2011年1月17日更新

機械の指が導く、ヒューマン・ロボット

小澤隆太
立命館大学理工学部ロボティクス学科准教授
小澤隆太(立命館大学理工学部ロボティクス学科准教授)
博士(工学)1974年東京都生まれ。2001年明治大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。2003年から立命館大学。研究テーマはロボットの運動制御、腱駆動ロボットなど。趣味はサッカー、スノーボード。身体の極限状況を知るために、バランスボールに乗ることも。「スポーツのバランス感覚や身体の動きがロボティクスの研究につながっています」

写真/小澤の左手下にあるのが「機械の指」。指の先端の関節は連動するが、親指だけは先端が独立して動く。この機能も人間と同じ。
ロボット

たとえば人差し指を曲げてみてほしい。その先端だけを曲げることはできず、2つの関節が必ず連動する。次に同じ指を机などに押し当てると、自然に先端の関節が逆方向にしなる。これは指の骨が筋肉で引っ張る「腱(けん)」につながっているからで、人間に限らず動物が柔らかでしなやかな動きをするのは、こうした骨と筋肉と腱が複雑に組み合わさっているからだ。

この腱を頑丈な防弾チョッキなどにも使われる繊維のワイヤーで、筋肉を小型モーターとして、まるで人間のように動く「機械の指」を開発したのが小澤隆太である。ロボットにワイヤー駆動は珍しい仕組みではないが、この「機械の指」は滑らかで器用に動く。

しかし、モノをつかむことだけが目的であるなら、もっと簡単な方法がいくらでも考えられるはずだ。

「確かに限定された目的と特定の環境で動くロボットはかなり進歩しており、たとえばピンポイントで誤差なく溶接できるロボットが工場で活躍しています。二足歩行や踊るロボットもありますが、想定外の環境や段差があるとフラついたり立ち往生します。事前に設定された枠組みの中で開発されているので、こうした技術を単純に合体すればヒト型汎用ロボットに発展できるというわけではないのです」

ある土俵の中では目的どおりに動いても、別の土俵では思うように動かない。新しい土俵で動くロボットは、新しい条件でゼロから作らねばならないのだ。

指の先端の関節が連動する「機械の指」
指の先端の関節が連動する「機械の指」

「こんなロボットたちを見ている中で、僕は未来のロボットの共通課題は、ロボットに指令を与える制御系の構造にあると考えました。そのモチーフの一つとして複雑で器用に動く、人間の筋肉や腱の動きを実現してきました。ロボットの動きを膨大なセンサーとコンピューターの能力に頼って制御する方法もありますが、それではいずれ行き詰ってしまう。しかし、基礎となる制御系をしっかりと作り込めば、予想しない環境の変化にも機械の構造を上手に生かして、的確に動作するはずです」

それを象徴するのが、冒頭で紹介した外からの力で「しなる」機械の指なのである。

「子どもの頃に映画『ターミネーター』のロボットを見て衝撃を受けました。あれが本当に存在すると思いましたからね(笑)。けれどもロボットはみんなが言うほど進歩していません。だから、縁の下の力持ちというと大げさだけど、ロボットを動かすにはどんな基礎が必要かを究めていきたい。その意味では、僕の寿命を超えた未来に夢が叶うといえるかもしれません」

AERA 2011年1月17日発売号掲載 (朝日新聞出版)
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「機械の指」


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