2010年9月13日更新
「清水の舞台から飛び降りる…」という言葉があるように、清水寺からの眺望は絶景だ。これは山の斜面に建立されているからで、重要文化財の多い京都のお寺の多くは背後に山を控えている。このため、台風などで大量の降雨を受けたときには、土砂崩れなどの恐れがある。
「重要文化財は燃えてしまったら復元は不可能。土砂災害の場合は、土砂の中から取り出すことができ、痛んだ部分は削ったりして巧みに修復することができる。でも文化財を守ることを考えると土砂災害について研究をすることも大切です」と、深川良一は語る。
土砂災害を引き起こす斜面崩壊を事前に感知する防災システムに取り組むスペシャリストである。
「京都市内のお寺を20ヶ所以上は調査しました。その中で、お寺の方自身も悩んでおられることがわかりました。1年以上のお付き合いを経て、清水寺での研究が始まりました。」
清水寺で調査を開始し、雨や地震による土砂災害を食い止める先人の取り組みも見つけた。本堂や釈迦堂・阿弥陀堂には擁壁の跡があったという。
「土質や地下水の状態にもよりますが、京都の東山山麓は決して安心できる地層ではありません。そこに重要文化財があるわけですから、イザという事態に今から備えておく必要があるわけです」。既に2004年から清水寺の背後の斜面で、斜面変状のモニタリングを行ってきた。このデータはお寺の防災パソコンに送られると同時に、研究室でもリアルタイムで確認することができる。データから危険な兆候が読み取れれば、お寺の責任者の携帯電話に通知がいき、観光客の避難誘導や重要文化財の保護にあたるなど直ちに対策をとれるようになっている。
「私たちは火災には敏感でも、土砂崩れや地滑りなどは、発生して初めて危険性に気づきます。人的被害が出ない限り、記録にも残らない。でも、日本は世界的に見ても地盤が崩れやすいところです。だからこそ、日常的なモニタリングとデータ収集が重要なのです。システムとしてはほぼ完成しています」
このシステムは、将来的には急竣な山中の国道などへの応用が可能で、土砂崩れによる災害も予防することができるようになる。
「私が防災の研究に進んだ原点は、生まれ育った鹿児島。シラス台地の影響で、土砂災害が多く、亡くなった人もいます。何とかしたいと思った。だからこそ、中途半端には終われないのです」
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