2011年12月26日更新

過去の自然災害の復興過程を再現する「GIS災害考古学」

河角 龍典
立命館大学文学部京都学プログラム准教授
河角 龍典(立命館大学文学部京都学プログラム准教授)
博士(文学)1971年三重県生まれ。1994年立命館大学文学部地理学科卒業。2003年同大学大学院文学研究科地理学専攻博士課程後期課程修了。立命館大学COE推進機構講師、同文学部講師を経て2009年から現職。地理情報システムを活用した古代都市の環境史を研究してきた。日本文化財科学会奨励論文賞などを受賞。「小学生の頃から地図が大好きでした。古代都市の建築や環境をGIS(地理情報システム)として詳細な3Dマップなどに復元してきましたが、文献や2次元地図だけでは分からなかったことが見えてくる。これが楽しいんですね」
防災

「此処(ここ)より下に家を建てるな」と彫られた石碑によって東日本大震災の大津波から被害を免れた地域がある。この石碑の警告と同じように、災害考古学として、過去の自然災害の克明な実態解明と復旧・復興過程の再現に取り組んでいるのが河角龍典である。

「災害の調査検証だけでなく、その後どのように人が災害跡地に流入して土地を開発したかが分かれば、今後の復興計画策定にも役立つはずです」

大きな自然災害は古い文献や史料にも残されているが、それだけでは実態が分からない。地層には災害の堆積物から、災害後の土地利用の痕跡も残されている。そうした情報を読み取ることで災害の履歴や復興過程などを再現できるという。河角は地図に様々な情報を重ね合わせるGIS(地理情報システム)の専門家であり、考古学や地質学などを総合して、過去を目に見えるビジュアルとして再現しようとしているのだ。

「平安京では、GISを駆使して、数千点にも及ぶ遺跡の深さの情報から平安時代の遺跡の深度分布図を作りました。この地図は、平安京の埋もれ具合や過去の地形を知るための手がかりとなるだけでなく、平安以降の1300年間に、京都を流れる河川の洪水によって堆積した土砂の広がりを示す地図であることが分かりました。GISと遺跡の地質情報を活用すれば、過去の自然災害を可視化できる可能性があります」

このGISの手法を災害考古学に応用することが河角の目的なのだが、遺跡の地質情報取得に役立つ強い味方が加わった。地下1~3メートルの地層を抜取り調査できるハンディージオスライサーだ。12×2センチ角の箱状の機材で、ボーリング(地層掘削)より多くの情報を得ることができる。(※)

「発掘調査とは違って掘削場所を任意に決められるので、精度の高い調査ができます。すでに東北の貞観の大津波(869年)のように、この機材を使った津波堆積物の研究が進展しつつあり、津波災害の履歴の解明に大きく寄与しています。しかし、津波の後、どのように人が災害の跡地を利用したのか、考古学的な側面についてはまだ解明されていません。今後は明応東海地震(1498年)などで大津波の被災を受けた三重県の安濃津を重点調査する予定。こうした災害と地形の履歴、遺跡から見た人の動きや営みを再現できれば、災害史研究の新たな発展に寄与できると思います」

※ジオスライサーによる地層抜き取り調査法は、考案者の広島大学・復建調査設計株式会社・核燃料サイクル開発機構の特許技術(登録番号2934641)です。
※ジオスライサー(Geoslicer)は広島大学の登録商標です。

AERA 2011年12月26日発売号掲載 (朝日新聞出版)

このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp

ページの先頭へ