2010年9月13日更新
年を取ると次第に筋肉が落ちていく。特に高齢者では足が痩せ細ってしまうことが少なくない。これをサルコペニアと呼び、その原因を探るのが藤田聡の専門領域だ。
「食物を摂取すると、その糖質がインスリン分泌を刺激してタンパク質の合成を指示しますが、加齢によって、そのシグナルが弱くなるわけです。筋力もないので、転倒しやすく、骨折から寝たきりという危険性もあります」と藤田は語るが、こうしたメカニズムの解明だけでは終わらない。
「高齢者に有酸素運動をしてもらいましたが、1回だけでもタンパク質合成のシグナルが若年者と同じレベルまで改善されました。有酸素運動は心肺機能の向上が目的ですが、高齢者の場合は筋肉を作る働きも刺激されます。だから、筋トレも有酸素運動もやりましょうと提案しています。セラバンドという特殊なゴムバンドを使うと手軽に、グループで輪になって会話しながらでも一緒に筋トレをやれます。『運動しなければ』ではなく、グループで楽しく手軽にできることで継続性を追求します。グループだと、近況を報告しあったり、趣味の話をしたりと会話もでき、人同士のつながりも広がります。それを草津市と協同で取り組みたいと考えています。長期的な実効が検証されれば、一つのパッケージ・プログラムとして全国に発信していけるはずです」
基礎的な研究にも関わらず「本当はこのプログラムでどれだけ医療費を削減できるかを探求したい」と言うように、現場での具体的な応用を常に考えていることが藤田の特長だ。
「もう一つの課題はアスリートのパフォーマンス向上。同じ筋肉ですが、こちらはいかに効率的に筋力を増強できるかがテーマであり、実際に筋肉のサンプルを取ってアミノ酸摂取に対する生化学的反応を調べてきました。新設予定のスポーツ健康科学部では栄養士などを含めたチームで、科学的な情報をトレーニングの現場にフィードバックしていきます。代わりにアスリートの様々なデータを私たちに提供していただきます。立命館の各クラブの監督やコーチは科学を積極的に取り入れていく姿勢があるので、お互いにプラスになると思います」
高齢者とアスリートは両極端に見えるが、筋肉の研究を通して、彼らの幸福に「貢献」していくことが最大の目標なのである。
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