2011年11月28日更新

大津波が来ても「流されない橋」に挑む

伊津野和行
立命館大学理工学部教授
伊津野和行(立命館大学理工学部教授)
博士(工学)。1960年大阪生まれ。1982年京都大学工学部土木工学科卒業。1984年同大学大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了。同大学工学部助手を経て、1993年から立命館大学。2001年から現職。都市システム工学科において、構造物や文化遺産の免震・制振設計の研究に取り組んできた。「防災工学というエンジニアリングの分野で、地震から人や町、さらには文化を守っていきたいと思います」
防災

「では、いきますよ!」と声がかかり、せきとめられていた大量の水が瞬時に開放された。この水が、幅20センチ×全長約4メートルの透明なアクリルの水路を奔流する。その先には、やはりアクリル模型の橋が設置されているのだが、水流は圧倒的な力を誇示するかのように強くぶつかり、橋をはるかに超えて高く跳上がった。

その様子を見ながら、「東日本大震災による大津波では約20の道路橋と約100の鉄道橋が流されました」と伊津野和行は語り始めた。

「橋の流出や崩壊による交通網の寸断が、人命救助や救援物資の配送、さらには地震後の復旧を遅らせる要因となりました。これまで橋の設計において津波の作用は考えられていなかったのです。2004年のインドネシア・スマトラ沖地震を教訓に、ようやく検討を始めたばかりの段階。もっと早くからやっておくべきでした。本当に悔しいですね」

この橋の模型には圧力センサーが取り付けられており、模擬津波による水流を計測すると同時に、高速度カメラで撮影も行っている。

「橋のどこにどのように水圧がかかるかを測定しています。どんな揺れの地震や、どんな規模の津波が来るのか、また、それによってどのような影響が出るのかによって対策も変わってきます。そこで、橋の形を様々に変えて、水流に与える影響を調べています」

すでに重要と指定された橋ではワイヤーケーブルが橋桁と柱を結んでいるが「橋がかけられている方向の震動には強くても、波は横から来るので、その効果は実証されていません」という。加えて、こうした橋の補強はコストも無視できない。

「それでも、少しでも防災のためにいろいろ工夫したものは、それなりの効果を出しています。だから一歩ずつでも前進することが大切。その意味でも『想定外』なんて言葉を使ってはいけないと自戒しています」

この実験は、いずれ子供たちにも見せて防災教育の一環にする予定という。津波による水流の怖さは実感してみないと分からないからだ。

「橋の支持部に必要な強度がやっと把握できました。5年以内にはメドをつけたいですね」

AERA 2011年11月28日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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