2010年5月20日更新

ジャンクと思われていたRNAが「宝の山」に 炎症を抑制するメカニズムを解明

西澤 幹雄
総合理工学院 生命科学部・生命医科学科 教授
医学博士。1958年生まれ。1983年富山医科薬科大学(現富山大学)医学部医学科卒業。1987年東北大学大学院医学研究科博士課程を修了。(財)大阪バイオサイエンス研究所、ハンブルグ大学、ジュネーブ大学、関西医科大学を経て2007年から立命館大学。「何かと忙しくて。昔はオペラによく行きましたが、今は宝塚歌劇が精一杯の息抜きですね」
医療生命科学

DNAが遺伝子として生命情報を伝達することは広く知られている。だが、DNAはあくまで「設計図」。情報を伝える機能を持つRNAがメッセンジャーになることでタンパク質が合成される。これが分子生物学の「セントラルドグマ」(大原則)だったが、近年は遺伝情報をタンパク質に翻訳しないノンコーディングRNAが数多く存在することが分かってきた。本来的な役割を果たせないため、これまではジャンク(クズ)と思われてきたが、様々な機能を持つ宝の山と見られている。中でも、体内の炎症などを抑制するメカニズムを世界に先がけて解明したのが西澤幹雄である。

「炎症や感染症を治療するという視点で調べてきた結果、RNAそのものの特徴が見えてきました。ウィルスや細菌が活発化すると炎症を起こすので、これを殺すために一酸化窒素が体内で作られます。その働きがノンコーディングRNAとメッセンジャーRNA、それにタンパク質の結び付きであることをまず発見しました。ところが、一酸化窒素は過剰になると、死に至る敗血症ショックを引き起こします。そこで増え過ぎる前にノンコーディングRNAを働かなくすることで、一酸化窒素の合成を阻止するというところまで出来ています」

いささか難解かもしれないが、このメカニズムはゼンソクやアレルギー、腫瘍やガンなどにも共通する他「アンチエイジング(老化防止)に応用出来るかもしれません」と言う。人類の将来にもかかわる新発見なのである。 

「なぜだろうと疑問を持ったのが12年前。主役はRNAではないかとハタと閃き、ラットの肝臓を使って本格的に調べ始めたのは3年前から。時間がかかるので、こうした基礎医学は研究者不足の絶滅危惧種なんです。でも、私個人としては物事の真理を解明する喜びが大きい。特に今回は誰も知らなかったことが分かったわけですから。そして最終的には薬に結びつけることで、人類に貢献したいですね」

既に複数の関連特許を申請中。新薬は目前だ。

AERA 2009年3月2日号掲載(朝日新聞出版)

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