2010年9月13日更新

筋肉のメカニズムを解明し、高齢者もアスリートも元気に

藤田 聡
スポーツ健康科学部 准教授
博士(運動生理学)。1970年生まれ。1993年ノースカロライナ州ファイファー大学スポーツ医学・マネジメント学部卒業。1996年フロリダ州立大学大学院運動科学部運動生理学専攻修士課程修了。2002年南カリフォルニア大学大学院博士号取得。同大学医学部内分泌科ポストドクター。2004年テキサス大学医学部加齢研究所研究員。2006年テキサス大学医学部内科講師。2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻特任助教を経て、 2009年から立命館大学。長いアメリカ暮らしで極めたテニスを続け、日本テニス協会公認指導者養成委員でもある。
スポーツ健康科学部ブログ[あいコアの星]

年を取ると次第に筋肉が落ちていく。特に高齢者では足が痩せ細ってしまうことが少なくない。これをサルコペニアと呼び、その原因を探るのが藤田聡の専門領域だ。
「食物を摂取すると、その糖質がインスリン分泌を刺激してタンパク質の合成を指示しますが、加齢によって、そのシグナルが弱くなるわけです。筋力もないので、転倒しやすく、骨折から寝たきりという危険性もあります」と藤田は語るが、こうしたメカニズムの解明だけでは終わらない。

「高齢者に有酸素運動をしてもらいましたが、1回だけでもタンパク質合成のシグナルが若年者と同じレベルまで改善されました。有酸素運動は心肺機能の向上が目的ですが、高齢者の場合は筋肉を作る働きも刺激されます。だから、筋トレも有酸素運動もやりましょうと提案しています。セラバンドという特殊なゴムバンドを使うと手軽に、グループで輪になって会話しながらでも一緒に筋トレをやれます。『運動しなければ』ではなく、グループで楽しく手軽にできることで継続性を追求します。グループだと、近況を報告しあったり、趣味の話をしたりと会話もでき、人同士のつながりも広がります。それを草津市と協同で取り組みたいと考えています。長期的な実効が検証されれば、一つのパッケージ・プログラムとして全国に発信していけるはずです」

基礎的な研究にも関わらず「本当はこのプログラムでどれだけ医療費を削減できるかを探求したい」と言うように、現場での具体的な応用を常に考えていることが藤田の特長だ。
「もう一つの課題はアスリートのパフォーマンス向上。同じ筋肉ですが、こちらはいかに効率的に筋力を増強できるかがテーマであり、実際に筋肉のサンプルを取ってアミノ酸摂取に対する生化学的反応を調べてきました。新設予定のスポーツ健康科学部では栄養士などを含めたチームで、科学的な情報をトレーニングの現場にフィードバックしていきます。代わりにアスリートの様々なデータを私たちに提供していただきます。立命館の各クラブの監督やコーチは科学を積極的に取り入れていく姿勢があるので、お互いにプラスになると思います」
高齢者とアスリートは両極端に見えるが、筋肉の研究を通して、彼らの幸福に「貢献」していくことが最大の目標なのである。

AERA 2009年7月13日号掲載 (朝日新聞出版)
新しく着任された先生にお話を伺うときはドキドキします、失礼がないかどうかと。結果、とてもよいお話が聞けました......(→続きを読む)

取材こぼれ話

2009年4月から立命館大学へ来られた藤田先生。新しく着任された先生にお話を伺うときはドキドキします、失礼がないかどうかと。結果、とてもよいお話が聞けました。先生の研究分野は大きく2つあるのは、本文でも紹介しました。そのうち特に、「セラバンド」が全国に広まって、元気な高齢者が増えることを今後期待しています。

写真撮影は、びわこ・くさつキャンパスのBKCジムで行いました。ジムのランニングマシーンで走っていた女子学生を背景にパチリ。何枚か写真を撮っている間に「ぺこ、ぺこ、ぺこ・・・」と音がする。見ると、後ろで走ってくれていた女子学生のシューズの底がはがれていました。それを見た藤田先生が開口一番「怪我がなくてよかったね」と。先生の優しさがにじみ出た瞬間でした。


このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp

ページの先頭へ