2011年1月31日更新

高齢者・障がい者の暮らしを支える安全な福祉ロボット

手嶋教之
立命館大学理工学部ロボティクス学科教授
手嶋教之(立命館大学理工学部ロボティクス学科教授)
博士(工学)。1962年埼玉県生まれ。1986年東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専門課程修士課程修了。国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所研究員、ウィーン工科大学電子工学科フレキシブルオートメーション研究室助手などを経て1996年から立命館大学。福祉工学を専門として研究テーマは多彩。趣味はネクタイピン集め。「ユニークなデザインのものを400本以上持っていますが、2年に1回しか披露できないのが悩みです」

写真/手嶋が持っているのは「3次元力制限装置」。先端の棒に一定の力が加わると、しなやかに曲がり、ゆっくり復元する。ロボットのアームによる事故などを防ぐ安全装置。
ロボット 安全 高齢者

手嶋教之の研究室には机はあるがいすがほとんどない。そのかわりに車いすが10台以上並ぶ。「これが私たちのいすなんですよ。どうぞお座りください」と勧める姿勢が、彼の研究理念を雄弁に物語っている。

車いすだけではない。介護ベッドや義手・義足、色弱体験眼鏡や点字プリンタなど100を越える様々な福祉機器が揃っている。

「福祉ロボットは、使用者に受け入れられなければ意味がありません。これまで様々なロボットが現場に持ち込まれましたが、アタマの中で技術の組み合わせしか考えていないと、人の日常生活に調和することは難しい。だから私は、実際にこれらを使い、それぞれの機器の優れているところや問題点を分析して、研究につなげるようにしています」

彼の研究は、装置の開発だけではなく、機能回復訓練で意欲を高める研究や、高齢者が楽しく遊べるアミューズメント機器まで実に幅広い。

手嶋が開発したものに「イヤリング型入力装置」がある。四肢麻痺者がパソコンなどを操作する際、頭の動きは最も有効な操作手段となる。しかし、これは頭にケーブルが延びた大きな装置を付けなければならず、利便性も悪い。そこで、ワイヤレス入力にするだけでなく、センサーをイヤリング型にしてファッション性をもたせた。

「いかに身体の不自由を補うか、というのは作り手の一方的な視点。高齢者や障がい者などの生活全般を理解したうえで、何を求め、どんなことを嬉しく感じるのかを突き詰めて考えることが福祉工学の重要な役割です」

そんな手嶋が開発した最新のものが「3次元力制限装置」である。先端の棒に一定以上の力が加わると、ロボットに設定されている制御とは関係なく、どんな角度でもしなやかに曲がり、ゆっくりと戻る。

3次元力制限装置。先端の棒に一定の力が加わると、しなやかに曲がり、ゆっくり復元する。
3次元力制限装置。先端の棒に一定の力が加わると、
しなやかに曲がり、ゆっくり復元する。

介護目的に作られたロボットでも異常な動作が発生すれば、逆に危険な存在になる。そこでロボットにこの装置を使えば、金属の塊であるロボットの腕が突然人に降りかかってきたとしても、身体に接触した瞬間に、アーム自体が逆方向に柔らかく曲がる。衝突しても人に怪我をさせることはない。福祉ロボットは、高齢者や障がい者の自立や介護負担の軽減を期待されている技術である。しかし、実用化の際に最も重要な課題である安全性については、ほとんど研究がされていないのが現状なのだ。

「10年後には、各種ロボットの普及で福祉介護現場は大きく変わるでしょう。私は人間と機械工学の間で、高齢者や障がい者の幸せな暮らしを支える安全なロボットを考えていきたい。まだまだ試行錯誤ですが、やりがいはたっぷりありますよ」

AERA 2011年1月31日発売号掲載 (朝日新聞出版)
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3次元力制限装置


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