アルツハイマー病の発症機構の究明から創薬へ

タンパク質のミスフォールディングのプロセスから
アルツハイマー病の発症機構を明らかにしています。

本プロジェクトでは、タンパク質のフォールディング、ミスフォールディングの機構を解明するとともに、それに関わる疾患のメカニズムを明らかにしようとしています。

タンパク質は細胞内で産生する時、ペプチド結合でアミノ酸が連なった直鎖を自ら折り畳み(フォールディング)、固有の立体構造を形成します。ところがごくまれにフォールディングに失敗(ミスフォールディング)し、異常な構造を持つβシートへ転移することがあります。このβシートは次々に凝集して硬いアミロイド線維を形成し、タンパク質本来の機能を果たさなくなってしまいます。近年の研究で、このミスフォールディングによってできたアミロイド線維が、アルツハイマー病をはじめとした神経変性疾患の原因になることがわかってきました。私たちの研究グループは、こうしたタンパク質のミスフォールディングのプロセスからアルツハイマー病の発症機構を明らかにするとともに、アルツハイマー病の予防・治療薬の創成に貢献することを目指しています。

初期段階に関わるA β重合を抑えることで
アルツハイマー病の発症を防げるのではないか。

アルツハイマー病は突発的に発症する疾患ではありません。一般に長い年月をかけ、大脳皮質内で老人斑の沈着、神経原線維変化(タウ)と病理変化を起こした末に発症します。疾患の最初の兆候である老人斑は、疾患発症の実に20 年も前から認められ始めます。この老人斑の主要構成成分であり、アルツハイマー病の原因物質と考えられているのがアミロイドβタンパク(A β)です。

アルツハイマー病が発症するまでのプロセスを説明しましょう。まずA βが、βおよびγセクレターゼの働きによって前駆体蛋白から切り出されます。この切り出されたA βが加齢などのさまざまな要因でミスフォールディングを起こして凝集(重合)すると、老人斑と呼ばれる不溶性のアミロイド線維となって大脳皮質に沈着し始めます。それが年月をかけて蓄積すると、やがて異常なリン酸化などを起こし、A βに続いてタウ蛋白の線維化が始まります。これらのA β重合体による直接的もしくは間接的な作用によって神経細胞が死滅し、ついには認知症をきたすと考えられています。

こうしたアルツハイマーの発症機構の中で、私たちが着目しているのは、A βが凝集し重合体を形成するプロセスです。A βは正常な脳にも産生しています。ところが神経細胞膜に発現するGM1ガングリオシド(GM1)に結合すると、途端に重合が始まります。GM1ガングリオシド型結合体A β(GA β)は極めて凝集塊形成性が高く、次々とA βの重合を呼び込みます。私たちはこのGA βがA β重合“seed”として働いているのではないかという仮説に基づいて研究を進めてきました。事実、すでにいくつかの実験において、GA βがA βの重合体形成を促進することを明らかにしています。したがってGM1の発現を調節すれば、A βの重合を抑制し、老人斑の形成を抑えることも可能になるはずです。またそこから、アルツハイマー病の治療や発症の遅延に役立つ創薬、さらには発症を予防する機能性食品の開発にもつなげていけると期待しています。

アルツハイマー病の診断マーカーや
予防・治療薬の開発につなげたい。

先に述べたように、アルツハイマー病の最も初期段階であるA βの蓄積は、疾患を発症する20年も前から始まります。問題はそれが一体いつ始まるのかがわからないという点です。アルツハイマー病の治療薬や診断マーカーを開発するためには、A βの蓄積がいつから始まるのかを評価できるモデル系が必要となります。

私たちは神経細胞表面からA βが重合するin vitro培養系の確立に成功しました。現在、この培養系を用いて初代培養神経細胞にA βを投与し、A β線維体が形成されるまで、さらにA β線維体が形成された後、それが神経細胞にどのような影響を及ぼすのかについて解明を進めているところです。

一方で、アルツハイマー病の診断マーカーや治療薬になり得る因子の探索も進めています。例えば、糖尿病はアルツハイマー病の危険因子の一つと言われています。私たちは糖尿病の発症に関わっているインスリンに着目し、これが神経細胞表面上のGM1発現やGA βの形成に関わっているかを調べました。神経細胞にインスリンを投与したところ、細胞膜上のGM1の発現を減少させることが確かめられました。同じように、初代培養神経細胞にさまざまな薬物を投与してGM1の発現分布量を検討し、GM1の発現を抑制できる薬物を探っています。

さらにモデルマウスを用いてin vivo(生体)での評価系の確立も目指しています。先述したin vitro培養系での実験と同じく、糖尿病モデルマウスに糖尿病薬などを投与し、シナプス膜におけるGM1の分布量やA β重合能を評価・検討しています。いずれはA β重合体形成に関わる因子を発見し、アルツハイマー病の診断マーカーや、予防・治療薬開発の糸口を見出したいと考えています。

Quarterly Report vol.08 2011年1月10日


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