経営学部 准教授

菊盛 真衣

慶應義塾大学商学部を卒業後、2013年、同大学商学研究科修士課程、2016年、博士課程を修了。東洋大学経営学部を経て、2017年より現職。

「当たり前」に疑問を持つ それが研究の出発点

#18

研究のおもしろさを実感し実務家ではなく研究者の道へ

研究の楽しさを初めて知ったのは、大学3回生の時、所属していたマーケティングのゼミでグループ研究に取り組んだことでした。
着目したのは、インターネット上にある「クチコミ」です。当時大ヒットしていたアニメ映画についてのクチコミに、肯定的な内容ばかりでなく否定的なものも数多くあることを発見したのが発端でした。肯定的なクチコミが多ければ客足が伸びるというのは容易に想像できますが、否定的なクチコミが多いのにも関わらずヒットしているのはなぜなのか?そんな素朴な疑問からグループの仲間と調査を実施。それだけに留まらず、指導教授に勧められて英語で論文を作成し、国際学会でも発表しました。初めての研究を通じて、疑問や問題意識を元に仮説を立て、それを実証するプロセスや、学生ながら世界各国の研究者たちの前で発表し、「おもしろい」と評価を受けたことに大きな達成感と喜びを味わいました。
その後は就職するつもりで就職活動を行い、大手企業から内定を得たものの、「もう少し研究を続けたい」という気持ちが膨らみ、修士課程への進学を決意。加えて、ゼミに所属する大学院生の先輩を見て、「大学院で専門性を磨くことで進路の選択肢が広がり、キャリアが豊かになるかもしれない」と感じたことも、進学に気持ちが傾いた理由でした。
将来の進路について悩んだのは、博士課程への進学を決めた時です。修士課程修了後は就職するつもりで、この時も大手企業から内定を獲得しました。けれど長い目で自分の人生を考えた時、将来結婚や出産などのライフイベントを経ても仕事を続けるには、決められた勤務時間や会社のルールに縛られることなく自分の裁量で働き方をアレンジできる研究者の方が自分に向いていると思いました。
何より大きかったのは、学部時代から教えを請う指導教授の存在です。学部生であっても妥協を許さず、厳しくも熱意を持って指導してくださり、何度も国際学会で発表するチャンスを与えてくださったおかげで、研究のおもしろさを実感することができました。教授の指導がなければ、現在の道は辿っていなかったと思います。

定説や常識を覆すような、新たな知見を生み出すことが研究の醍醐味

現在も消費者行動に対する「eクチコミ」の影響について研究しています。博士論文では、インターネット上のポジティブなクチコミとネガティブなクチコミの比率が消費者行動に与える影響を探究しました。ある製品に対するネガティブなクチコミが消費者の製品評価にプラスの影響を与える逆説的な現象に着目し、どのような条件下でならネガティブなクチコミがマイナス評価を緩和するのかを調べました。その結果、とりわけ映画などの快楽的な商品の場合や、専門性の高い消費者がクチコミを書いた場合などでは、ポジティブなクチコミの中に一定の割合でネガティブなクチコミが混じっていた方が製品評価にプラスに働くことが明らかになりました。
学術的な定説や一般に「当たり前」とされていることが必ずしも正しいとは限りません。消費者の心理や行動を観察し、既存の理論とは異なる事象や疑問点を発見した時こそが研究の出発点です。その問いに対する答えを実験や調査を通じて現実と照らし合わせながら、論理的に説明できる根拠を見出した時は、それまで苦しかったことがすべて報われるような気になります。研究者を志す若い学生にも、そうした研究の醍醐味を味わってほしいと思っています。

臆せずチャレンジをしつづけるそれが未来を切り拓くチャンスになる

立命館大学に赴任し、研究だけでなく教壇にも立つようになった今、自分自身の経験を踏まえ、学生に伝えているのは、「チャンスが与えられた時には、できない理由を探すのではなく、臆せず挑戦してほしい」ということです。チャンスは自分に都合の良いタイミングで巡ってくるわけではありません。私自身も、学生時代に指導教授から国際学会での発表をはじめとする数々の挑戦の機会を与えられました。中にはハードルの高いものもあったけれど、逃げずに全てに挑戦したことで得られた経験やそこでの出会いが実を結び、今につながっています。
今後もクチコミを介した消費者のコミュニケーションについて研究を続けていきます。またインターネット上だけでなく、人と人とのリアルなコミュニケーション、企業間の推奨行動やインフォーマルなコミュニケーションについても研究の裾野を広げたい。まだまだ研究意欲を燃やして、貪欲にチャレンジを続けたいです。