STORY #1
太古の歴史が刻まれた
年縞が指し示す
未来の天変地異。
中川 毅
総合科学技術研究機構 教授、古気候学研究センター長
北場 育子
総合科学技術研究機構 准教授
- 年縞
- 古気候学
- 地質年代学
- 宇宙気候学
- アジア
宗野 歩(撮影)、東京書籍
はるか宇宙の現象と
地球の気候のつながりを
年縞で示せたら、おもしろい。
年縞を完璧なかたちで採取・保存し、緻密に分析する中川らの仕事は、技術的にも前例のないものだった。中川らの技術を活用することで、他の年縞研究も進展しつつある。
北場育子は、中米のグアテマラ北部マヤ地域にあるペテシュバトゥン湖の湖底から採取された年縞を研究している。「この地域では、夏至から冬至へと巡る太陽の動きに合わせて雨を降らせる雲が移動していくことが分かっています。雨の範囲が移動すれば、湖の環境も川から運ばれてくる堆積物も変わり、その変化が年縞に刻まれます。年縞から過去の雨の周期や太陽の動きを明らかにできたら、おもしろい」と北場。マヤ文明では、太陽神が崇拝されてきた。「もしかしたらマヤの人々は、太陽が恵みの雨を支配していることを知っていたのかもしれない。想像が膨らみます」
さらに年縞は、はるか宇宙の現象が地球の気候変動に与える影響を解明するカギにもなるという。
宇宙から到来する高エネルギーの放射線、いわゆる宇宙線が地球の気候に影響を及ぼす可能性は、これまで何度も議論の的になってきた。北場は「地磁気」という視点を持ち込むことで、それを世界で初めて実証してみせた。地球が持つ磁気・地磁気は、宇宙線の影響から地球を守るシールドのような役割を果たしている。北場は花粉の化石の分析から、数十万年に一度、地磁気のパワーが弱まる時期に限って地球が寒冷化することを突き止めた。地磁気によって地球に降り注ぐ宇宙線の量が変わり、それが雲の量を変え、気候に影響を及ぼしたというわけだ。
今北場は水月湖の年縞や秋田県にある一ノ目潟から採取された年縞を用い、さらに小さな地磁気の変化を捉えようとしている。「約千年という短いスパンでも地磁気が弱まる時期があるんです。この短い期間にも地球の寒冷化は起きるのかを突き止めたい」
湖の底に眠っていた数万年前の過去から、そしてはるか遠く宇宙から、未来を見すえるという壮大な研究に挑む。
Tools & Equipments
採取した年縞の分析・保存のために中川が独自に開発したオリジナル・ツール