STORY #5

世界のメガファーマに匹敵する
「創薬立国日本」を目指す

藤田 卓也

薬学部 教授

国内の製薬会社が共同で研究に取り組む
革新的なコンソーシアム。

世界にはいまだに治療法のない疾患が数多くあり、多くの患者が薬を待ち望んでいる。しかし新薬創製の成功率は数万分の一ともいわれる上、開発には莫大なコストがかかることから新しい薬は年々生まれにくくなっている。中でも日本の製薬企業は今、欧米のメガファーマに後れを取る厳しい状況に置かれている。こうした状況に風穴を開け、日本とりわけ関西から製薬産業を盛り立てることはできないか。そうした志のもと、2016年、立命館大学に創剤研究コンソーシアム・ヒト吸収性評価技術分科会(CoBiTo: Consortium of Biopharmaceutical Tools)が設立された。

「この分科会のユニークなところは、競合する国内の製薬企業12社が参画し、共同で研究に取り組むとともにその成果を共有する、コンソーシアム型の研究体制をとっていることにあります。加えて大学が研究シーズを提供し、企業が協力するという大学主導の産学連携とは異なり、企業が抱える課題をテーマに据えてその解決策を探究する企業主体の連携であることも特徴的です」。本事業の発起人であり事業全体のまとめ役を務める藤田卓也はこう語る。

その言葉の通り、参画企業がそれぞれの事業課題を出し合い、皆が共有可能な研究テーマを絞り込んだ。「共通課題として挙がった一つが、医薬品を飲んだ時に有効成分がどの程度体内に吸収されるのかを創薬の早い段階で予測・評価したいというものでした」。藤田によると、医薬品の新薬候補化合物の80%以上は難水溶性を示すことが報告されており、それらの化合物を標準的な処方設計を施した製剤では、ほとんどの場合体内への吸収率が低く、薬効が十分血中に届かないことが多いという。「臨床試験の段階で初めて効果の有無がわかるのではなく、開発より前段階でヒトに対する経口吸収性や安全性を高精度に予測・評価できれば、創薬の成功率を高めるとともに、開発コストを削減することができます」と藤田は研究意義を語る。

ヒト吸収性評価技術分科会

藤田らは2016年に4つのプロジェクトを立ち上げ、産学連携で研究開発を進めてきた。プロジェクトには企業の他、各要素研究において優れた実績を持つ大学の研究者がコラボレーターとして参加し、専門的な見地から研究開発をサポートしている。

「第一のプロジェクトでは、効率的な製剤開発のための経口吸収シミュレーターの開発を進めています」と藤田。水溶性、脂溶性、化合物の結晶粒子径など体内への吸収性に影響を及ぼすパラメータを導き出し、それに基づいて経口吸収の確度を予測するシステムを開発している。

第二に取り組むのが、経口摂取した薬剤が胃や腸といった消化管でどの程度溶出するかを予測する「次世代型消化管内溶出予測システム」の開発だ。「消化管の溶出試験は胃、腸それぞれで検証するのが一般的ですが本来ヒトの胃腸は連続しています。こうした人の構造に合わせ、胃と腸の溶出度を連続して予測するこれまでにないシステムを開発しようとしています」と言う。さらに開発したシステムで溶出予測を行う一方、実際にヒトが薬剤を飲み、胃腸でどの程度溶出したかを測定し、システムの溶出予測との比較も試みている。2018年夏に臨床試験が行われ、現在解析が進められている。両者の相関が実証できれば、次は予測システムの製品化を目指していくという。

さらに三番目には「過飽和型製剤の吸収メカニズムの解明とそれに基づいた試験管内の評価方法の確立」に取り組んでいる。藤田の説明によると、製剤中に特定の高分子を導入すると一時的に飽和濃度を超えて成分が水中に溶解する過飽和状態を作り出すことができる。「この過飽和の時間を伸ばすことができれば、それだけ多くの有効成分を体内に吸収させることが可能になるはずです」。そこで動物実験で過飽和型薬剤の吸収性を検証し、そのメカニズムを探っている。解明できれば、それに基づいて動物やヒトを使わず試験管内で評価できる方法も見えてくる。

最後には、第二、第三のプロジェクトの研究成果を統合し、消化管での薬剤の溶出から血中への透過までを一度に評価できる方法を開発している。最終的には製剤の効果を効率的に評価する方法を開発したい考えだ。

2年間にわたるプロジェクトが終了したのは、2018年9月。各プロジェクトで有意な研究成果が出つつある。「何よりしのぎを削る製薬企業が協力して共通の課題を解決し得ることを実証してみせたことが、製薬業界全体に大きなインパクトを与えたと思います」と藤田は手ごたえを語る。この成果を受けて、新たな事業を立ち上げる準備も始まっている。次のターゲットは脳。中枢神経系への薬剤の移行性を正確に把握する新しい評価法の開発に挑むという。世界でも例を見ないコンソーシアムから生まれる研究成果に大きな期待がかかる。

藤田 卓也
藤田 卓也
Fujita Takuya
薬学部 教授
研究テーマ:医薬品候補化合物の消化管吸収性予測に関する研究、中枢神経系に発現する有機イオントランスポーター群の機能解析
専門分野:薬物動態学、ドラッグデリバリーシステム

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2019年4月22日更新