2010年5月20日更新

いつでもどこでも楽しめる「ユビキタス」が実現する情報社会

西尾 信彦
総合理工学院 情報理工学部・情報システム学科 教授
1962年生まれ。博士(政策・メディア)。1992年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻博士課程単位取得退学。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスを経て、2003年から立命館大学。「環境コンピューティングの創出」がメインテーマ。「このテーブルは天然木素材でPC内蔵。メーカーと共同開発しました。デジタル的な環境はあまり居心地が良くないですからね」

この1年間、アメリカのグーグルと大学を行き来している。同社は多くの社員がエンジニアで、技術力も大学のコンピューター科学をはるかに超えている。「研修のため最初に訪れた時は大きなショックを受けました。彼らに出来ないことはいったい何だろうと、今も考え続けています」

立命館大学では勤続5年で1年の在外研究が出来る。これまで海外の大学に行くのが常識的だったが、西尾信彦は敢えて前例のない民間企業のグーグルを選択し、日米を往復しながら研究を進めた。これは彼の実績を知れば理解出来なくもない。例えば小学生の通学路にある自動販売機の上にカメラと通信機器を設置した防犯ネットワークシステム。ランドセルにも警報ブザー付きのタグを付け、通学状況チェックから、個人別の登校・下校情報もリアルタイムに親や先生にメール送信される。「現実的な防犯は地域コミュニティーの育成が唯一の解決策。それを促す住民相互の交流支援も行っています」と西尾は付け加えた。

さらに先進的なのは、街中の壁に多くの広告映像が投影され、人の歩行に合わせて追いかけていくシステム。広告内容も個人の好みやその状況に対応させることが出来、立ち止まれば興味があると判断して自動的に映像が拡大、内容も詳しくなる。SF映画『マイノリティ・リポート』で主役のトム・クルーズが逃げている時、通路に映し出された広告映像が「ギネスを一杯」と呼びかける場面がある。まさに、その再現だ。

「この映画ではアイロニー(皮肉)として扱われていましたが、街中を歩き、買い物しながらの環境でも情報を伝達出来る新たなユーザーインタフェースを作る試み。いわゆる『ユビキタス』ですが、僕は人間が能動的に楽しめる情報を分かちあうことが重要だと考えています」

このシステムは、グーグルのストリートビューに情報を融合させた形で発展させる計画である。

「グーグルは天才集団だから、似たような発想では絶対に負ける。独創的なイノベーション・コンセプトが必要なんですよ」

AERA 2009年1月19日号掲載 (朝日新聞出版)
先生が未来に
残したいものとは
いま大阪駅北梅田地区再開発に参画しています。2012年街開きのこの街のあり様が......(→続きを読む)
Q1

AERAでご紹介した研究を始められたきっかけは何ですか?

もともと、こどもの見守りというよりも屋外でのユビキタス環境を携帯電話だけでなくもっと充実させたくて、すでに街中に数多く設置されている自販機をそのまま活用して、それらを結んだ街中ネットワークシステムを構築する研究開発をしていました。観光、広告、防災、防犯など様々なアプリケーションが候補としてありましたが、その中で大阪府と大阪市が防犯でなら一緒にやれるとのお申し出によって実現したものです。

Q2

今までに運命の出会いはありましたか?

貴重な運命の出会いは研究のイロハをお教えいただいた徳田英幸先生と坂村健先生をはじめ、これまで数多くありますが、中でも今の自分と根源的に関わっているという意味では和田英一先生との出会いだと思います。学部生当時の私は計算機やソフトウェアに何の興味ももてませんでしたが、先生のお話や講義に感動して一気に方向が決まりました。昨年、Googleに私がいたときに先生をご案内できたのは私にとっての大きな喜びでした。

Q3

最近の気になるニュースは何ですか?

いまの日本の技術力が必ずしも世界を凌駕できているとはいえないことを伝えるようなニュースが多く、世界がもう日本を見ていないような状況になりつつあるようで、気になります。この状況を打開するために、まず自分に何ができるのかを考えなければと思います。

Q4

最近、何かオススメはありますか?

1年間のシリコンバレー暮しでファーマーズマーケットが気に入りました。日本ではあまり見かけませんが、大原の朝市のようなものです。街中でも農家の方が直営でオーガニック栽培の農産物を販売されているお店などは貴重で、そういった場所での消費を拡大せねばと思っています。棚に並ぶ野菜が日々微妙に変化し、月々でいれ変っていく様は消費者への食育効果が絶大だと感じます。

Q5

休日はどのように過ごされていますか?

画期的なアイディアでも思いつかない限り休日は家庭人に徹したいと思っています。家族と買い物や街歩きをしたり食事を用意したりできるようにしていますが、つみ残しの仕事などをしなければならないこともあって必ずしも充実しているとはいえず残念です。また、研究の幅を拡げるためにも、他分野の本でも読んだり、体を動かしたりしたいと思いながらもうまくマネージメントできないでいます。

Q6

先生が未来に残したいものは何ですか?

いま大阪駅北梅田地区再開発、通称北ヤードの街づくりに参画しています。2012年街開きのこの街のあり様がこれからの日本の地方都市が元気になれるかどうかを占うと思っています。一つでもこの街づくりの中に自分の作ったもの考えたもの、もしくはそのストーリだけでもいいので残ればいいと思います。

Q7

学生に聞きました 先生ってどんな方ですか?

坂本憲昭さん
理工学研究科 情報理工学専攻 2回生

一言で言えば、人なつっこく厳しい先生です。よく学生と一緒に冗談を言って場を和ませてくれます。さらに普段から学生と交流する機会を大切にしてくれます。他の先生は個研(個人研究室)を拠点にしている方が多いですが、西尾先生は違います!基本的な活動拠点は我々学生のいる研究室。いつでも研究についての相談が出来ますし、最新技術動向についても熱く語ってくれるので、とても勉強になっています。他にも年に数回、先生宅でホームパーティをするといった機会もあり、グルメな先生夫婦がおいしいお酒と料理でもてなしてくれます。もちろんその他の飲み会への参加も皆勤賞。このように研究室生活を学生と一緒に盛り上げる非常に楽しい先生です。

学生との距離は物理的にも精神的にも近くにあり、とっても親しみやすい先生ですが、一方で研究やプロジェクトの話となると、たちまち厳しく真剣モードのスイッチが入ります。それもこれも学生の事を思っているがため。学生が興味を持ったことや成長出来ると思ったことには積極的にサポートしてくれます。学生からも求めれば、いくらでも貴重な経験を積むことが出来ます。時に厳しく叱られることもありますが、先生の下で切磋琢磨することで、確実に成長している自分がいることを感じさせられます。


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