2010年9月13日更新

この防災システムが、重要文化財を土砂災害から守る。

深川 良一
総合理工学院 理工学部・都市システム工学科 教授
工学博士。1953年鹿児島県生まれ。1977年京都大学工学部交通土木工学科卒業、1979年同大学院工学研究科交通土木工学専攻修士課程修了。 1996年から立命館大学。研究分野は地盤工学であり土木学会論文賞など多数の学術賞を受賞。土木の出身だが、地盤と機械を組み合わせた新分野「ジオメカトロニクス」に関する研究にも取り組んでいる。

「清水の舞台から飛び降りる…」という言葉があるように、清水寺からの眺望は絶景だ。これは山の斜面に建立されているからで、重要文化財の多い京都のお寺の多くは背後に山を控えている。このため、台風などで大量の降雨を受けたときには、土砂崩れなどの恐れがある。

「重要文化財は燃えてしまったら復元は不可能。土砂災害の場合は、土砂の中から取り出すことができ、痛んだ部分は削ったりして巧みに修復することができる。でも文化財を守ることを考えると土砂災害について研究をすることも大切です」と、深川良一は語る。

土砂災害を引き起こす斜面崩壊を事前に感知する防災システムに取り組むスペシャリストである。
「京都市内のお寺を20ヶ所以上は調査しました。その中で、お寺の方自身も悩んでおられることがわかりました。1年以上のお付き合いを経て、清水寺での研究が始まりました。」
清水寺で調査を開始し、雨や地震による土砂災害を食い止める先人の取り組みも見つけた。本堂や釈迦堂・阿弥陀堂には擁壁の跡があったという。

「土質や地下水の状態にもよりますが、京都の東山山麓は決して安心できる地層ではありません。そこに重要文化財があるわけですから、イザという事態に今から備えておく必要があるわけです」。既に2004年から清水寺の背後の斜面で、斜面変状のモニタリングを行ってきた。このデータはお寺の防災パソコンに送られると同時に、研究室でもリアルタイムで確認することができる。データから危険な兆候が読み取れれば、お寺の責任者の携帯電話に通知がいき、観光客の避難誘導や重要文化財の保護にあたるなど直ちに対策をとれるようになっている。

「私たちは火災には敏感でも、土砂崩れや地滑りなどは、発生して初めて危険性に気づきます。人的被害が出ない限り、記録にも残らない。でも、日本は世界的に見ても地盤が崩れやすいところです。だからこそ、日常的なモニタリングとデータ収集が重要なのです。システムとしてはほぼ完成しています」

このシステムは、将来的には急竣な山中の国道などへの応用が可能で、土砂崩れによる災害も予防することができるようになる。
「私が防災の研究に進んだ原点は、生まれ育った鹿児島。シラス台地の影響で、土砂災害が多く、亡くなった人もいます。何とかしたいと思った。だからこそ、中途半端には終われないのです」

研究室の学生たち。
日々大学と清水寺を行き来している
AERA 2009年8月10日号掲載 (朝日新聞出版)
京都・滋賀にある立命館大学だからこそできる研究を紹介したいという思いはいつもあります。深川先生の研究はまさにそのコンセプトにぴったりでした......(→続きを読む)

取材こぼれ話

京都・滋賀にある立命館大学だからこそできる研究を紹介したいという思いはいつもあります。深川先生の研究はまさにそのコンセプトにぴったりでした。お話をうかがう中で、理系学部の研究は実験の繰り返しとデータ収集・分析の積み重ねなのだと思う取材でした。研究室の学生は本当に毎日清水寺とキャンパスを行き来しているのだそうです。ので、撮影時には研究室の学生たちも一緒にパチリ。きらきらの笑顔たちが素敵でした。撮影を行った場所は、土砂崩れを再現する実験施設のある場所。お話を伺った先生の個人研究室からは遠かったため、撮影場所まで取材クルーを先生の車で送り届けていただきました。お話を伺っている間、学生たちは撮影用に背景の斜面装置の土を大急ぎでならしてくれていたようです。ありがとう。先生や学生のみなさんに支えられてこの原稿たちはできているのです。


このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp

ページの先頭へ