2012年1月16日更新

災害や犯罪危険度、健康格差などが一目瞭然で分かる「リスクマップ」

中谷 友樹
立命館大学文学部地理学専攻准教授
中谷 友樹(立命館大学文学部地理学専攻准教授)
博士(理学)。1970年神奈川県生まれ。1992年東京都立大学理学部地理学科卒業。1997年同大学大学院理学研究科地理学専攻博士課程修了。1997年に立命館大学文学部専任講師、2000年に同大学文学部助教授。2007年から現職。GIS(地理情報システム)と空間分析を駆使した分析的地理学が専門分野。日本地理学会奨励賞などを受賞。「子供の頃は海外にいて、地図を見て何かを発見すること、想像することが好きでした。その続きを今も求めているのかもしれません。地図を通して世界をより深く多面的に理解したいですね」
防災安全

コレラが猛威をふるった19世紀半ばのロンドン。ある医師が試みに患者の居住地を1キロ四方の地図にポイントしていくと、ポンプ井戸の周辺に集中していることが分かった。当時はコレラ菌の知識はなかったが、どうやらその水が原因らしいと人々を説得できたのである。

これが近代疫学の始まりなのだが、中谷友樹はさらに統計学や数理モデル、科学的視覚化に関する各種分析手法を駆使して、病気、犯罪、そして災害などの地域差を目に見えるものとする新しい「地図」を提案してきた。

「たとえばがんの死亡率ですが、単に統計資料を地図にしても見えるものは限られています。そこで、市町村の人口規模に比例したカルトグラムをいう特殊な地図を作ってみると、大都市圏が大きく描かれ、その内部に大きな健康格差があることが明らかになります。大都市の中に社会格差と関係して健康な街と不健康な街があるのです」

犯罪も同様に地域性があり、中谷は京都府警に報告されたひったくり件数を調べて多発地帯を調査した。京都駅前や繁華街は想定内だが、郊外にも多発地帯があり、しかも発生率が一定でなく変化するというのだ。

「これは平面的な地図では理解できません。そこで時間軸を加えた3次元にしてみると、半年おきに2つの街でひったくりの件数が対称的に増減しています。一見離れた街でもバイクがあれば移動は簡単です。つまり、ある街で取り締まりが強化されると、今度は別の街に移動する、これを交互に繰り返していると推定できます。このことから、防犯対策は個別でなく、2つの街が連携して実施しないと効果がないと分かるわけです。既存のデータを洗って分析して読み解くだけで、様々なことが見えてくるようになります」

こう語る中谷がいま取り組んでいるのは、東日本大震災で被害を受けた東北各県の文化財に関するデータベースの構築と、防災への活用だ。

「すでに京都府では統合型GIS(地理情報システム)を持っており、これを利用すれば災害発生に備えて文化財の情報を管理したり、被害のシミュレーションが可能です。東北での経験をふまえて文化財を含むリスク評価の地図を考えてみたい。健康、防犯、防災に役立つ一目瞭然の様々なリスクマップによって、安全と安心に寄与することが目標です」

AERA 2012年1月16日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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