理工学部ロボティクス学科 准教授 (インタビュー当時)

岡田 志麻

2000年、立命館大学理工学部ロボティクス学科卒業。2002年、同大学理工学研究科情報システム学専攻修士課程を修了後、三洋電機(株)で研究開発に携わる。その後、国立大阪医療センターなどで非常勤講師を務めながら、2008年、大阪大学大学院医学系研究科の博士課程を修了。同年、日本学術振興会特別研究員となる。2013年、近畿大学の講師に就任。2017年4月より現職。

誰かの役に立つことが研究の最大の喜び

#04

女性研究者のもとで学びたい

幼い頃、解剖学の研究者だった祖父が国際学会に出席するため外国に行く姿を見て、「かっこいいな」と思ったことが、研究者を志す道の出発点でした。高校生の時、立命館大学の学校案内パンフレットを見て、ロボットと人間をつなぐ生体工学という学問を知り、「ここで学びたい」と思いました。念願がかない、3回生から生体工学の研究室に所属。指導教官の牧川方昭先生は、今も恩師と慕う存在です。
修士課程を修了後、自活するために一度は企業に就職。家電製品の研究開発に携わりましたが、いずれは博士課程に進学し、研究者を目指そうと決めていました。4年後、辞職・結婚を経ていよいよ博士課程の進学先を探し始めた時、最初に頭に浮かんだのは、「女性の研究者のもとで学びたい」ということでした。今後長く研究者としてキャリアを続けていくために、背中を追い続けていけるようなロールモデルを見つけたいと思ったからです。そこで専門分野が近い女性の研究者を探し、出会ったのが大阪大学で保健学の領域にありながらロボティクスに関心を持っておられた大野ゆう子先生でした。
研究室を訪ね、「ここしかない」と思った直感は間違いではありませんでした。博士課程で学びながら、子どもを妊娠・出産。そんな時、二人のお子さんを持つ大野先生が「一度休むと、戻ってこられなくなる。絶対に休まず、続けなさい」と厳しくも温かく励ましてくださったおかげで、博士課程を修了することができました。

「人の役に立つ」研究を大切に

医学系研究科で博士課程を修めてもう一つ良かったのが、病院との接点ができ、医師や看護師から直接ニーズを聞いて研究につなげられたことです。博士論文では、大阪大学附属病院の小児科と共同で、ADHD(注意欠陥・多動性障がい)を持つ子どもの睡眠を無拘束・非接触で測定するシステムの構築をテーマにしました。ADHDのお子さんは睡眠時に体動の頻度が極めて高いことから、その頻度を計測し、ADHDの早期発見に役立てようというものです。
センサーを体中に取り付ける従来の計測方法は、被験者にとって大きな負担になります。そこで私は大きな装置で被験者を拘束したり、計測機器を取り付けることなく睡眠状態を計測するシステムを考え出しました。それ以降も、病院と一緒になってさまざまな生体生理を無拘束・非接触で検査する方法を開発してきました。
研究する上で最も大切にしているのは、「人の役に立つ」こと。医師のように病気を治療することはできないけれど、早期診断や病後ケアにおいて患者さんの負担を少しでも軽減できたらと思っています。私の研究室で学生に研究テーマを考えさせる際にも「身近な人でもいい。必ず誰かを助けることを目的にした研究テーマを見つけなさい」と指導しています。

人との出会いが財産になる

研究は楽しいことばかりではありません。「もう辞めたい」と思ったことも何度もあります。続けられたのは、支えてくれる人がいたから。大学時代の恩師・牧川先生や博士課程で指導を受けた大野先生は、今でも親身になって相談に乗り、「がんばりなさい」と叱咤してくださいます。人との出会いこそ、研究者としての何よりの財産だと思いますね。
研究者として実績を重ねた今、新たに「産『患』学連携の研究システムを作る」という目標が見えてきました。検査・治療で用いられる医療機器の多くは、患者さんの負担を考慮に入れて作られていません。企業と大学、そしてそれを使う患者が一緒になって、患者自身が本当に満足できるものを開発する。そんな仕組みを作っていけたらと考えています。
企業の研究開発では、必ず収益を考えなければなりません。一方大学では、自ら研究費を獲得し、10万人に一人の稀有な病気の患者を助けるための研究に取り組むこともできます。私の研究が、たった一人でも誰かを助けることにつながったら、これほど嬉しいことはありません。