自然の脅威に際しても考えなければならない課題です。

2011年10月には立命館大学で「アジア太平洋平和研究学会」が開催されます。本プロジェクトでも、「新しい平和学」について世界に向けて発信することに加え、新しい取り組みとして東日本大震災の被災地復興についても提言することを目論んでいます。日本、そして世界の人々が安全に暮らすにはどうしたらいいか、今後もその道筋を探っていきます。

Quarterly Report vol.07 2011年10月10日

アジア太平洋平和研究学会(APPRA)2011年研究大会 開催のお知らせ 日時:10月14〜16日

本名 純 教授

本名 純 教授

1999年 オーストラリア国立大学博士課程修了。Ph.D (政治学)取得。'00年 立命館大学国際関係学部専任講師、'03年 国際協力事業団インドネシア事務所JICA専門家、'03年 立命館大学国際関係学部助教授、'09年 同教授、'09年から JICA研究所客員研究員、'09年 からインドネシア大学連携教授、'09年 京都大学東南アジア研究所客員教授、現在に至る。日本政治学会、日本国際政治学会、日本比較政治学会に所属。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:本名 純

このプロジェクトに関連する記事

研究成果一覧へ戻る