“ワールドカフェ”を体験しよう! 実施報告書

企画名:“ワールドカフェ”を体験しよう!
日時:2019年5月19日 14時30分~16時30分
場所:立命館大学大阪いばらきキャンパス キャンピングキッチン
参加者:30人(スタッフ1人含む)

概要

 企画「“ワールドカフェ”を体験しよう!」は、茨木市の各政策分野をテーマにワールドカフェ方式のワークショップを実施したものである。主催は立命館大学地域情報研究所であり、2019年5月19日のいばらき×立命館DAYにおいて実施された。企画の目的は、茨木市における政策課題等の抽出である。
 当日は茨木市民や大学関係者等30人が集まり、「安全安心なまちづくり」、「防災・減災に強いまちづくり」、「子育て支援をどうする?」、「学校のあり方を考えよう」、「高齢者を支えるまちづくり」、「茨木の魅力発信」、「茨木の国際化」の7グループに分かれて活発な議論を展開した。外国人留学生や子育て中の母親と子供なども参加しており、多様な観点からの意見を基に議論を展開することができた。なお、各グループのファシリテーターとして、各グループに立命館大学地域情報研究所の所属教員が1人ずつ参加している。

図1:企画当日の様子
出所:筆者撮影

各グループの議論

安心安全なまちづくり

図2:安心安全なまちづくりグループ
出所:筆者撮影
ファシリテーター:若林宏輔(総合心理学部、准教授)、その他参加者:2人
 安心安全なまちづくりのグループでは、2019年5月8日に大津市で保育園児らの列に車が突っ込み、園児ら16人が死傷した痛ましい事故を受けて、交通安全をメインテーマとしたディスカッションが行われた。その中でも、特に茨木市において注意しなければならない交通問題としては、歩行者・自転車・自動車の分離が挙げられた。
茨木市は主婦や学生などを中心に自転車交通が非常に多い街であり、幼児を乗せて走る自転車も多く存在している。しかし、自転車道の整備は近年進み始めた段階であり、歩行者・自転車・自動車の3者が混在して通行しなければならない道路もいまだに多い。また、歩行者や自転車に負担を強いる歩道橋が、西駅前の交通量の多い交差点など随所に存在しており、自動車優先のまちづくりとなっている部分が存在する。
高齢化による社会的弱者の増加と自動車運転に関するリスクの高まりを考慮すれば、茨木市における安心安全なまちづくりのためには、交通弱者優先の発想に基づいたまちづくりが必要となる。特に、子育て世帯も多く、またそれを増やしていくことが重要な課題であることを踏まえれば、「子どもファースト」の交通政策やまちづくりが必要となる。

防災・減災に強いまちづくり

図3:防災・減災に強いまちづくりグループ 発表の様子
出所:筆者撮影

ファシリテーター:豊田祐輔(政策科学部、准教授)、その他参加者:2人
防災・減災に強いまちづくりを考える上で、まずは発災時に落ち着いた行動を取ることと、そのための準備が重要となる。そこでこのグループでは、事前の準備における参加者の不安や疑問が最初のテーマとなった。
事前準備に関する不安や疑問としては、「ハザードマップの見方が分からない」、「避難訓練をいつやっているのか知らない」、「(兵庫県から茨木市に通学しているので)大学で被災した際に帰れるかどうか不安」といった意見が出た。立命館大学大阪いばらきキャンパスには、滋賀県や兵庫県など広く関西圏から多くの学生が通学してきており、発災時における帰宅困難者の問題は大学と行政が共に考えていかなければならないものである。また、特に居住していない自治体での避難訓練には参加する機会が少なく、日中の多くの時間を過ごしている地域・施設において、避難方法が分からないケースも少なくない。
前述した課題に対する対応としては、IoTやAIといった新たな技術を活用した対応が重要であるとの意見が多く出たため、これを中心とした防災対策が検討された。具体的には、スマートフォンへの防災アプリのインストールを義務化することによって、これを用いた救助要請や避難所情報の獲得を可能とする案や、VRによる避難訓練の疑似体験、GPSによる個人の位置情報の把握と混乱の回避などが挙げられた。
ただし、検討対象となる課題は茨木市独自のものではなく、多くの地方自治体において共通しうるものであるため、対応策も必然的に茨木市が独自に実践することが妥当であるとは限らなくなる。この実行主体に関する議論は、時間の関係上今回は見送っている。また、GPSによる位置情報管理などは個人のプライバシーとの兼ね合いもあるために、導入に際しては慎重な議論が必要となる。

子育て支援をどうする?

