SPECIAL REPORT

「東日本・家族応援プロジェクト」番外編レポート
続いていく震災復興支援

村本 邦子

応用人間科学研究科 教授

団 士郎

応用人間科学研究科 教授

本誌2号「災害を生きる」特集(2016年)で紹介した「東日本・家族応援プロジェクト」
震災後を生きる人々を追い続ける取り組みの、「今」をレポートします。

被災地を巡る漫画展を京都で開催

2015年6月27日から7月5日までの9日間、京都市内の京阪電車・三条駅の構内に団士郎の手による漫画「木陰の物語」のパネルが貼り出された。ふだんはせわしなく往来する乗降客が足を止め、時間を忘れて漫画に見入っている。 漫画展「未来のための思い出:ココロかさなるプロジェクト」は、10年をかけて東日本大震災で被災地となった4県を巡る「東日本・家族応援プロジェクト」のスピンオフ企画として開催された。プロジェクトを率いる村本邦子は、震災がもたらした影響や震災後を生きる人々の「今」を記憶する「証人(witness)」となる活動を続けている。

今回のプロジェクトには東日本大震災に思いを寄せる漫画展の開催に加えて、「心の防災」についてアクションリサーチを行うという目的があった。テーマとなるのは、「困難を乗り越える力(レジリエンス)」。村本と団は被災地を回って漫画展を行う中で、漫画を読んだ人々の中にさまざまな思いが湧き起こる様を何度も目にしてきた。「『木陰の物語』は震災や災害を扱っているわけではありません。しかしそこで描かれる物語には普遍性があり、読む人それぞれが困難や悲劇に見舞われ、それを乗り越えてきたパーソナルな体験を呼び起こす力があるようです」と村本は言う。今回の調査で村本が目指したのは、そうした個々の心に呼び起こされたものを浮き彫りにすることだった。困難に直面し、それを乗り越えた物語を読むことを通じて自らの体験に思いを巡らせ、「誰の人生にもいろいろなことが起きるが、それでも人は何とかやっていくのだ」と思えることが、困難への心構えと励ましになる。それこそが「心の防災」ではないかと考えるからだ。

誰もが持つ「困難を乗り越える力」を浮き彫りにする

村本は「困難を乗り越える力」を引き出すカウンセリングの手法をもとに「漫画展を見た感想」、「自分自身の人生で困難をどう乗り越えてきたか」、さらに「今困難のさなかにある人への助言」という3つの質問項目を設定し、村本らの下で学ぶ立命館大学の大学院生や修了生20名とともに漫画展の現場でインタビュー調査を敢行した。集まった声は9日間で実に250にのぼる。「戦争体験、生命の危機に瀕した体験、身近な人の死……わずか数分のインタビューで私たちの想像を超えて壮大な物語が語られました」。

村本らはそれらを質的に分析し、団の漫画がそれを見た人にもたらした意味を明らかにするとともに、「人生の困難を乗り越えるストラテジー」としてまとめあげた。それによると「困難を乗り越える力」は、「他者に頼り、つながりを力にする」、「覚悟を決めて自分の人生を引き受ける」、「運命をありのままに受け入れる(人生観)」で構成されるという。中でも「他者とのつながり」について村本が重要だと考えるのは、直接的な支援には必ずしも結びつかない「ゆるやかな関係性」だ。「ただそばに寄り添う。そんなゆるやかな関係を維持することがレジリエンスにつながる」という。村本らが10年をかけて被災と復興の「証人」になろうとする理由もそこにある。

京都市・京阪三条駅「ココロかさなるプロジェクト~団士郎家族マンガ展」
京都市・京阪三条駅「ココロかさなるプロジェクト~団士郎家族マンガ展」

被災地に思いを寄せることが「心の防災」になる

「調査・研究した結果を理論と実践のノウハウに落とし込むことは研究者としての責務です。しかしそれ以上に重要なのは、インタビューを受けてくださった方々がそれを通じて自分自身の困難を乗り越える力を言葉にすることで、次なる災難への心構えをつくることにあります」と村本は言う。さらに収穫だったのは、インタビューを受けた人だけでなく、調査に携わった大学院生への影響だった。大学院生たちは、見知らぬ人が呼びかけに応じてドラマチックな人生を語ってくれたことに対する驚きと感謝ととともに、誰にでもこれまで生きてきた歴史があることを知り、「何より自分自身の『心の防災』になった」と振り返った。

団はこうした取り組みの意味を「既存の援助の枠組みを超えること」だと語る。「さまざまな分野の『専門家』が『支援』する方法論はすでに数多く存在しますが、苦しむ人はいなくならない。そうした人々のために従来とは全く異なる枠組みが必要なのではないか」。
世界で災害が頻発する現代、それらは決して他人事ではない。「大切なのは、誰もが『自分の身にも起こり得ること』として被災地に思いを寄せ続けること。それが被災した方々にとって再び立ち上がる力になるとともに、いつか自分自身が困難に直面した時、自らを助けてくれるはずです」。村本の言葉はすべての人々に響く。

京都市・京阪三条駅「ココロかさなるプロジェクト~団士郎家族マンガ展」
京都市・京阪三条駅「ココロかさなるプロジェクト~団士郎家族マンガ展」

『木陰の物語』 届ける!プロジェクト

被災支援の一環として始めた木陰の物語特別版。「そういえばあの人に…」「私の気持ちを添えて」等、冊子はおひとりにつき10冊をご指定の住所にお送りします。詳しくは「届ける!プロジェクト専用サイト」をご覧ください。

『木陰の物語』 届ける!プロジェクト
村本 邦子/団  士郎

団 士郎[写真左]
応用人間科学研究科 教授
研究テーマ:家族援助の実際
専門分野:家族療法

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村本 邦子[写真右]
応用人間科学研究科 教授(写真左)
研究テーマ:子育て支援と虐待防止、DV、虐待、性被害など女性と子どものトラウマへの支援および予防、戦争や災害などによるトラウマの世代間連鎖と平和教育
専門分野:臨床心理学

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2017年3月9日更新