糖鎖工学による再生医学新領域の開拓 | 安全で安定した食料生産を可能にする多彩な微生物

化学農薬を使わず、手間のかからない農業に
微生物の優れた機能や産生物を役立てます。

このプロジェクトでは、微生物に秘められた無限の機能を最大限活用し、植物の育種・栽培・防除に役立てることを目指しています。化学農薬を使わず、かつ手間のかからない農業を実現し、安全で安定した食料供給を可能にすることが究極の目標です。

地球温暖化、気候変動といった地球環境の変化は、いまや生命の営みの根幹ともいうべき「食」と「環境」を脅かしています。集中豪雨や異常高温などの気象災害、さらに過度の農薬散布といった人為的要因が、訪花昆虫の減少、病害虫や病原体の増加を招き、農作物の収量、品質にも大きな影響を及ぼしています。こうした諸問題を解決し、環境負荷を減らしながら、しかも高安全・高収量・高品質の食料生産を実現するために、私たちが着目しているのが微生物です。

土壌1g中には数億から数十億もの微生物がいると推定されています。微生物の代謝作用や、微生物が産生する酵素やタンパク質の有効性が明らかになって以来、微生物はさまざまな領域で活用されていますが、人類が見出しているのはほんのわずかに過ぎず、そのほとんどはいまだ謎のままです。私たちにとって思いもよらない生理活性を有する微生物はまだまだたくさん存在するに違いありません。

糸状菌の一種から、害虫駆除に応用可能な
新規の糖脂質を発見しました。

本プロジェクトの中核として、まず植物の育種・栽培・培養に有効な微生物、および微生物の産物を収集する「微生物工場(ライブラリー)」の構築を試みています。ここに集めた多種多様の微生物とその産生物の生理活性や機能を分析し、培養や改良をほどこして、育種、栽培、防除のいずれかに応用していきます。実際いくつかの微生物や酵素などの産生物を対象に、植物の生育や形態形成、光応答、金属代謝、栄養素代謝、病害発生などに関わるタンパク質や遺伝子、その他の生体物質が含まれるかを探索するとともに、そのメカニズムを解析し、基礎データを蓄積しつつあります。

プロジェクトの概要

微生物機能を活用した植物防除技術の開発において、現在ターゲットとしているのが、糸状菌の細胞膜成分の一つであるスフィンゴ糖脂質です。スフィンゴ糖脂質は、細胞内外のシグナル伝達やエネルギー供給といった、生物の生命維持に深く関わる物質です。これまでは動物のみが生理作用を発揮する複雑なスフィンゴ糖脂質を有すると考えられてきましたが、近年、冬虫夏草のような一部の糸状菌の中にも、複雑なスフィンゴ糖脂質を持つものの存在が明らかになってきました。

冬虫夏草は昆虫などに寄生し、それを養分として生育するバッカクキン科の菌類の一種です。私たちはある冬虫夏草の2種において、まったく新しい中性スフィンゴ糖脂質の存在を突き止めました。これらの中性スフィンゴ糖脂質についてそれぞれ構造解析を行ったところ、それが一般的な糸状菌においては、酸性スフィンゴ糖脂質が担っている機能を代替している可能性が示唆されました。加えて、これらの中性スフィンゴ糖脂質の中に、線虫などの宿主に含まれている糖脂質や糖タンパク質の糖鎖と類似し、宿主の免疫機構を回避するような機能を持つ中性糖脂質の生合成経路があることも見出されました。

こうした成果から、例えばどのような種類の冬虫夏草がどんな昆虫に寄生するのかなど、宿主となる昆虫に菌類が及ぼす生理的影響が明らかになれば、特定の昆虫をターゲットとした微生物農薬を開発することも期待できます。現在、この冬虫夏草2種の中性スフィンゴ糖脂質について、さらなる構造解析を進めています。

もう一つ、防除技術の開発につながる微生物として有力視しているのが、オキシダーゼ産生菌です。酸化反応を促進する酵素であるオキシダーゼは反応過程で過酸化水素を発生させます。過酸化水素は、強い酸化力を有することが知られており、殺菌や漂白に用いられています。私たちは、微生物を活用することで天然由来の過酸化水素を作り出し、病害菌防除に役立てようと目論んでいます。今回、微生物由来のリジンオキシターゼの発現系構築に成功しました。また微生物由来のグルタチオンオキシダーゼについてもアミノ酸の配列を解析し、諸性質の解明を進めています。

野菜の生産企業と連携し
ツブリナの栽培促進技術の開発を試みています。

他方、微生物の機能を生かした栽培技術の開発においては、地域の野菜生産企業と連携し、微生物の代謝機構を用いたツブリナの栽培促進を試みています。ツブリナは、一般にはアイスプラントという名前で知られている野菜です。高塩などのストレスにさらされると、光合成型を変化させ(CAM化:crassulacean acid metabolism)、ストレス耐性を獲得するというユニークな特徴を持っています。しかしCAM化したツブリナは小さく縮み、リンゴ酸が増えて酸味が強くなるため食用としては使いものになりません。それを防ぐ方法として、私たちは微生物を利用できないかと考えています。まず、ジベレリンなど植物の生長を制御する植物ホルモンを直接ツブリナに与え、ツブリナの生理活性にどのような影響を及ぼすかを確かめました。これらの基礎データをもとに、ツブリナの二次代謝経路を活性化し、ストレス耐性を高めるのに役立つ微生物を見つけ出し、例えば塩の取り込みを促進させたり、リンゴ酸の産生を抑制するといった技術の確立に生かしていきます。

今後もこうした成果を防除システムの構築、栽培・育種技術の開発につなげていくことはもちろん、農作物の生産者の方々へも有意義な技術や知見を提供していきたいと考えています。

Quarterly Report vol.07 2011年10月10日

三原久明 准教授

三原久明 准教授

1993年 京都府立大学農学部農芸化学科卒業、'98年 京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士後期課程単位取得退学。その間、'97年 日本学術振興会特別研究員 (DC2)。博士(農学)。'99年 京都大学化学研究所非常勤研究員、'00年 京都大学化学研究所助手、'07年 京都大学化学研究所助教を経て、'09年 立命館大学生命科学部生物工学科准教授、現在に至る。農芸化学会、生化学会、微量元素学会、ビタミン学会、微量栄養素学会、バイオインダストリー協会に所属。第2回酵素応用シンポジウム研究奨励賞を受賞、'10年日本生化学会奨励賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:三原久明
応用分子微生物学研究室(三原研究室)

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