遺伝子・核酸医薬の実用化を後押しするドラッグ・デリバリー・システム

有効なドラッグ・デリバリー・システムがない。
それが遺伝子・核酸医薬の実用化を阻んでいます。

立命館大学と京都大学は、科学技術の高度化と社会への迅速な還元を目的に学術交流に関する包括協定を結び、学問領域を超えた連携や施設・設備の共同利用などさまざまな形で協力し合いながら研究に取り組んでいます。中でも、京都大学大学院薬学研究科の「革新的ナノバイオ創薬研究拠点」に立命館大学も参加する形で進んでいるのが薬工連携の画期的な試みです。京都大学が持つバイオテクノロジーやDDS(Drug Delivery System)技術と、立命館大学が持つマイクロマシン・ナノテクノロジー技術を融合させ、新しいナノバイオ医療技術を開発しようとしています。

この連携で特筆すべき成果の一つが、遺伝子・核酸医薬におけるDDSの開発です。DNAやRNAから構成される遺伝子・核酸医薬は、その作用メカニズムから、従来とは一線を画した新しい薬剤になり得る可能性を秘めているとして注目を集めています。しかし新薬としての開発が進む一方で、その実用化を阻んでいるのが「有効なDDSがない」という問題です。DNAやRNAは体内で分解されやすく、薬効を患部にまで届けるのが難しい上、核酸は電荷密度が高く、たとえ患部に届いても容易に細胞膜を透過することができないという二重の難題を抱えているためです。患部の細胞内にまで薬効を届ける技術の確立は、遺伝子・核酸医薬の実用化を後押しし、医療に革新をもたらすに違いありません。

立命館のMEMSと京都大学の核酸導入技術を融合させ
核酸のDDSを開発しました。

立命館大学の研究グループは半導体製造技術をナノサイズで実現するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)の研究に取り組んでいます。とりわけバイオ・医療への応用(BME)に力を注ぎ、これまでにもさまざまなバイオメディカルデバイスを開発してきました。その中の一つPBA(Pneumatic Balloon Actuator:空圧駆動バルーンアクチュエータ)の技術を、遺伝子・核酸医薬のDDSに応用しようというのが今回の狙いでした。

一方、京都大学では、本来細胞膜を透過しない核酸を生体組織の細胞内に導入する独自の方法を開発しています。血中に核酸溶液を投与した直後に標的とする組織を押圧することで、組織内の細胞に核酸を導入するというものです。マウスの血中に核酸溶液を投与した場合、開腹して手技で直接標的組織を押圧します。この「組織押圧核酸導入法(押圧法)」を研究に用いる場合、課題になるのが、効果を持続させたり、実験を繰り返すために、一匹のマウスを何度も開腹しなければならない点です。

私たちは両大学の技術を融合させ、PBAを用いてマウス体内の標的組織を押圧する埋め込み式のマイクロシステムを開発しました。PBAは、薄膜上に膨張収縮するマイクロバルーン構造と空気を送り込むマイクロ流路を形成し、流路から空気圧を加えてバルーン構造を膨張させることができるアクチュエータです。「小さい」「柔らかい」「安全」という特徴を持ち、医療用ツールに適しています。このPBAを搭載したマイクロシステムをマウス体内の患部に埋め込み、外から空気圧を加えてバルーン構造を膨張させることで、組織を押圧しようと考えたのです。

まず疑似腎臓でマイクロシステムの効果を確かめた後、マウスを使って実験しました。まずマウスの右腎臓にマイクロシステムを装着し、プラスミドDNAを投与しました。次いでPBAを駆動させて腎臓を押圧したところ、いずれも腎臓内でDNAの発現を認められました。この結果、マイクロシステムをマウスの体内に埋め込めば、開腹することなく何度でも腎臓を押圧し、核酸を導入できることが明らかになったわけです。[参考文献1]

マウスなどの生体組織に核酸導入法を適用できるようになれば、遺伝子治療の前臨床試験や遺伝子・核酸医薬のスクリーニング、機能解析も進展します。現在は、マイクロシステムの改良を進める一方、押圧法による核酸導入のメカニズムも解明しようとしています。[参考文献2]

参考文献1 / MEMS デバイスによる核酸デリバリー技術, 遺伝子医学MOOK20号「ナノバイオ技術と最新創薬応用研究」p185-p189(1月半ば発刊予定)
参考文献2 / Development of a Biochip with Serially Connected Pneumatic Balloons for Cell-stretching Culture, Sensors and Actuators B: Chemical, 156: 486-493(2011)

人への応用を視野に入れたDDSを開発し
マウスでその有効性を確認しました。

さらに私たちは人への応用も視野に入れたDDSとして、新たに「吸引法」を用いた核酸導入方法を開発しました。こちらには立命館大学の持つ「マイクロ吸盤」の技術を応用しました。マイクロ吸盤とは、マイクロポンプと吸着固定吸盤を一体化したもので、ポンプから空気を吸引して物体を吸盤に引き付け、固定することができます。このデバイスは内視鏡の先端などに取り付けて標的組織まで運ぶことができるため、体内に埋め込む必要がなく、人間への応用も可能です。この仕組みを利用したマイクロシステムを作製し、マウスの体内に挿入しました。標的組織に吸引圧をかけ、臓器を変形させることで、組織内に核酸を導入することに成功しました。[参考文献3]

本研究によって薬学、工学がそれぞれの強みを発揮し、これまで克服困難とされてきた遺伝子・核酸医薬のDDS開発に立ちはだかる課題に突破口を開いたことは、今後の遺伝子・核酸医薬実用化につながる大きな前進と言えるでしょう。さらにこの共同研究は、細胞レベルから生体までマルチスケールで研究を進めることで、バイオ、医療、工学など幅広い分野での成果が期待できます。こうした薬工連携研究から将来革新的なテクノロジーが生まれることも夢ではありません。

Quarterly Report vol.08 2011年1月10日

参考文献3 / 導入対象物質の送達装置の作動方法および導入対象物質の送達方法, PCT/JP2011/062102

小西 聡 教授

小西 聡 教授

1991年 東京大学工学部電子工学科卒業。'93年 日本学術振興会特別研究員。'96年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。'96年 立命館大学理工学部専任講師、'99年 同助教授。'02年 カリフォルニア工科大学研究員、'06年より立命館大学理工学部教授、'07年 滋賀医科大学客員教授、現在に至る。Sensors and Actuators Section Editor、IEEE International Conference of MEMS 2007実行委員長。電気学会、日本機械学会、日本ロボット学会、応用物理学会、炭素材料学会、日本コンピュータ外科学会、米国電気電子学会(IEEE)、に所属。'05年 日本コンピュータ外科学会2005年度講演論文賞、IEEE MHS 2005 Best Paper Award、'07年 細胞性粘菌研究会優秀賞、日刊工業新聞社モノづくり連携大賞特別賞等を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:小西 聡
Micro・Nano Mechatronics Laboratory 小西研究室

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