図4:子育て支援をどうする?グループ
出所:筆者撮影

ファシリテーター:岸道雄(政策科学部、教授)、その他参加者:7人(子ども3人を含む)
子育て支援に関する問題を考えるこのグループには、子連れのお母さんが2人と子どもが3人参加しており、当事者の意見を多く取り入れた議論を展開することができた。議論のテーマは主に仕事と育児の両立に置かれ、茨木市はもちろん現代の都市近郊自治体に共通する問題を深く掘り下げることができた。
茨木市において子育てをしていく上で不便を感じることとしては、第一に保育施設に入りにくいということが挙げられた。2018年の茨木市の待機児童数は35人であり、2017年の58人から大きく減少するなど、数字上は子どもを預けやすい環境が整いつつある。しかし、地域別の年少人口動態と保育施設の立地は一致していないため、子どもを預けるために市内ではあるが比較的長距離の移動を強いられる場面も存在している。また、近年は小規模保育施設が増加してきているが、これは制度上2歳児までしか預けることができないため、安心して仕事を続けることは難しい。
さらに、子どもが小学生になった際には学童保育の機能が重要となるが、茨木市の学童保育は周辺自治体よりも短い小学3年生までを対象としたものであり、小学4年生以降の居場所をどうするかという大きな問題が存在している。その他の課題としては、病児保育の使いにくさや夜間病院の高槻への統合が挙げられた。
保育や学童以外に議論となったテーマが家族での休日の過ごし方である。大規模な商業施設や公園は一定存在するが、子連れでゆっくりと過ごすことのできる店舗が少ないという課題が提起された。これは縦割り的に子育て支援のみに着目した際には言及されにくい論点であり、子育てをしている親の実感がこもった意見であると言える。このような課題に対しては、中心市街地活性化などのまちづくり事業に子育て支援の観点を入れ込むような、分野横断的な対応が極めて重要となる。

学校のあり方を考えよう

図5:学校のあり方を考えようグループ発表の様子
出所:筆者撮影

ファシリテーター:稲葉光行(政策科学部、教授)、その他参加者:3人
学校のあり方をテーマとしたこのグループでは、特に学校と地域の関係性が議論の中心となった。また、このようなテーマでは市町村立の小中学校が主な議論の対象となることも多いが、参加者に大学生がいたこともあって大学と地域の関係も議論の対象となった。
茨木市の中心市街地周辺の公立小中学校は大阪府下の中でも特に環境がよく、学力が高いことで有名である。また、市内には茨木高校や春日丘高校といった伝統ある進学校も存在しており、学習環境はおおむね良好な状態にあると言える。他方で、茨木のまちや人と関係を持ち、まち全体から学びを得るようなアプローチが不足しており、結果として茨木に愛着を持った子どもが育ちにくいのではないかという問題提起がなされた。
地域に興味と愛着を持たせるきっかけとしての学校教育の手法は、島根県海士町における地域人教育や京都府八幡市での八幡市子ども会議の取り組みなどが参考になる。これらの地域のように、地域内に存在する様々な魅力や歴史、課題を発見し考えることが地域への愛着を生み出す第一歩であると考えられる。特に茨木市には、ザビエルの肖像画が発見された隠れキリシタンの里など、興味深い独自の歴史を持った地域も存在しており、このような地域資源を学校教育に導入することが重要である。
また、大学と地域の関係を考えた際には、今回のいばらき×立命館DAYのような大型のイベント以外にも、日常的に学生と地域住民が関わることのできるようなシステムを作ることの重要性が確認された。しかし、このようなシステムは大学生の自発的な取り組みが必要であるため、それを生み出す支援制度を考慮することも重要であると言える。

高齢者を支えるまちづくり

ファシリテーター:森裕之(地域情報研究所所長、政策科学部、教授)、その他参加者:2人
高齢化は日本社会全体の課題であるが、高齢者が急増するこれからの時代において高齢者のすべてを支えることは難しい可能性が高い。そこでこのグループでは、「高齢者“が”社会を支える」ようなシステムについての検討を中心とした議論が展開された。

図6:高齢者を支えるまちづくりグループ
出所:筆者撮影

高齢者の能力が活かされる具体的な場面としては、人生経験を活かした心理カウンセラーや子育て経験を活かした里親制度、居住している地域の観光案内や歴史紹介を行うボランティア等が想定される。また、広い住宅を持ち家にいることも多い高齢者は、近年社会問題化している宅配業の過重労働緩和のためにも、地域における宅配便の一時預かりなどを行うことも考えられる。これらのシステムの中には、既存のボランティアの枠組みで実践できるものも存在している。「高齢者が社会を支える」という発想と、社会における様々な需要を合致させることができれば、高齢者も輝く社会を構築する第一歩となる。

