電気化学反応で生まれるエネルギーを環境デバイスに活用

多孔質構造のガス透過性固体電解質セルを用いて
燃料電池をはじめとした環境デバイスを開発しています。

私たちのプロジェクトでは、電気化学反応で得られる現象や効果を、従来の環境・エネルギー変換デバイスに応用あるいは付加することにより、全く新しい、あるいはより高効率なデバイスの開発を目指しています。例えば、そのためには電気化学反応と燃焼反応などを併存させるための技術や燃焼によって発生した熱エネルギーの制御などが求められます。

これまでに、私たちは多孔質構造を持つガス透過性固体電解質セルの開発に世界に先駆けて成功しました。通常、固体電解質セルの稼働には600℃以上の高温が必要ですが、多孔質なガス透過性の電解質セルによって、電気化学反応場で一部の熱エネルギーを燃焼反応により取り出し、稼働温度を保持することを編み出したのです。

このガス透過性固体電解質セルを用い、現在、固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の開発を進めています。空気極(カソード側)のガスを気孔から透過させて燃焼極(アノード側)で燃焼し、その燃焼で発生した熱エネルギーをSOFCの起動に利用しようというものです。これによってそれまでスタートアップの遅さが課題だったSOFCを極めて短時間で起動させることが可能になりました。新たな検証実験の結果、700℃の稼働で1.23 W/cm2という世界トップレベルの出力密度を達成し、火炎形成からわずか30秒で発電することを明らかにしました。

SOFCの強みはセラミック系の比較的安価な材料で高い発電効率を実現できるところです。実用化できれば、白金など高価な触媒を必要とする従来の燃料電池を凌駕する画期的な製品となるに違いありません。

多孔質電解質セルを使ってNOxとPMの大幅な低減に成功。
ディーゼル排ガス浄化装置の実用化を目指しています。

プロジェクトではまた、多孔質固体電解質セルを使ったディーゼル排ガス浄化装置の開発にも取り組んでいます。ディーゼルエンジンはガソリンと比べて経済性に優れている反面、窒素化合物(NOx)や煤などの粒子状物質(PM:Particulate Matter)が排出され、環境に負荷を与えることが問題視されます。日本ではトラックなど大型のディーゼル車には尿素を利用する排ガス浄化技術(尿素SCRシステム:Selective Catalytic Reduction)が採用されていますが、これは大きなスペースを要するため乗用車などに搭載するには不向きです。私たちは多孔質固体電解質セルを応用してより小型で高効率なディーゼル排ガス浄化装置を開発し、こうした課題を克服することを考えました。それがディーゼル排気中のNOxとPMを同時に低減するECR(Electro-Chemical Reduction)法です。

ECRシステムによるNOx, PM同時分解メカニズム

孔質固体電解質セルのカソード側にバリウムなどのNOx吸蔵材を担持して、アノード側からカソード側に排ガスを通過させると、アノード上にPMが捕集され、カソード側でNOxが吸蔵されます。両電極間に電圧をかけ、電解質を介してカソード側からアノード側に酸素イオンを移動させることで、アノードでPMの酸化を促進するとともに、カソードでNOxの還元(分解)が可能になります。こうして排ガス温度程度の低温でもNOxとPMの両方を同時に低減することができるというわけです。平板多孔質の固体電解質セルを用いて検証した結果、400℃でPMを95%以上、NOxを80%以上低減させることを確かめました。

しかしECRシステムを実用化につなげるには、イオン電導性、ガス透過性のいずれもまだ不十分な状況です。続く研究では、セルに用いている電解質と銀(Ag)のサーメット電極の電解質とAgの割合を変えて傾斜電極を採用した結果、イオン電導性をこれまで以上に高めることに成功しました。これにより350℃でも80%のNOxの低減率を実現できるようになりました。さらに、反応面積を増やすため、ハニカム状の電気化学セルの開発を進めています。企業の協力を得て、樹脂成形による高精度のハニカムセルの製造に取り組み、実用化に必要な壁厚300μm、格子のピッチ1.3mm程度のハニカムの製造に目途をつけることができました。実用化に向け、今後いっそう性能向上に努めていく予定です。

電気化学反応の応用として
電気二重層によるイオン除去の可能性を探っています。

プロジェクトではさらに、活性炭電極を用いた電気二重層によるイオン除去技術(CDI:Capacitive Deionization)を活用してゴミの焼却灰洗浄廃水の高度処理技術を開発しようとしています。

傾斜電極のSEM写真

都市ゴミを焼却した後に残る灰を水で洗浄して脱塩化し、その灰をセメント材などに混ぜて有効利用しようという試みが進んでいます。この際、問題になるのが、脱塩洗浄後の塩素を含んだ廃水の処理です。現状は、既存技術である逆浸透膜(RO:Reverse Osmosis)法で塩素を取り除くのが一般的です。私たちは、RO法に比べエネルギーコスト、メンテナンスコストに優れた新たな方法として、電気二重層を用いて溶液中のイオンを除去し、洗浄廃液を処理しようと考えています。

CDIでは活性炭電極に電気分解が起こるよりも低い電圧を印加することで、電極の表面に電気二重層を形成し,電解溶液中の塩素イオンなどの陰イオンとナトリウムイオンなどの陽イオンをそれぞれの電極に吸着させることで除去します。また、電極にイオンが吸着した状態はコンデンサーで言う「充電された状態」であり、この充電されたエネルギーを再び活用することで、RO法よりエネルギー損失の少ないシステムを構築することが可能になります。今後、セルの性能の向上やエネルギー回生システムの最適化を進めていく予定です。CDIは廃水処理だけでなく、海水の淡水化など多様な用途へ応用できる可能性を有しており、そうした他の用途への展開も図っていく予定です。

Quarterly Report vol.11 2012年11月1日

参考文献/
1 Simultaneous Reduction of NOx and PM in Diesel Exhaust Based on Electrochemical Reaction, SAE Int. J. Fuels Lubr. 3(1): 50-60, 2010.
2 Development of ECR (Electro-Chemical Reduction) System for Simultaneous Reduction of NOx and PM in Diesel Exhaust, Workshop in Catalytic and Electro-Catalytic Flue Gas Purification, Denmark, 2011.
3 Development of Carbon Electrode for the Desalination of Seawater by means of Capacitive Deionization (CDI),The 4th IWA Asia-Paciffic Young Water Professionals Conference(in press)

吉原福全教授

吉原福全教授

1984年 同志社大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程後期課程単位取得退学。工学博士。'84年 京都大学工学部助手、'88年 立命館大学理工学部助教授、'92年 米国ペンシルベニア州立大学客員研究員。'95年 立命館大学理工学部教授、現在に至る。日本機械学会、日本自動車技術会、日本燃焼学会、廃棄物学会所属に所属。'89年 日本機械学会奨励賞を授賞、'01年 日本機械学会熱工学部門講演論文表彰を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:吉原福全
燃焼工学研究室

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