歴史理解と協調が導く東北アジアの持続的な平和の構築

安全保障、民主主義、歴史理解の3領域からアプローチし
東北アジア、朝鮮半島、日本の歴史と現状を研究しています。

日本と東北アジアは、過去から現在にいたるまで、歴史認識の相違をはじめ、いまだに分かち合うことのできない数々の課題を抱えています。世界的なグローバル化や東北アジアの目覚ましい経済発展が進むいま、日本が東北アジアの一員として疎通と協働の可能性を見出し、持続的な平和を構築していくことは不可欠な命題です。

プロジェクトでは、安全保障、民主主義、歴史理解の3つの領域について、近現代史をひも解くとともに、現状を学術的に分析しています。研究成果を挙げるだけでなく、それをもとに平和構築のための具体的なビジョンを見出し、広く提言していくことが目標です。プロジェクトメンバーが個々に研究を進めることと並行して、独自の研究会やシンポジウムを開催し、学問領域、国境、産官学の枠を超えて多くの市民と問題を共有し、意見を交わし合う機会を設けています。とりわけ、法学、政治学、経済学、歴史学、社会学など多様な学問分野から多角的に研究すること、また韓国、朝鮮民主主義人民共和国、中国、台湾など東北アジアの国々と国境を越えてネットワークを構築することを重視しています。研究や取り組みの成果は、学会発表や国内外におけるシンポジウムでの発表、月例研究会、紀要『コリア研究』の発刊などを通して広く発信しています。

プロジェクトがスタートして2年半ですが、成果の一つは、研究ネットワークが着実に広がっていることです。研究協力協定を結ぶ国内外の研究機関は年々増加しています。加えて、立命館大学内の研究者との連携も強固になってきました。法学や国際関係学など多様な学問領域から朝鮮半島や東北アジアにアプローチする研究者とも共同が進んでいます。また、R-GIROポストドクトラルフェローを中心に、大学院生や留学生が立命館大学コリア研究センター(RiCKS)を拠点に情報交換や研究を行い、学会発表や論文投稿につなげるなど、若手研究者の育成においてプロジェクトの果たす役割も小さくありません。

映像の上映会、硬軟にわたる研究会の開催を通じて
多角的なアプローチで現状を浮き彫りにしています。

3つのサブプロジェクトにおいてもそれぞれ実績を重ねています。安全保障、民主主義の両サブプロジェクトに関わる最近の成果としては、2012年5月に、韓国の済州島の海軍基地建設反対闘争を記録したドキュメンタリーフィルム「JAM DOCU 江汀」を上映するとともに、作中の一編を監督したヤン・ドンギュ監督によるトークセッションを実施しました。映画や監督のコメントを通じて、韓国における軍事をめぐる問題や住民の認識の一端を知る好機となりました。

また6月には、1992年にアメリカ・ロサンゼルスで起こったロス暴動についてのドキュメンタリー「ロス暴動の真実-コリアンタウンはなぜ襲われたか-」を上映するとともに、専門家をゲストに招いて学術的討論会を行いました。朝鮮半島や東北アジアをめぐる問題を浮き彫りにし、また課題を広く追求していく上で、映像からのアプローチは非常に有効です。今後も継続的に展開していくつもりです。

歴史認識に関わるプロジェクトとしては、2012年5月の月例研究会で、韓国で長年、植民地被害や戦争被害の救済問題に取り組んできた弁護士 張 完翼(チャン・ワンイク)氏を招き、「韓国における『日帝強制動員被害財団』設立問題」をテーマに講演会を開催しました。韓国では、第二次世界大戦終了までの間に日本に強制連行され、労働を強いられた韓国人の元労働者が、三菱重工業や新日本製鉄を相手取って当時の未払い賃金の支払いと損害賠償を求めた訴訟を起こしており、張氏は原告側の代理人を務めています。折しも研究会の翌日、韓国の大法院(最高裁)で、「個人の請求権は消滅していない」と、原告側の主張が認められる判断が下されました。

一方日本においては、近代日本の侵略と植民地支配、その過程で行った数々の残虐行為を含めた「日本の加害の歴史」についての教育や研究が圧倒的に不足しています。一例を挙げると、日清戦争の開戦原因ともなった東学農民運動に対して、日本は日清間で講和条約が結ばれた後も、戦地となった朝鮮半島から撤兵せず、数万ともいわれる東学農民を殺害しましたが、日本ではこうした残虐な事実にはほとんど目を向けられません。その結果が、日本と東北アジアの国々との間の歴史認識の相克を生み、日本人が自らの加害責任を自覚しにくい要因になっていると考えています。まずは客観的な事実の認定からスタートしなければ、歴史認識問題の解決も、国家間の平和構築もあり得ません。こうした加害の事実に光を当て、日本社会で内面化していく必要があると任じています。

画期的な協力・研究ネットワークの
構築が進んでいます。

国境を越えた多角的な研究アプローチやネットワークの構築においても画期的な進展がありました。2011年11月、立命館大学国際地域研究所との共催で、「二つの訪朝団が見た平壌-中ロとの関係を強める経済動向を中心に-」と題した特別研究会を開催しました。RiCKSの客員研究員が朝鮮民主主義人民共和国を訪問した経験に学術的な考察を加えて報告。RiCKS事務局長の庵逧由香氏(文学部准教授)と同志社大学教授の加藤千洋氏(元朝日新聞中国総局長)がコメンテーターを務め、朝鮮、中国、ロシアの関係を総合的に捉えた議論を展開しました。さらに2012年7月には、北京大学教授で、中国朝鮮族の研究者である金 東吉(キム・ドンギル)氏を招き、「ソ連の安全保障戦略と朝鮮戦争の開戦原因」というテーマで公開研究会を開催する計画です。

また日本、韓国、朝鮮大学校の研究者による共同研究もスタートしようとしています。2012年11月に、韓国の建国大学の統一人文学研究団と本学、そして日本の朝鮮大学校の研究者が一堂に会し、シンポジウムの開催を計画しています。これまで日本と韓国、朝鮮大学校が共に研究した例はなく、画期的な試みとなっていくはずです。

さらに日本の地方自治体と韓国の都市との間で姉妹都市交流の効果を検証するなど、自治体レベルでの関係構築にも力を注いでいます。今後も、国家とは異なるレベルで、各国・各地域社会が手を携えていく一助となりたいと考えています。

Quarterly Report vol.10 2012年7月20日

参考文献/
1 『コリア研究』編集委員会「コリア研究 第1号」立命館大学コリア研究センター(2010) 
2 『コリア研究』編集委員会「コリア研究 第2号」立命館大学コリア研究センター(2011) 
3 『コリア研究』編集委員会「コリア研究 第3号」立命館大学コリア研究センター(2012)


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