茨木の魅力発信

図7:茨木の魅力発信グループ
出所:筆者撮影

ファシリテーター:佐伯靖雄(経営管理研究科、准教授)、その他参加者:2人
茨木の魅力発信グループでは、茨木市内に多くの大学が存在することに着目して、大学が中心となった魅力発信の可能性を主な議題として議論を展開した。自治体の魅力発信やシティプロモーションの方法としては、特産品のブランド化や観光名所のPR等が主流である。しかし、大学が中心となった魅力発信では異なったアプローチが重要となる。
大学を中心とした魅力発信の際には、茨木市における学生の活動が鍵となる。学生が市内において様々な取り組みを展開し、若者の発想による新たな活動が重層的に展開されることが、結果的に茨木市の魅力を発信するきっかけとなると考えられるのである。
しかし、仮に大学生が茨木市内で活発に活動を行ったとしても、大学生は4年間しか茨木市との関係を持つことができない。茨木市の魅力発信を継続的に行っていくためには、大学を卒業した以降も茨木市との関係を維持してもらう必要がある。具体的には、茨木市への居住や茨木市での就職、起業などができるような支援を展開していくことが考えられる。つまり、学生が残り続けるまちづくりや起業ができる環境づくりを大学生に対する多様な活動支援と同時に展開することで、市内に多数存在する大学を起点とした魅力発信を考えることができるのである。このような観点は“大学生”といったものに限られず、例えば近年その社会進出が推奨される女性に着目した起業支援の展開は、起業に積極的な女性を茨木に惹きつけ、結果として茨木の魅力発信につながると考えられる。

茨木の魅力発信

図8:茨木の国際化グループ
出所:筆者撮影

ファシリテーター:上久保誠人(政策科学部、教授)、その他参加者:4人(留学生3人を含む)
茨木の国際化グループには、立命館大学政策科学研究科への留学生など3人の留学生が参加し、日本人のみでは分からない幅広い議論が可能となった。茨木市の外国人人口は近年増加傾向にあり、2019年4月末段階で3435人となっている。ただしこれは住民基本台帳に登録されている人口であり、実態としてはこれ以上の外国人が茨木市に在住していると考えられる。
今後、グローバル化の進展に伴ってさらに外国人居住者は増加すると考えられる。茨木市が外国人人口の増加していく時代に対応しうる国際化した自治体となるためには、現在外国人居住者が抱く不安や疑問を解消していくことが求められる。そこでこのグループでは、まず外国人留学生から茨木市で生活する上での不安な点や不便な点をヒアリングすることから議論が開始された。
外国人留学生が不便さを感じている点としては、「店舗等で外国語が通じないこと」「ハラールフード対応の店が少ない(分かりにくい)こと」などが挙げられ、さらに大阪府北部地震を経験した留学生からは「災害時にどうすればよいのか分からなかった」といった不安が挙られげた。特に、近年多発する災害への対応は人命にかかわる極めて重要なものであり、自治体としても外国人居住者の災害対応をフォローしていく必要性は高い。
外国人居住者の多くは日本語能力が高くなく、災害に備えるためのハザードマップを読み込むことが難しい。また、発災時には避難所の場所や各種サービスの供給状況といった情報を正確に受け取ることが難しく、生活に著しい困難が生じる可能性がある。これらに対応するためには、日常からの外国語による情報提供や発災時における外国語での情報発信が必要となる。しかし、地方自治体職員の多くは英語をはじめとした語学力に優れているとは言い難いため、自治体が主体となった情報提供は困難な部分が多い。
ここで重要となるのが大学の役割である。大学では、教員はもちろんのこと、職員や学生にも語学力の高いものが多く、しかもそれが英語に限定されない。さらに、留学生と日本人学生の協力体制を構築することができれば、ハザードマップなどの事前情報段階ではネイティブスピーカーの監督の下に情報提供が可能である。このように、人命にかかわる極めて重要な政策分野である災害対策において、大学が中心的な役割を果たすシステムを構築することによって、外国人居住者の不安を取り除き、居住環境を向上させることができる。
また、大学を中心とした外国語での情報発信システムは災害対策以外にも活用可能である。自治体の情報発信や各種政策の国際化において、立命館大学と茨木市が連携することで“茨木モデル”を構築し先駆的な政策展開を進めることが、今後の国際化する社会への対応において極めて重要となる。


アンケート集計

参加者に任意でアンケートに回答いただいた結果は以下の通りである。

①ワールドカフェに参加いただいた感想②ワールドカフェへの参加理由
③ワールドカフェに今後も参加④参加者の所属したいと思いましたか?

