2011年11月14日更新

騒音を快音に変える、「サウンド・マジック」

西浦敬信
立命館大学情報理工学部准教授
西浦敬信(立命館大学情報理工学部准教授)
博士(工学)。1974年大阪府生まれ。2001年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士課程修了。ATR音声言語通信研究所研修研究員、和歌山大学システム工学部助手を経て、2004年から立命館大学情報理工学部。音環境の解析・理解・再現・合成を専門分野としているが「個人的にはオーディオマニアではないですよ。自宅でもテレビを見る程度。そういえば音楽はあまり聞かないなぁ」というから面白い。
防災

新幹線やジェット機の中はかなりの騒音のはずだが、ぐっすり寝入ることも珍しくない。ところが、静かな空間では逆に小さな音が気になって安眠できないことがある。

東日本大震災では多数の人が避難所で共同生活を強いられたが、周囲のヒソヒソ話などが不快な騒音になって精神的な疲労を感じた人が少なくないという。耳栓が精一杯と諦めるほかないように思えるが、こうした騒音を快音に変えるシステムを開発したのが西浦敬信だ。

「耳ざわりな騒音に、別の制御音を加えることで快音に変えるわけです。たとえば昆虫の高音の鳴き声が騒音なら、テレビ放送終了後の『砂嵐』といわれる画面から出ているような音を基に設計した制御音を加える。リリリリという鳴き声に、ザザーという不規則なゆらぎを持つ制御音を重ねると不快な音ではなくなります。心拍数や官能評価による実験を行いましたが、騒音による不快感の低減を確認できました」

すでに東日本地域では多くの避難所が閉鎖され、仮設住宅などに移っているので、間に合わなかったのだが、「小型快音化装置」として実用化を目指して現在も研究を進めているという。

「マイクロホンで騒音を感知して、それを快音化する制御音を発生させる仕組み。マイクロホン、スピーカーとマイコン程度の構成なので、小さな電気ポットくらいの大きさになります。それを枕元などに置くだけで安眠できるはずです」

この小型快音化装置は、壁の薄い共同住宅はもちろん、将来的には喫茶店などでの密談を聞かれないようにすることも検討しているのだという。いわばサウンド・プライバシーの保護にも役立つのである。

さらに、西浦は超音波に音を乗せる研究も行っており、音響信号をレーザー光のようにスポットライト化できる(写真/西浦が手に持っている装置)。音も光のように反射するため、たとえばアイドルのポスターの真正面に来た時だけ「おはよう」の声を聴かせられるのだ。複数の音響信号を天井や壁に当てた3次元感覚の「音像プラネタリウム」も実現。実際に研究室で聴いたが「サウンド・マジック」とでも表現したい驚きを感じた。

「音響技術の応用範囲はかなり広いと思います。これからも実用化を念頭において、豊かな社会基盤の形成に貢献していきたいですね」

AERA 2011年11月14日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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