生命科学部 生命医科学科 准教授 (インタビュー当時)

向 英里

1995年、京都府立大学農学部を卒業後、京都大学大学院人間・環境学研究科に進学。2001年、京都大学大学院医学研究科で博士課程を修了。1999年から4年間は日本学術振興会特別研究員として研究に従事。2005年、独立行政法人医薬基盤研究所研究員、2007年、京都大学大学院医学研究科研究員を経て、2012年、千葉大学大学院医学研究院講師となる。2016年より現職。

「好きなコト」を選んだ先に研究者の今がある

#03

農学部から生体生理学研究へ

大学に進学した当初の夢は、修士課程を出て、将来は企業で研究技術職として働くこと。研究者になろうとは思ってもいませんでした。
もともと動物や植物が好きで農学部を選びましたが、進学した農学部(農芸化学科)は幅広い学問分野に通じており、バイオテクノロジーや遺伝子工学、土壌や微生物など多岐にわたる学びに触れました。中でも私が興味を持ったのは、生体の生理学的な現象の数々です。
「生体を研究したいのなら、医学的な知識や技術が欠かせない。大学院は医学系に進んだほうがいいよ」。4回生の時、卒業研究の指導教員からそうアドバイスを受け、他大学の大学院を受験することを決めました。
大学院では、医学的な見地から生体を詳しく学び、狭かった視野が広がっていくのを感じました。現在の専門である糖尿病の研究を始めたのもそこからです。「修士課程まで」と思っていた当初とは裏腹に、さらに医学研究科の博士課程に進み、研究を続けることになりました。

糖尿病になるメカニズムを探究

それまで知らなかった知識を貪欲に吸収し、新たなテーマを研究することが楽しかった一方で、研究者として大きな岐路に立ったのも博士課程でした。同じ研究室の博士課程の学生は私を除いて全員医学部出身で、医師として病院で臨床に携わりながら研究していました。彼らとは異なる視点で大学院にいた私は、がむしゃらに研究し成果を上げることに集中していましたが、大学でポジションを獲得する難しさを感じるようになりました。それが研究に対するモチベーションにもなっていましたが、博士号を取得した後は医師ではない医学研究者としての将来像を考えながら、自分に合う研究機関を模索しました。
いくつかの大学や研究機関で研究実績を積み、2016年に立命館大学生命科学部に着任しました。現在は、糖尿病を対象に発症のメカニズムの解明と治療をテーマに研究しています。とりわけ私が対象としている2型糖尿病の患者数は、現在世界の成人人口の7~8%にも達するほど増加の一途を辿っており、解決策が待たれています。
糖尿病はインスリンと呼ばれるホルモンの分泌が相対的に不足することで起こる病気です。代表的な生活習慣病の一つで、その原因は多様で複合的なため、人によって効く薬も治療法も異なります。中でも私はインスリンを分泌する膵臓β細胞に焦点を当て、インスリンがどのように分泌されるのか、メカニズムを解明しようとしています。さらに糖尿病によって異常を来す部位を同定し、治療に効果のある物質の探索も進めています。

学生の成長を後押しするのもやりがい

立命館大学に赴任して同学部や薬学部、スポーツ健康科学部の研究者の方々とかかわるようになり、研究の幅が広がりました。それまでの治療や創薬に役立つ基礎研究に加えて、予防法の探究に目を向けるようになったのもその一つです。現在は細胞レベルの研究と並行して、人を対象に運動習慣や食習慣の改善による予防の効果についても詳らかにしようとしています。
准教授として自らの研究室を持つようになって、研究生活も変わりました。研究だけに集中していれば良かったこれまでとは異なり、今は学生を教育・指導したり、学生が研究できるテーマや環境を整えることも責務の一つです。自分が研究成果をあげるだけでなく、学生の成長を見ることが、新たなやりがいになりました。
振り返ると、最初こそ「研究者になる」という強い気持ちはなかったものの、その時々で自分の好きなこと、やりたいことを選んだ先に今があります。何より進路に迷った時、行くべき道を示唆し、背中を押してくれた恩師や両親がいたからここまで歩んでこられたのだと思います。高校や大学の先生、身近な家族など信頼できる人からアドバイスを受けることで、自分では気づかなかった道が見えてくることもあります。後輩の皆さんにもそれぞれの可能性を追求してほしいですね。