統合型スポーツ健康イノベーション研究 | 生物資源、バイオセンサーとして活用の道が広がる琵琶湖固有種

琵琶湖に生息する固有種は、生物学研究の材料として貴重であり
また地域の食文化形成にも寄与しています。

このプロジェクトでは、琵琶湖固有魚類の細胞株を樹立し、生物資源として保存・活用すると同時に、固有種由来の細胞株を用いた「水質バイオセンサー」を開発しようとしています。将来は、琵琶湖固有種の個体復元や、固有種における細胞生物学の発展へとつなげていくことが目標です。

琵琶湖は、世界で3指に入る古代湖です。しかも外部からの影響をあまり受けず、閉鎖的な環境が長く維持されてきたために、現在でも数多くの固有種が生息しています。こうした固有種は、生物学研究に興味深い知見をもたらすというだけでなく、周辺地域では食料として利用され、なれ寿司や佃煮といった、独自の食文化の形成にも寄与してきました。

しかし近年、さまざまな環境変化によって、固有種の数は減少の一途をたどっています。それらを保存することは、生物資源としてのみならず、生活・文化の保護という観点からも深い意義を持っています。種の絶滅、文化の喪失という取り返しのつかない結果を招く前に、一刻も早い対策が待たれています。

琵琶湖固有種ホンモロコの細胞株樹立に成功しました。

私たちは、琵琶湖固有魚類の中でも数が少なく、絶滅が危惧されているホンモロコに着目し、細胞株、とりわけ幹細胞株の樹立を試みてきました。固有種の細胞株樹立は世界でも成功例は多くありません。培養条件や方法を探るのが難しい上に、遺伝子配列など明らかになっていないことが多いためです。本研究で培養方法を確立できれば、他の固有種の細胞培養や研究の進展にも役立つに違いありません。

幹細胞樹立による琵琶湖固有種の保存と増殖

最初に、滋賀県水産試験場の協力を得て、ホンモロコの生殖巣および受精卵を入手し、ゼブラフィッシュで用いられている手法を基本に初代培養を行いました。培地に添加する増殖因子の条件を変えながら最適な培養条件を探索しました。試行錯誤の末、生殖巣(精巣および卵巣)、受精卵由来の接着性の細胞が増殖できる培養条件を見出し、凍結保存が可能な細胞株を樹立することに成功しました。プロジェクトがスタートして1年で細胞株を樹立できたことは、当初の予想を上回る画期的な成果です。今後、琵琶湖固有種を細胞として保存し、安定的に培養することができるようになれば、将来、個体を復元できる可能性も見えてきます。

現在は、樹立した細胞株の遺伝子発現などを解析し、細胞の特性を調べているところです。今後は、得られた細胞株をフィーダー細胞として、生殖細胞の培養・株化を試みるとともに、固有種における分子細胞生物学研究を展開、発展させたいと考えています。

琵琶湖固有種の細胞株を用いて
水質バイオセンサーの開発を目指しています。

プロジェクトのもう一つの柱として、樹立した琵琶湖固有魚類の細胞株を「水質バイオセンサー」として活用する手だても探っています。化学物質による水質汚染の深刻化は、琵琶湖においても例外ではありません。琵琶湖は固有種をはじめ数々の生物を育むだけでなく、飲料水として私たち人間の生活をも支えています。それだけに琵琶湖の水質を細胞レベルで評価する方法の確立は欠かせません。

化学物質は、幹細胞や細胞分化過程に顕著な影響を与えることが知られています。この特性に目をつけ、幹細胞や細胞分化の過程を化学物質の評価系として用いることを考案しました。先述の成果をもとにホンモロコの生殖巣から樹立した細胞株を使い、バイオセンサーを開発しようと考えています。

一方で、私たちはこれまでにマウスのES細胞を用いたバイオセンサーの開発を進めてきました。研究では、センサーの役割を果たすレポーターとして、Venusという蛍光タンパク質をES細胞に導入し、化学物質の存在する中でこのES細胞を分化させたところ、内在性遺伝子の発現に相関してVenusが発現するのを確認しました。これによって、ES細胞が実際にバイオセンサー(レポーター)として機能することが確かめられたわけです。

今回、ホンモロコ由来の細胞株が樹立できたことにより、化学物質がホンモロコに与える影響を細胞レベルで調べることが可能となりました。今後、マウス由来のES細胞バイオセンサーを参考にしながら、ホンモロコの遺伝情報をもとにレポーター遺伝子を作製し、ホンモロコ由来の細胞株に遺伝子を導入することで、バイオセンサー作製へとつなげていく予定です。

ホンモロコ由来のバイオセンサーを確立できれば、それを用いて琵琶湖の水質が固有種に与える影響を直接評価することができます。さらに、哺乳動物由来のES細胞バイオセンサーと比較すれば、魚類と哺乳類のそれぞれに化学物質がどれだけ影響を与えるかが明らかになり、危険度を推し量ることも可能になります。最終的には、ヒトの視点のみならず、琵琶湖固有魚類の視点を加えた、生態系としての包括的水質環境評価システムの構築を目指していきます。

Quarterly Report vol.07 2011年10月10日

高田達之教授

高田達之教授

1988年 東北大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。'88年 神戸大学助手、'90年 National Institutes of Health (USA) 研究員、'95年 国立小児医療研究センター研究員、'03年 滋賀医科大学助教授、'07年 准教授、'09年 立命館大学薬学部教授、現在に至る。International Society for Stem Cell Research、日本分子生物学会に所属。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:高田達之

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