低炭素社会実現への道程を示す、革新的な技術・経済・社会システムを探究

「東アジア低炭素共同体(East Asia Low-Carbon Community)」
構想の具現化を目指しています。

私たちのプロジェクトが目指すのは、「技術」「経済」「社会」の3軸を融合して理論的・実証的研究を行い、低炭素社会の実現に向けた道筋を提示することです。温暖化対策といった従来の環境的な枠組みに留まらず、経済、社会の要因をも含有した新機軸を打ち出し、持続可能な社会の構築に寄与したいと考えています。立命館アジア太平洋大学(APU)や公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)、中国の大連理工大学や浙江大学などと学問領域、国境を越えて連携し、研究を推進するとともに、サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)の協力大学として、アジア循環型経済社会の構築に寄与する日中「調和型社会総合モデル」事業においても中心的な推進役を担ってきました。

研究では、国境を越えた広域低炭素社会実現に向けた「東アジア低炭素共同体」構想を提案しました。この構想の具現化を図るため、①評価モデル開発と低炭素シナリオ構築、および②パイロットモデル事業による実証研究(社会実験と政策検証)を展開し最終的には、③国境を越えた広域低炭素化社会実現に向けた制度設計と政策提言を目指しています。まずは、日中韓協力シナリオの構築を目的とし、環境・エネルギー・経済統合評価モデル「Glocal Century Energy Environmental Planning モデル(以下G-CEEPモデル)」を開発しました。「G-CEEPモデル」は、詳細な技術データベースと人口、GDP、ストックとエネルギー消費量など現実のデータで推定したパラメータに基づき、「Two-level CES型生産関数」や「技術学習効果」など先端的なモデリング方法によって、緻密に構築された大規模な非線形最適化評価モデルです。技術に関する詳細な記述と評価が可能で、国際炭素取引市場やCO2以外のSO2、NOXの同時削減効果(Co-Benefit効果)など、環境政策の実施効果に関する評価にも優れています。さらにはシステム内部の相互影響のみならず、各種削減技術のコストの詳細をも反映できます。

本モデルを用いて、BAUシナリオとCOP15シナリオにおける2010年から2050年までの日本、中国、韓国の3国のCO2排出削減シナリオを分析しました。特に各国が単独で排出削減目標を達成した場合のGDP損失を算出し、「低炭素共同体」実現が経済的にも有効であることを明らかにしました。また、日中韓排出量取引制度の導入によって、日中韓が単独にCO2排出削減目標を達成する場合に比べて、削減コストを明らかに下げられることも定量的に示しました。この結果は、「低炭素共同体」構築の有力な根拠となりえます。

次は、パイロットモデルを通した実証研究によって、現実性のあるイノベーションを構想することです。その一つとして、現在、日中韓の産官学が共同で中国の大連市旅順に「国際低炭素総合モデルパーク」を構築する構想を進めています。いずれはこのモデルを用いた実証研究を通して、戦略的イノベーションを見出したいと考えています。

APUとの共同研究により、太陽光発電の普及率に寄与する
影響因子を探り、政策提言を行いました。

また、プロジェクトではこれまでに経済・社会システムを設計するための基盤となるエネルギー環境評価モデルの開発に取り組んできました。その一つの成果が、APUの銭 学鵬助教の研究チームと共同で行った研究です。低炭素化の方策の一つとして、分散型エネルギーの活用が考えられています。求められるのは、多様な分散型エネルギーの最適な導入経路とそれを実現するシステム技術を見出し、ロードマップを描くことです。分散型エネルギーの活用を最適化するためには、まず影響因子を抽出する必要があります。研究では、日本の地方都市における住宅用太陽光発電システムの普及と地域社会的・経済的・環境的指標の関連性を調査・分析し、影響因子を探りました。まず200を超える日本の地方中核都市のうち人口が5万人から15万人までの都市の中から無作為に35都市を選び、統計データベースを構築しました。次に数々の因子を相関分析し、普及率と関連性の高い22の要因を抽出しました。この22の因子をさらに絞り込むため主成分分析(PCA)を行い、都市進展・人口構成・住宅条件・世帯構成・地方経済・自然条件の6つのコンポーネントに分類しました。一方でクラスター分析によって35のサンプル都市を5つのグループに分類し、太陽光発電の普及率の高いグループと各コンポーネントの関連性を調べました。自然条件と社会経済条件の検討により、既存住宅のソーラーパネル整備に対する補助政策や工法の改善が普及率の向上に有効であると結論づけ、政策提言を行いました。

今後は、工事費に対する補助制度のある地域や、異なる補助制度のある地域で実証を行い、政策提言の有効性と現実性を検討していきます。最終的には住宅用太陽光発電システムの普及につながる最適化モデルを構築し、政策提言に結びつけていくつもりです。

東日本複合型災害後の復興に有効な手立てを提言するため
未来型復興シナリオを模索しています。

APUとは、竹林の利活用研究などでも連携を深めています。竹はCO2吸収量、および酸素の排出量が多いことに加えて、成長が早く、エネルギーや産業資材など用途も多彩です。本プロジェクトでは、かねてから中国湖州市で竹林を活用した大規模なパイロットモデル事業を進めてきました。それを参考に、九州有数の竹産地である大分県や鹿児島県でも地域資源として、また低炭素化に寄与する多機能なマテリアルとして、竹の活用法を検討しています。

また東日本複合型災害後の復興に有効な手立てとなる提言を行うことも私たちの責務だと考え、プロジェクトの若手メンバーを中心に未来型復興シナリオを模索しています。原子力発電所の再稼働に関する経済影響を評価したり、G-CEEPモデルを用いて「ポスト福島」における都市農村の協働連携、都市のコンパクト化による被災地復興の可能性について研究を推進し、すでにいくつかの研究成果をあげています。

Quarterly Report vol.10 2012年7月20日

参考文献/
1 「東アジア低炭素共同体」構想の政策フレームと評価モデルの開発. 環境技術(環境技術学会). Vol.39, pp.536-542、2010.9 
2 Capital Stock-Labor-Energy Substitution and Production Efficiency Study for China, Energy Economics. Vol.34, pp.1208-1213, July(2012) 
3 Potential Assessment of Residential Solar Power System Utilization in Japanese Regional Central Cities, The 48th Japan Section of the Regional Science Association Conference, 8-10 October (2011).

周 瑋生 教授

周 瑋生 教授

1982年 浙江大学工学部熱物理工学科卒業。'86年 大連理工学大学院動力工学科工学修士課程修了、'95年 京都大学大学院物理工学専攻博士課程修了、工学博士。'95年 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究員。'98年 RITE地球環境システム研究室主任研究員。'99年 立命館大学法学部助教授、'00年 同政策科学部助教授、'02年 同教授、現在に至る。'03〜'04年 RITE研究顧問。'07年 立命館サステイナビリティ学研究センター長、現在に至る。環境経済・政策学会、エネルギー・資源学会、政策情報学会などに所属。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:周 瑋生
立命館大学 政策科学部 教員紹介 周 瑋生

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