STORY #6

体内で起きる運動効果の
メカニズムに迫る

家光 素行

スポーツ健康科学部 教授

運動を始めてすぐに、体内ではすでに
目に見えない変化が起きている。

健康維持やダイエットのためにと一念発起して運動を始めたものの、結局三日坊主に終わってしまった。そんな経験に覚えのある人は少なくないだろう。多くの人が途中で挫折してしまう理由の一つに、「成果」が見えにくいことがあげられる。ジョギングやトレーニングに励んでも、体型や体重の変化を誰のはっきり実感できるまでには最低でも数ヵ月かかる。努力の成果を得られないままモチベーションを持続させるのは難しいものだ。

「運動の効果が目に見えるまでには早くても数ヵ月必要ですが、体の中では1週間、2週間単位でさまざまな変化が起こっています。そうした体内の変化を捉えることができれば、運動を長期間継続するモチベーションも上がるのではないでしょうか」。そう語る家光素行は、なぜ習慣的な運動が健康の維持増進に貢献するのか、またどのような運動がより効果的かを遺伝子や分子レベルで研究している。中でも注力するのは運動によって心疾患や脳血管疾患などの生活習慣病を予防することだ。

年齢を重ねると血管も老いて柔軟性が失われ、次第に硬くなっていく。これがいわゆる動脈硬化だ。さらに、血管が硬くなると血圧が上がって心臓への負担が大きくなるだけでなく、さらに、余分コレステロールなどが血管に蓄積し、血管の内腔が細くなり、最終的に内腔を塞ぐことになると心筋梗塞や脳梗塞の原因となる。「ヒトは血管とともに老いますが、年齢と違い血管は運動をすれば、何歳になっても若返ることができます。しかし、なぜ運動によって動脈硬化が改善されるのか、そのメカニズムは解明されていません」。

そこで家光は中高齢の人に有酸素性運動トレーニングを週3日、2~3ヵ月間継続してもらい、血中に血管の柔軟性を高めてくれるホルモンが分泌することで動脈硬化を改善させることを明らかにした。さらに、運動開始後2~4週間という短い期間で変化が現れるホルモンを捉え、それらのホルモンが運動効果をもたらす鍵となる役割を持っている可能性を見出した。さらに家光は、運動によって燃焼された脂肪組織や筋肉の収縮によって骨格筋からも血管の柔軟性を高めるホルモンが分泌されるのではないかと考え、検証を進めている。

体内の変化で運動効果を確認できることはトップアスリートにとっても朗報だ。筋肉量を増やすには、筋力トレーニングを長期間継続しなければならないが、家光は長くとも1ヵ月以内でそのトレーニングが功を奏しているのかを確認することができる物質も探索している。

このように、肥満の人や中高齢者、あるいはアスリートでも運動によって体内で起きる変化を捉えることができれば、目的に応じて運動の種目や時間、強度を変え、運動効果を確実に獲得することができる。「いずれは体内の運動効果を科学的な数値で示す血液バイオマーカーの開発につなげたい」と家光は目標を語る。

さらに家光は企業と連携して運動効果をより効率よく得られるためのサプリメントの効果検証や開発も手がけている。
家光は、動脈硬化の発症リスクとなる糖尿病の予防・改善に関わるホルモンとして、性ステロイドホルモンに着目して動物を用いた研究を行ってきた。「糖尿病のラットに性ステロイドホルモンを摂取させたときに糖尿病のリスクである血糖値の低下が認められ、さらにその効果は運動と併用することでアップしました」と報告した家光。「糖尿病では性ステロイドホルモンの産生能力が低下するため、低下分を補うことができるサプリメントを開発できれば」と期待を寄せる。現在は、動物による基礎研究の成果を基に、ある企業との共同研究で、ヒトへの応用に向けて新しいサプリメント開発を実施している。

別の企業との連携では、長期的にクロレラを摂取することによって骨格筋の解糖系代謝調節能力を高め、短時間で爆発的なパワーを繰り返し発揮することを必要とする運動の能力を向上させる可能性も動物実験で見出した。この効果がヒトでも確かなものとなれば、クロレラのサプリメントはアスリートにとってパワー増大の強い味方になるかもしれない。

家光が見すえるのは基礎研究のその先だ。「科学的根拠に基づく運動効果を提示するために基礎研究の研究成果を人に還元すること、つまり、基礎と応用の間をつなぐ研究をおこなうことが私の使命だと考えています」。

家光 素行

家光 素行
スポーツ健康科学部 教授
研究テーマ:心血管疾患リスクの予防・改善のための運動・食事(サプリメント摂取)方法の開発
専門分野:応用健康科学、スポーツ科学

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2016年8月1日更新