2012年2月13日更新

自然災害の予防と復興に寄与する「リスク経済工学」

谷口 仁士
立命館グローバル・イノベーション研究機構教授
谷口 仁士(立命館グローバル・イノベーション研究機構教授)
工学博士。1950年福井県生まれ。1977年愛知工業大学大学院修士課程修了。ハワイ大学地球物理学研究所、国際連合地域開発センター、理化学研究所地震防災フロンティア研究センター、名古屋工業大学大学院教授を経て2009年から立命館大学で現職。地震工学からスタートしたが、今では経済学、社会学まで網羅した学際的な防災・復興・安全システムを専門分野とする。「1995年の阪神・淡路大震災で地震経済学が提唱されました。以前から興味はあったのですが、コレだという感覚で工学的視点と経済的な視点の融合に取り組んできました」
防災安全

たとえば歴史文化都市・京都には年間で約5000万人の観光客がやってくる。それで消費する金額は約6500億円にものぼるという。「観光客を呼び寄せるのは文化財ですから、寺社を含めて京都はそれだけの経済価値を保有しているわけです」と谷口仁士は語り始めた。

「しかし、地震などの激甚な自然災害を受けて復旧となると、こうした文化財は後回しが普通。ただし、それも迅速な復旧対象にしないと、今度は経済復興が遅滞することになります。だったら、防災の一環として予め経済損失をしっかり計算しておき、そこから最適な方法論を詰めていけばいいというのが僕の基本的な考え方なのです」

谷口は地震工学、構造工学、地質学など理系の専門家だが、経済学や社会学なども駆使して学際的に防災と復旧・復興に取り組んできた。

「今度の東日本大震災でも、津波の影響を避けて高台への移転が議論されていますが、これまでの経験では数十年もたてば低地にまた市街地が形成されます。そうなる前に、高台に移転したケースと低地の被害を比べて経済損失をシミュレーションできれば、その計画の有効性が数字として客観的に証明できるわけです」

そこで谷口が対象として分析を開始したのは、岩手県大船渡市だ。同市を含む三陸海岸は過去に何度も大きな津波に遭遇している。特に1960年のチリ津波の時の復興計画に従って高台に移転した地域がある一方で、今度の津波では低地の住宅街が被災してしまった。この2つの地域の直接的・間接的な経済損失を比較しようとする、これまでになかった試みだ。

「阪神・淡路大震災では神戸市の経済が震災以前に戻るまでに10年がかり。当初2年は復興投資で活発化しても以後は息切れ。また、震災後は製造業が減少してソフト・サービス産業が増加しています。大船渡市はこのような変化はないと考えられるので、様々なシミュレーションに応用できるデータが得られると思います。これからは人命はもちろんですが、産業インフラの防災という視点が不可欠。京都なら歴史性、文化性、経済性を過不足なくトータルで守ること。その計画策定に僕の『リスク経済工学』で寄与したいですね」

AERA 2012年2月13日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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