①ワールドカフェに参加いただいた感想
・安心・安全の定義から新たな見方で考えられました。思いやりやマナーに頼るだけじゃなく、住みやすいルールや規則も必要になってくると感じました。
・自分の考えていないことなどをたくさん知ることができたので良かったです。
・茨木市の新しい発見ができたため。
・様々な意見を出すことは大切だと思うから。実際に何か不満を感じる人の声をきく必要があった。
・興味のある話を聞けた。班の人数が少人数だったので、ディスカッションに参加できた。
・防災について普段真剣に考えないのでいい機械になりました。
・学生、先生方の専門的な知見をお聞きできて充実した話し合いができました。
・茨木の今後について考える良いきっかけとなったから。
・様々な視点、発見をえることができ、貴重な体験ができました。
・身近な所に多様な課題があること、今後自分自身もその課題に向き合っていく必要があることを感じたため。
・貴重なお話をお伺いできたので、有意義な時間になりました。
・茨木の子育て支援に対する意見、要望を伝えることができて良かったです。
・貴重なお話をきくことができました。とても勉強になりました。
・実際に茨木に住んでいる外国人の話をきくことができた。
・いろいろな視点から茨木市のことを考えることができ、大変勉強になりました。
・As an international student living in Ibaraki, I of course had some problems and adjustments that I needed to do, but I feel like if the city provided some more foreign support, things would've been easier. That's why I participated in the discussion to internationalize Ibaraki city.
・I was able to talk in detail about the issues regarding 'Internationalization of Ibaraki City'. Our discussion ranged from "language barriers to information exchange by foreign skilled workers in Ibaraki.

③ワールドカフェに今後も参加したいと思った理由
・日々暮らしている中で考えられなかったことが見えて面白いと感じました。
・自分の知識を広めるためにもまた参加したいです。
・茨木市についてこれからも考えたいと思ったから。
・話しやすい雰囲気だったから。
・また違うテーマについても話し合えたら良いなと思った。
・他のテーマについても議論してみたいと思ったから。
・街がどんどん変わっていく様子を継続してしりたい。
・ドーナツを食べながら話すことができるから。
・良い刺激を受けられる貴重なイベントであるため。
・自分にない知識や価値観が知れたことに加え、楽しく議論することができたため。
・町づくりに関して考えるのは難しそうだと思っていましたが、自由な発想で考えることができたので楽しかったため。
・今後の茨木について話し合う機会はとても貴重なため。
・あっという間でした。たくさん情報を得ることができました。
・一つのトピックについて自由に話し合いができるのは良いと思った。
・今後もこのような場を設けていただき、様々な意見をちょうだいしたいです。
・I can discuss my issues and hopefully help provide some information for improvements in my community.
・Good opportunity to discuss various issues.

⑤その他、ご意見など
・楽しかったです。
・もっと参加者が増えて、活発な話し合いができればいいと思います。関心を持つ人は潜在的にあると思うのでアピールが課題だと思います。
・いばりつ開催日に限らず、定期的に開いてほしい。(=大学外の人との交流をもっととりやすくしてほしい)/チラシを講義で配るだけでなく、掲示もしてほしい。
・参加させて頂き、ありがとうございました。

成果と課題

企画「ワールドカフェを体験しよう!」は、参加人数・議論の水準共に一定の成果をあげることができたと考える。参加人数は30人(スタッフ1人を含む)であり、大学関係者以外にも子どもや母親、茨木市内で働いている市民、外国人留学生などの参加があったために、多くのテーマで当事者の意見を基に議論を展開することができた。他方で、学校のあり方や高齢者に関するテーマなど、当事者が参加者にいなかったものもあり、多様な方法で当事者の意見をフォローすることによってさらに議論を充実させることもできると考える。
議論が充実した結果として、参加者の満足度も非常に高いものとなった。参加者アンケートによると、ほとんど全ての参加者が企画の内容に対して「とても満足」または「満足」という感想を持っている。特に、普段あまり考えることのない茨木の課題に気づき、考えることができた点が高く評価されている。
参加者の満足度が高く議論も一定程度充実させることのできた本企画であるが、今後の展望は課題である。今回の企画はいばらき×立命館DAYに合わせた単発企画として立案・実行されたものである。しかし、本来市民参加型で市の諸問題を考えるワークショップのような企画は、ある程度の期間をかけて知識や問題意識を共有し市の状況を深く理解した上で議論が展開されるべきであると考える。そのためには、今回の企画を参考に茨木市と立命館大学が協力した定期的な市民ワークショップの開催など、継続的に実施される企画の実現が重要となる。茨木市における市民参加の推進や、地域情報研究所による地域課題の発見と研究のためにも、プラットフォームとしてのこのような企画を構想していくことは極めて重要性の高いものであると考える。

(立命館大学地域情報研究所 江成穣)