科学的な土壌診断で有機農業の生産性・安全性を飛躍的に高める

科学に基づく有機農業で「食の安全・安心」を実現し
食料自給率の向上に貢献したい。

自然の物質循環に即した農業による真に安全・安心な食料生産を実現し、それをビジネスとして確立することを私たちのプロジェクトは目指しています。消費者と生産者の両方にメリットをもたらし、究極的な目標として日本の食糧自給率向上への貢献を掲げています。

2011年に日本の食糧自給率は40%を下回りました。国内生産においては、多くの農作物の安定的な収穫を支えている化学肥料の原料の大部分を外国からの輸入に頼っており、それも含めると純粋に国内でまかなわれる食料はほんの一握りにすぎません。その一方で近年「食の安全・安心」に対する関心が高まり、化学肥料に依存した食料生産のあり方に対する疑問の声も大きくなってきました。

自然の循環に依拠した有機農業を実践する上で大きな壁となるのが経済性の問題です。現状では、有機農業をビジネスとして成立させるのは極めて難しいと言わざるをえません。20世紀の化学肥料の台頭は、農作物の大量生産および安定供給を可能にしました。農耕が始まってから現在に至るまで、過去の経験に基づいた栽培方法で行われている有機農業は、生産性、安定性のどちらにおいても化学肥料を用いた農法には遠く及びません。しかし私たちは科学的な根拠に基づく有機農業を実践することで、この課題を克服する道を見出しました。そのカギとなるのが土壌中の微生物と有機物の存在です。

土壌の肥沃度を診断する指標SOFIXを開発。
土壌改良によって有機農業の生産性を飛躍的に高めました。

自然の状態では、土中の微生物が落ち葉や動物の糞尿といった有機物を分解しそれを肥料として植物が育ちます。しかし化学肥料が長い間使用された土壌では、エサとなる有機物が少ないために微生物も死滅してしまっています。こうした土壌で有機農法をいきなり始めてもうまくいきません。まずは農地土壌を改善し、土壌微生物による物質循環が可能な状態にコントロールする必要があります。そこで、私たちは土壌を科学的に診断し適切な改良につなげるための独自の指標である土壌肥沃度指標(SOFIX:Soil Fertile Index)を開発しました。

これまでに、環境遺伝子(eDNA)を抽出・解析して土壌中の細菌数を短時間で把握する独自の技術に加え、窒素やリン酸の循環系における律速物質を推定する技術を開発してきました。これらを活用し、土中の総細菌数や炭素、窒素、リン酸、カリウムといった元素量を指標として土壌の肥沃度を科学的に診断・点数化することで診断結果の「見える化」を可能にしました。全国の200以上におよぶ土壌サンプルをSOFIXによって分析し、データベースの構築も進めています。

有機農業の生産性・安全性を高めるには、土壌だけでなく投入する有機肥料や収穫した農産物についても診断する必要があります。そこで私たちのプロジェクトではSOFIXの他、堆肥品質指標(MQI:Manure Quality Index)、有機資材品質指標(OQI:OrganicQuality Index)の技術も開発しました。今後はMQI、OQIについても指標のさらなる精緻化を図り、農産物の有機指標確立と併せて、有機認証制度として確立・普及させることを目指しています。

現在、SOFIX、MQI、OQIの信頼性を確かめる実証実験を試みています。研究棟内に約50㎡の植物工場を設置し、化学肥料、およびSOFIXによる土壌診断結果に基づき適切に成分配合した有機肥料を用いて小松菜とホウレン草を栽培したところ、SOFIXに基づく有機農法でも、化学肥料を用いた農法とほぼ同等あるいはそれ以上の生産量を確保できることがわかりました。経験に基づく有機農法での生産量が、化学肥料を用いた場合と比べて6~7割程度にとどまることからすると革新的な成果といえます。加えて注目すべきは、収穫された農産物の含有成分です。栽培した小松菜、ホウレン草の植物の体内物質を解析したところ、硝酸態窒素、可溶性リンの成分量に顕著な違いが見られ、味・色などの差異を科学的データで示すことができました。

また、野外の圃場でも有機農産物の栽培試験を実施しています。トマトをはじめ5品種の野菜をSOFIXに基づく有機農法で栽培した結果、植物工場の場合と同様に、化学肥料を用いた農法と同等あるいはそれ以上の生産量が得られることが確認できました。化学肥料を用いない農法であっても科学的な土壌診断によって適切な有機肥料を投入することで、十分な生産量を得られる上、より安全・安心で栄養価に優れた農産物を作れることが実証実験によっても明らかになったのです。

食と農に関わる滋賀県下の企業、団体と連携し
有機農業を用いたビジネスモデルの創出を模索しています。

プロジェクトでは、研究と並行して農業をビジネスとして確立することにも尽力しています。農林水産省が農山漁村の六次産業化を推進しているように、第一次産業の生き残りにとっては生産と加工・販売の一体化や新たな産業の創出が極めて重要となっています。農業の振興なしには食料自給率の向上もありません。そこで本プロジェクトでは、立命館大学の位置する滋賀県内の農業や農産物、食に関わりのある企業や団体と連携し、「明日の食と農を考える研究会」を設立しました。

この研究会では、本プロジェクトが主体となり有機系・自然循環系の農業・食料生産についての科学的知見を共有し、SOFIXに基づく安全で安心な付加価値の高い農作物の栽培を実践するほか、高品質堆肥や人工土壌の開発にも取り組んでいます。

また、生産した農作物を使って清酒を醸造するなど加工品の製造・販売にも乗り出すことで農業の六次産業化や地域ブランドの形成を図りつつあります。いずれはSOFIXに基づく有機農業の普及につながる新たなビジネスモデルを創出していきたいと考えています。

Quarterly Report vol.11 2012年11月1日

参考文献/
1 Analysis of peptide uptake and location of root hair-promoting peptide accumulation in plant roots. 18, 177-82, J. Pept. Sci. (2012)
2 環境微生物学、化学同人、(2012)
3 農地窒素循環のみえる化 ―物質循環系を考えた土づくり―、44、50-55、(2012)

久保 幹教授

久保 幹教授

1983年 広島大学工学部卒業、'85年 同大学大学院工学研究科博士課程前期課程修了、'92年 博士(工学、大阪大学)。'94年 イリノイ州立大学医学部文部省在外研究員。'97年 立命館大学理工学部助教授、'02年 同教授、'08年 同生命科学部教授、現在に至る。環境バイオテクノロジー学会、日本農芸化学会、日本生物工学会、アメリカ微生物学会、日本生化学会、日本土壌肥料学会に所属。'05年 安藤百福賞「第10回記念奨励部門特別奨励賞」を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:久保 幹
立命館大学 生命科学部 生物工学科 生物機能工学研究室(久保研究室)

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プロジェクト活動報告

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食料生産を劇的に変える微生物。
(久保 幹教授)

2010.04.10

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