2011年12月19日更新

汚染ヘドロの浄化に挑む「微生物ハンター」

福田青郎
立命館大学生命科学部助教
福田青郎(立命館大学生命科学部助教)
博士(工学)1976年生まれ、長崎県出身。2002年京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻修士課程修了。2005年に同大学院博士課程単位取得満期退学、博士(工学)の学位取得後、関西学院大学理工学研究科ナノバイオ研究開発センター博士研究員。2008年に立命館大学総合理工学研究機構ポストドクトラルフェロー、2009年から現職。生態・環境、分子生物学、応用微生物学を専門としており、超好熱菌などを分析してきた。「最初は怪獣ですけど、子供の頃から奇妙な生き物が好きだったんですね。それで微生物の果てしなく広い、かつ深い世界に引き込まれてしまいました」
防災 微生物

東日本大震災による瓦礫はようやく本格的な処理が始まったが、水産物や燃料などの油分を含む大量のヘドロの問題は片付いていない。これを放置すれば、深刻な環境汚染が懸念される。

このヘドロを効率的に分解する微生物の研究に取り組んでいるのが福田青郎だ。

「琵琶湖の浄化を目的として、すでにヘドロを炭素源として生きる、つまり二酸化炭素などに分解してくれる微生物を数10種類発見しています。その中から特に元気な奴の遺伝子などを分析して、効果的に増殖させる方法を見つける段階。琵琶湖は淡水で、被災地のヘドロは海水と条件が異なり、汚染物質も多様ですが、それを好物として生きる微生物は必ずいるはずです」

微生物(菌)は私たちのまわりに「びっしり」と表現できるほど数多く存在しており、その一部が食物などを腐敗させ、人間を病気にもしてしまう。だが、腸の中で消化を助ける「善玉菌」もいるほか、人類を感染症から救ったペニシリンもカビと呼ばれる菌の一種である。酒や味噌など各種の「発酵食品」も微生物の働きを利用した結果であり、これに環境浄化という新たな役割を与えようとしているのだ。

「解明された微生物はほんの僅か。地球上にどれだけの種類があるのか、見当すらつきません。でも彼らは身近にいます。僕達が呼吸する酸素も大昔の微生物の活動で生まれたのですからね。また環境浄化に関しては、砕いたPETボトルを養分として、これを分解する微生物をすでに確認しています。ただし微生物同士が補い合って共存するケースもあるので、見つけた後も、病原性の有無から、生態などの詳細な分析が必要なのです」

これまでに、高温の水中で生きる超好熱菌や、それとは対照的な寒冷地・南極に由来する微生物を分析してきた福田は、いわば「微生物ハンター」とも表現できるだろう。

「ある土壌菌を含む溶液が放射線量を減少させたとして分析を依頼されていますが、今の段階では不明な部分が多い。微生物の世界は偶然も大きな要素なのです。役立つ菌種を見つけられれば画期的な研究成果を生み、人類にも貢献できる。実に興味深い分野だと思います」

AERA 2011年12月19日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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