STORY #5

災害現場で力を発揮する
無骨で強靭な機械ロボット

馬 書根

理工学部ロボティクス学科教授

加古川 篤

理工学部ロボティクス学科助教

メカでできることはメカで実現する。
災害現場ではそれが一番強い。

「メカでできることはメカで実現する。これが私たちのモットーです」と馬が語るように、馬、加古川らはできるだけ電子制御や情報システムを使わず、必要最小限のモーターと機械だけでロボットを駆動させることを考えている。どんなに緻密に作り上げてもソフトウェアはある一定の確率で誤作動を起こす。災害などの不測の事態にはなおさらだ。それに対して最も信頼性が高いのがやはり機械だという。

「最先端の技術を用いることが必ずしも最適なロボット開発につながるわけではありません。とりわけ災害用ロボットには、悪環境や不測の事態に対応できる柔軟性や強靭さが求められます。例えば車輪が段差にぶつかる力を利用して自らを回転させて段差を越えるなど、物理の原理を駆使し、環境に接触した時の反力を駆動に利用するよう設計すれば、余計なセンサーやアクチュエーターを必要とせず、その分丈夫で信頼性を高く保ち、かつ小型化や軽量化も可能になります。本研究室はこのように、数少ないセンサーとアクチュエーターで機械の力を最大限に引き出すことを研究室の研究方針としています」と加古川は説明を付け加える。

形状可変3モジュール型配管内検査ロボット

形状可変3モジュール型配管内検査ロボット。3つのモジュールはバネ状に連結され、またキャタピラの先端部分は折れ曲がるよう設計されており、配管の形状に応じて変形しながら進むことができる。

馬、加古川が開発した形状可変3モジュール型配管内検査ロボットにもそうした工夫が凝らされている。このロボットは、3つの独立した駆動モジュールを放射状に配置した構造を持つ。キャタピラー型のモジュールそれぞれに駆動源を搭載することで、3つは独立して駆動することができる。この3つのモジュールを同じ速度で駆動させると直進し、どれか一つを異なる速度に制御すると、車輪の回転の遅い方向に向かって旋回する。

加えて、配管内が詰まったり突然細くなった場合を想定して3つのモジュールの連結部をバネ状にし、広がったり縮んだりと形状を変えられるようにした。「障害物にぶつかると差動機構が働いて自律的に形状が小さくなるよう歯車数などを緻密に設計しました。これなら形状を変えるための駆動装置やセンサーを付ける必要がありません」

パタン地区

「モーターなどの駆動源をいかに減らし、小型化して消費電力を抑えるかは、私たちにとって永遠の命題です」と馬は語る。なぜならそれが災害現場での実用性を大きく左右するからだ。

垂直のガラスの壁面を登るユーモラスなロボットは、キャタピラーに取り付けた吸盤でガラスに吸い付きながら登っていく仕組みだが、ボディの重量を支えるための吸引ポンプは搭載していない。一般家庭によくあるプッシュ式吸盤フックの原理に目をつけた馬は、吸盤がガラスに吸い付き、かつスムーズに離れる仕組みをキャタピラーに取り入れた。一見無骨なその姿には、メカニカルなテクニックが詰まっているのだ。

また、らせん駆動型配管内検査ロボットは、通常前方向に進む車輪の他にボディのあちらこちらから3軸方向に車輪が飛び出している。中でもボディ前部のユニットに取り付けた3つの車輪を傾けた状態でスクリューのように回転させることで、らせんの軌道を描きながら進むことができる。「斜面の原理」を利用したネジと同じで少ない力で動かすことができるため、小型化に適している。

直のガラスの壁面を登るロボット

吸盤とキャタピラーの巧妙な組み合わせだけで垂直面を登る。メカでできることはメカで実現する、という設計思想がこのロボットを作った。

らせん駆動型配管内検査ロボット

らせん駆動型配管内検査ロボット。ボディの3軸方向に飛び出した車輪と、フレキシブルに稼働するボディ前部のユニットの組み合わせで、配管内をらせん軌道を描きながら進んでいく。

「大規模な津波や台風といった水害現場では、水没した場所や泥でぬかるんだ場所でも駆動できるロボットが必要です」
2011年の東日本大震災を経て、馬、加古川は新たな課題に注力している。防水防塵仕様にするには、これまですでに開発したロボットであっても設計思想をゼロから考え直さなければならないという。ほとんどの場合、濡れてはならない箇所にシーリングを付けたり、ゴムでパッキングするといった後付けでは従来の構造や機能を維持することが不可能だからだ。現在、防水防塵仕様の3モジュール型配管内検査ロボットの開発に成功している。

「私たちの目標は、あくまで現実の災害現場で役に立つロボットをつくることです」という馬の言葉通り、二人は研究に留まらず実現性をとことん追求していく。彼らのロボットの一日も早い実用化が待たれる。

馬 書根/加古川 篤

加古川 篤[写真左]
理工学部ロボティクス学科助教
研究テーマ:配管内検査移動ロボットの研究開発
専門分野:機械力学・制御、機械システム

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馬 書根[写真右]
理工学部ロボティクス学科教授
研究テーマ:環境適応蛇型ロボットの研究開発、管内検査移動ロボットの研究開発、レスキューロボットの研究開発
専門分野:知能ロボティクス、機械力学・制御、知能機械学・機械システム

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2016年3月22日更新